第35話 妨害工作
文字数 1,700文字
「このままで国民が国王の味方になってしまう。折角のクローンの利益も飛んでしまうぞ!」
バレスタインの怒りは収まらない。
「しかし、国王の演説を中止したりしたら、それこそ政府不信が広がり支持率が下がってしまいます」
ゴーランは鎮めに入る。
「うむむむ」
バレスタインは冷静になるように努め、考えを巡らせた。
「そうだ! ガハルよ」
「は! なんでございましょうか」
「戦死者の遺族たちの団体に陰ながら応援し、活動資金を提供し、クローン兵の使用を止めるな運動を起こさせるのだ!」
「それは、良い考えでございます。早速、手配いたします」
と足早にガハルは出て行った。
「マシュロンよ。この事態、どうするか」
バレスタインが問う。
「人は一旦手に入れた便利さを、そう簡単に手放せません。家政婦の方も頭ではわかっていても実際に手放せるかどうか。そんなことができるのは少数だと考えます。大丈夫です!」
「おぉ! 確かにな。マシュロンよ。お前の言う通りだ」
バレスタインの機嫌が良くなった。
「まぁ、戦死者遺族はクローンが居れば夫は死なずに済んだかも知れないと賛同して運動を起こすだろう。今はそれで良い。お前の研究も進んでいるようだからな。王には、このまま好きにさせてやろう」
自信一杯であった。
*
翌月になり、お父様の毎月のご法話の日となった。
今月は何と5万人と倍増した。
あの奇跡を目撃した国民が衝撃を受けたのは間違いない。
その日のご法話も無事終わり、質問状への回答を3つほどして解散となった。
会場には難病の子供を連れた親子は数組、私たちのところにきた。
「是非、王様に私の子の病気を治していただきたいのです。ご無礼は承知でございます。どうか、どうか! 王様お願いいたします」
どの親も頭を地面にこすりつけ懇願してきた。
お父様も少々困ったお顔をされたが、1人1人に対応されることにしたようだ。
どの子供にも、トート神への信仰を問いかける。
そして、すべての子が、「はい。心から信じます」と答えた。
しかし1組だけ、難病が治らなかった。
その母親は、
「王様、何故私の子だけ病気を治してくださらなかったのですか!」
と怒り出した。
お父様は残念そうなお顔になり、
「貴方がこの子の母親なのですね。貴方自身はトート神への信仰をお持ちですか? 私には貴方の家庭にクローンの家政婦がいるのは視える」
母親は、言葉に詰まった。
「‥‥確かに家政婦を買いました。でも子供を治すことは別ではないですか!」
と反論する。
「私は他の子供たちと分け隔てなくトート神への祈りを施した。だが、その癒しの光を受け入れるには人の信仰心という糸がなければ癒しの光が伝わらないのだよ。貴方は、この子に神なんていないとずっと教育してきたのであろう。残念だが私にはすべてが分かる。視えるのだよ」
母親は黙って聞いている。
「これからでも遅くはない。人は過ちを犯すものだ。これからトート神への信仰を持って生きたならば、また私のところにくると良い。その時はまた祈りを捧げてあげよう」
そう優しく諭すように伝えた。
母親は子供を連れ、肩を落とし帰っていった。
他の親子から、感謝の声が聞こえる。
『お父様も治してさしあげたかったに違いない。しかし現実には受け入れる側にその資格がないと治してさしあげたくても治せないのだ』
そのような現実を目の前にした瞬間だった。
*
それからほどなく、戦死者遺族の会がクローン兵の増強を求め運動を起こし始めた。
皆、それぞれに、
”クローン兵がいれば夫は助かったのかも知れない。この悲劇を止めるためにもクローン兵は必要です”
”次には、あなたの夫も同じ目に! あなたの家族にも悲劇が襲ってきます!”
