第36話 各国の思惑

文字数 1,883文字

「思惑通りにクローン兵の戦場投入への非難の声が静かになってきたぞ」
 バレスタインはご機嫌だった。

「それでも先日の王の説法では、7万人に増えたというではないか」
 と今度は面白くなさそうにゴーランに愚痴をこぼす。

「そうですな。やはり眼前やスクリーンで王の起こす奇跡といいましょうか、ペテン治療に騙されて集まる国民が増えてしまいました」
 そうゴーランは答えた。

 (あご)を撫でながら、バレスタインは思考を巡らせた。
「良いことを思いついたぞ! ゴーラン、王の奇跡、いやペテンに騙されて病気が治らなかった家族に連絡をするのだ」

「は! いかように?」

「この度は国家の象徴である王がでしゃばって過ぎたことをして、不快な思いをさせてしまい、バレスタイン宰相が心を痛めていらっしゃる」

「なるほど、続きをお聞かせください」

「お詫びと誠意を込めてご家族の治療には、アトランティスで一番高度な医療施設をご紹介いたします。治療費も政府で負担しますので、ご安心ください。ご家族の治療に全力を尽くします。と」

「おぉ! 良い考えですな! しかし予算は如何いたしますか?」

「そんなのは軍事費の中から捻出すれば良い。私が取り計らう。軍事費の詳細など公開したら敵国に情報が伝わる。そんなバカなことはできないのは常識だ」

「さすが、バレスタイン様です」

「あと、そうだな。王に治してもらえなかった家族団体を結成させ、うまーく王の奇跡はペテンだったと運動を起こさせるのだ」

「クローン兵に続いて、そちらも攻めますか! 流石でございます」

「こういうことは早めに潰しておかないとな、裸の王様だと思って甘く見ていたが現に7万人も集める力を持っている。これは脅威だ」

「そうですな」

「被害者家族も政府の手厚い治療支援に恩を感じるだろう。きっと乗ってくるぞ」

「ははー! 早速、工作に回ります」

「ふふふ。あっはははははは」
 バレスタインの笑い声はいつまでも止まなかった。



 ここは西国のレッドキャニオン王国。
 テスタロッサ王は、目の前の科学技術長のゴーテスに問いかけた。

「そちの方から報告が上がってこないが、科学技術の開発の方はどうなっている」
 その声には怒気がこもっていた。

 ゴーテスは額を地面にこすりつけ、
「はい。太陽光発電は何とか開発できました。アトランティスと違いパネル式ではございますが‥‥」

 王は機嫌が良くなり、
「そこまで進んだのに何故、報告しなかったのだ? そんな恰好で何かあるのか?」

「はい。正直に申し上げますと、太陽が出ているときには発電できますが、アトランティスのように増幅機能はございません。現在、エネルギーが蓄積できるような物を開発しておりますが、どうやって増幅するのかがサッパリわからないのです」
 と答えた。

「なるほど、そういうことか。うーむ」
 しばらくテスタロッサ王は考えた。

「良し! 現状は理解した。いきなりアトランティスと同等にもっていくのは無理だろう。そこまで研究したのだ。まずは良くやったと褒めておこう」

「な、なんと! テスタロッサ王よ。尊大なお心に感謝申し上げます。このゴーテス、今後も王への忠誠と科学の発展に全力を尽くします!」
 と涙を流しながら伝えた。

「実際、アトランティスはグリーンラッド王国との戦で手一杯で、我が国への敵意は今のところない。将来への用心、抑止力のためなのだ。まだ時間はある。頼むぞ!」

「ははー」



 今度は、そのグリーンラッド王国。
 ラグナロク王は、正直困っていた。
「クロスボウ部隊を投入し、アトランティスの小人どもに大ダメージは与えたが結局は敗戦であった」

「申し訳ございません」
 トールがひれ伏す。

「なんだ? 今度は同じ顔、体格の兵士がごろごろいたと言うではないか?」

「はい。その通りでございます」

「奴らはアトランティス人のコピーでも造れるようになったのか?」

「そうとしか考えれません」

「しかし、次から次へと良く小細工をする国だな。正々堂々と力対力で戦えないのか?」
 と馬鹿にした様子で話をする。

「奴らは小人ですから、一生懸命小細工をしているのでしょう。力では我が国に勝てないのですから」

「まぁ、もっともなことではあるな。しかし戦の回数が減っており、血の気の多い兵士どもはストレスが溜まっているぞ。そろそろ侵攻したいところだな」

「小人どものコピーは非常に弱いです。しかし折角のクロスボウ部隊の盾にされてしまい厄介です」

「そうであるな。もう少し編成と作戦を考えてから侵攻するとしよう」

「はい! そういたしましょう!」

 こうして次の侵攻まで、しばらく日数を要することになった。
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登場人物紹介

アトランティス王家最後の第二王女で、本作の主人公

ラムディア・ラァ・アトランティック

「皆さま、どうかアトランティスの悲劇を現文明で繰り返さないようお願いします」

アカシック王

アトランティス滅亡を防ぐため降臨した救世主(メシア)

「愛とは奪うものではなく与えるものである。爽やかに吹き渡る風のように」

「創造神は人に完全なる自由を与えた。しかし自由には責任が伴うのだ」

後世、イエス・キリストとして降臨する。

アモン(第一王子)

アカシック王の後継者。

アカシック王の第一子。

性格は温厚で優しく、遠視や未来を視る能力を持つ。

重要な役割を負うことになる。

ラファティア(第一王女)

アカシック王の2番目の子で、巫女を務める。

能力が高く結界の守護者。

性格は早くに亡くなった母のように母性の高く思いやりに満ちている。

アーク(第二王子)

アカシック王の3番目の子で、近衛隊長を務める。

性格は正義感が強いが、気性が少し荒い。

曲がったことが嫌い。

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