第49話 アチ地区陥落
文字数 2,110文字
ラーゼは前線で首都から来た兵士と共に奮闘していた。
「みんな! 聞いてくれ! これは負け戦だ。全滅は目に見えている。クローン兵が時間を稼いでいる間に飛行船で、なければ拠点から更に南へ逃げるのだ。急げ!」
移動しながら戦い、周りの兵にそう進言する。
「しかし、ガフェイ指令の命令です。命令違反は軍法会議ものですぞ!」
そういって命令を遂行して逃げる者は少なかった。
『それでも、少しでも逃がすことができれば反撃時の戦力になる』
そう信じて移動しながら通信機で兵士へ撤退の指示を出してまわった。
*
その通信を聞いていたガフェイが更に怒りを爆発させていた。
「あの野郎、命令違反だけでなく勝手に命令しやがって! 許せん」
「兵士に告ぐ、作戦は継続中だ。ここが踏ん張りどころなのだ。勇気を振り絞りアトランティスのために戦うのだ!」
そう追加で命令を下した。
そして自らは飛行船の近くまで逃げることに成功した。
『やれやれ、これで助かった。みんな悪いな。まぁ遺族への補償は叔父に頼んでしてやるから安心して戦死してこい』
と心の中で呟いた。
*
戦場では混乱が生じている。
自分たちと一緒に戦って撤退を言ってまわっているラーゼ殿の指示、姿がどこにもないガフェイ指令の命令。
どちらに従うのか‥‥
『元々、我らの上官はガフェイ指令だ。一緒に修練し首都からやって来たのだ。きっと考えがあるに違いない』
自分たちが見捨てられたとも知らず、ほとんどの者が撤退せず戦場に踏みとどまった。
ガフェイ指令を信じて‥‥
次第に逃げ出す者はいなくなり、勇気を奮い立たせて戦っていた。
ラーゼは、無念極まる心境だった。
『いいさ。俺は全滅するから逃げろと伝えた。あとは個々の判断だ。もう自己責任になる。だが俺も最後まで付き合うぞ!』
そう思い、クローン兵を盾に巨人を倒していった。
*
それから15分後、アトランティス軍は信じられない物を見た。
1機の飛行船が浮き上がり、戦場の上までやってきたのだ。
「あ‥‥あの飛行船は‥‥」
「あれはガフェイ指令の船ではないか!」
「指令! 我らを捨て駒にしたのか!」
愕然とした悲鳴に近い声が響く。
『所詮、最高司令官の甥というだけで昇進した小物だ。血族優遇‥‥なんと愚かなガハルなのだ。それに比べアーク王子、ラムディア姫は王族で戦場にくる必要もないのに身の危険を顧みず援軍にきてくださった』
そうつくづく思えた。
特にラムディア姫が、輝ける金色の髪をキラキラさせながら懸命に戦っていた姿が思い起こされる。
『本当に、勝利の女神だったな。姫様、どうかアトランティスの未来をお願いいたします』
そう思って戦い続けた。
まだ低空にいる飛行船から、ガフェイ指令の声が響いた。
「勇敢なるアトランティスの兵士の皆よ。よく戦ってくれて御礼を言う。遺族への補償はしっかりしてやるから安心するが良い。後は頼むぞ」
と言い残し高度を上げていく。
「くそー、騙された。俺たちはあいつが逃げるための時間稼ぎのために戦わされていたのか!」
「やっていられるか!」
「おい! 今からでも逃げるぞ!」
と声が飛び交うが、戦況はそれを許さない。
すでに巨人の兵たちに後方を塞がれてしまっていたのだ。
「こうなったら、やぶれかぶれだ!」
もう統率もチームワークもなかった。
ただ個人が必死に攻撃を避け、攻撃を仕掛け、なんとか逃げ出す隙を見出そうと必死になっているだけだった。
『もう、これで終わりだな。無念だが仲間を逃がすことはできた。それで良しとしよう』
ラーゼは、後方の敵に向かっていった。
逃げ出す者が1人でも多く逃げれるようにと願って。
すると後方、つまり前線の方から声があがった。
「おぉぉぉ!」
「自業自得だ。馬鹿な奴め」
「俺たちを生贄にした罰があたったのだ」
と声が聞こえた。
振り返ると、ガフェイ指令の乗った飛行船の上部 に無数のクロスボウが刺さっており撃墜され急降下している風景だった。
ちょうど上の方からアトランティス軍を攻撃しようと高場に移動していたクロスボウ部隊の射程内にいたのが運の尽きだった。
「バカな奴だ。折角、空中にいるというのにクロスボウの射程の低空にいるなど、まったく間抜けな奴め、いや運の悪い奴だ。飛行船を墜としたぞ!」
クロスボウ部隊の1人がそう叫んだ。
ガフェイの眼前には岩肌が急激に近づいてくる。
「うわぁぁぁ」
ガフェイの最後の断末魔を聞く者は機長と操縦士以外には誰もいなかった。
”ドカァァァーーーーーン”
ついに飛行船が墜落、爆発した。
ラーゼは、