などのタスキやプラカードを掲げ、デモ運動を盛んに起こすようになった。
「くっくっく。思った通りだ! 簡単に反対運動を起こしたぞ。それも積極的にだ」
満面の笑顔であった。
「家政婦の方も、一刻売れなくなったり返品があったりと大変であったが時間が経過すると売上も回復してきた。マシュロンの言う通りであったわ。はっはっは」
宰相室に、下品な笑い声が響いた。
バレスタインの怒りは収まらない。
「しかし、国王の演説を中止したりしたら、それこそ政府不信が広がり支持率が下がってしまいます」
ゴーランは鎮めに入る。
「うむむむ」
バレスタインは冷静になるように努め、考えを巡らせた。
「そうだ! ガハルよ」
「は! なんでございましょうか」
「戦死者の遺族たちの団体に陰ながら応援し、活動資金を提供し、クローン兵の使用を止めるな運動を起こさせるのだ!」
「それは、良い考えでございます。早速、手配いたします」
と足早にガハルは出て行った。
「マシュロンよ。この事態、どうするか」
バレスタインが問う。
「人は一旦手に入れた便利さを、そう簡単に手放せません。家政婦の方も頭ではわかっていても実際に手放せるかどうか。そんなことができるのは少数だと考えます。大丈夫です!」
「おぉ! 確かにな。マシュロンよ。お前の言う通りだ」
バレスタインの機嫌が良くなった。
「まぁ、戦死者遺族はクローンが居れば夫は死なずに済んだかも知れないと賛同して運動を起こすだろう。今はそれで良い。お前の研究も進んでいるようだからな。王には、このまま好きにさせてやろう」
自信一杯であった。
*
翌月になり、お父様の毎月のご法話の日となった。
今月は何と5万人と倍増した。
あの奇跡を目撃した国民が衝撃を受けたのは間違いない。
その日のご法話も無事終わり、質問状への回答を3つほどして解散となった。
会場には難病の子供を連れた親子は数組、私たちのところにきた。
「是非、王様に私の子の病気を治していただきたいのです。ご無礼は承知でございます。どうか、どうか! 王様お願いいたします」
どの親も頭を地面にこすりつけ懇願してきた。
お父様も少々困ったお顔をされたが、1人1人に対応されることにしたようだ。
どの子供にも、トート神への信仰を問いかける。
そして、すべての子が、「はい。心から信じます」と答えた。
しかし1組だけ、難病が治らなかった。
その母親は、
「王様、何故私の子だけ病気を治してくださらなかったのですか!」
と怒り出した。
お父様は残念そうなお顔になり、
「貴方がこの子の母親なのですね。貴方自身はトート神への信仰をお持ちですか? 私には貴方の家庭にクローンの家政婦がいるのは視える」
母親は、言葉に詰まった。
「‥‥確かに家政婦を買いました。でも子供を治すことは別ではないですか!」
と反論する。
「私は他の子供たちと分け隔てなくトート神への祈りを施した。だが、その癒しの光を受け入れるには人の信仰心という糸がなければ癒しの光が伝わらないのだよ。貴方は、この子に神なんていないとずっと教育してきたのであろう。残念だが私にはすべてが分かる。視えるのだよ」
母親は黙って聞いている。
「これからでも遅くはない。人は過ちを犯すものだ。これからトート神への信仰を持って生きたならば、また私のところにくると良い。その時はまた祈りを捧げてあげよう」
そう優しく諭すように伝えた。
母親は子供を連れ、肩を落とし帰っていった。
他の親子から、感謝の声が聞こえる。
『お父様も治してさしあげたかったに違いない。しかし現実には受け入れる側にその資格がないと治してさしあげたくても治せないのだ』
そのような現実を目の前にした瞬間だった。
*
それからほどなく、戦死者遺族の会がクローン兵の増強を求め運動を起こし始めた。
皆、それぞれに、
”クローン兵がいれば夫は助かったのかも知れない。この悲劇を止めるためにもクローン兵は必要です”
”次には、あなたの夫も同じ目に! あなたの家族にも悲劇が襲ってきます!”
などのタスキやプラカードを掲げ、デモ運動を盛んに起こすようになった。
「くっくっく。思った通りだ! 簡単に反対運動を起こしたぞ。それも積極的にだ」
満面の笑顔であった。
「家政婦の方も、一刻売れなくなったり返品があったりと大変であったが時間が経過すると売上も回復してきた。マシュロンの言う通りであったわ。はっはっは」
宰相室に、下品な笑い声が響いた。