『あんな余計なことを言わず、さっさと逃げれば良かったものを‥‥心底愚かな奴だ』
と思って前を向いた瞬間、巨人の槍が腹部を貫通していた。
大量の血が噴き出る。
「戦場で後方を向くなど甘い奴だ」
ラーゼの耳に巨人族の声が聞こえた。
『ぬかった! あ‥‥あとは頼みます』
その最後の脳裏には勝利の女神の姿が浮かんでいた。
ラーゼの死に顔は、満足気であった。
そして残された兵士も次々と倒されていき、一部は逃げおおせたもののほぼ全滅状態になった。
この戦をもって、アトランティスは北方のアチ地区拠点を失った。
「みんな! 聞いてくれ! これは負け戦だ。全滅は目に見えている。クローン兵が時間を稼いでいる間に飛行船で、なければ拠点から更に南へ逃げるのだ。急げ!」
移動しながら戦い、周りの兵にそう進言する。
「しかし、ガフェイ指令の命令です。命令違反は軍法会議ものですぞ!」
そういって命令を遂行して逃げる者は少なかった。
『それでも、少しでも逃がすことができれば反撃時の戦力になる』
そう信じて移動しながら通信機で兵士へ撤退の指示を出してまわった。
*
その通信を聞いていたガフェイが更に怒りを爆発させていた。
「あの野郎、命令違反だけでなく勝手に命令しやがって! 許せん」
「兵士に告ぐ、作戦は継続中だ。ここが踏ん張りどころなのだ。勇気を振り絞りアトランティスのために戦うのだ!」
そう追加で命令を下した。
そして自らは飛行船の近くまで逃げることに成功した。
『やれやれ、これで助かった。みんな悪いな。まぁ遺族への補償は叔父に頼んでしてやるから安心して戦死してこい』
と心の中で呟いた。
*
戦場では混乱が生じている。
自分たちと一緒に戦って撤退を言ってまわっているラーゼ殿の指示、姿がどこにもないガフェイ指令の命令。
どちらに従うのか‥‥
『元々、我らの上官はガフェイ指令だ。一緒に修練し首都からやって来たのだ。きっと考えがあるに違いない』
自分たちが見捨てられたとも知らず、ほとんどの者が撤退せず戦場に踏みとどまった。
ガフェイ指令を信じて‥‥
次第に逃げ出す者はいなくなり、勇気を奮い立たせて戦っていた。
ラーゼは、無念極まる心境だった。
『いいさ。俺は全滅するから逃げろと伝えた。あとは個々の判断だ。もう自己責任になる。だが俺も最後まで付き合うぞ!』
そう思い、クローン兵を盾に巨人を倒していった。
*
それから15分後、アトランティス軍は信じられない物を見た。
1機の飛行船が浮き上がり、戦場の上までやってきたのだ。
「あ‥‥あの飛行船は‥‥」
「あれはガフェイ指令の船ではないか!」
「指令! 我らを捨て駒にしたのか!」
愕然とした悲鳴に近い声が響く。
『所詮、最高司令官の甥というだけで昇進した小物だ。血族優遇‥‥なんと愚かなガハルなのだ。それに比べアーク王子、ラムディア姫は王族で戦場にくる必要もないのに身の危険を顧みず援軍にきてくださった』
そうつくづく思えた。
特にラムディア姫が、輝ける金色の髪をキラキラさせながら懸命に戦っていた姿が思い起こされる。
『本当に、勝利の女神だったな。姫様、どうかアトランティスの未来をお願いいたします』
そう思って戦い続けた。
まだ低空にいる飛行船から、ガフェイ指令の声が響いた。
「勇敢なるアトランティスの兵士の皆よ。よく戦ってくれて御礼を言う。遺族への補償はしっかりしてやるから安心するが良い。後は頼むぞ」
と言い残し高度を上げていく。
「くそー、騙された。俺たちはあいつが逃げるための時間稼ぎのために戦わされていたのか!」
「やっていられるか!」
「おい! 今からでも逃げるぞ!」
と声が飛び交うが、戦況はそれを許さない。
すでに巨人の兵たちに後方を塞がれてしまっていたのだ。
「こうなったら、やぶれかぶれだ!」
もう統率もチームワークもなかった。
ただ個人が必死に攻撃を避け、攻撃を仕掛け、なんとか逃げ出す隙を見出そうと必死になっているだけだった。
『もう、これで終わりだな。無念だが仲間を逃がすことはできた。それで良しとしよう』
ラーゼは、後方の敵に向かっていった。
逃げ出す者が1人でも多く逃げれるようにと願って。
すると後方、つまり前線の方から声があがった。
「おぉぉぉ!」
「自業自得だ。馬鹿な奴め」
「俺たちを生贄にした罰があたったのだ」
と声が聞こえた。
振り返ると、ガフェイ指令の乗った
ちょうど上の方からアトランティス軍を攻撃しようと高場に移動していたクロスボウ部隊の射程内にいたのが運の尽きだった。
「バカな奴だ。折角、空中にいるというのにクロスボウの射程の低空にいるなど、まったく間抜けな奴め、いや運の悪い奴だ。飛行船を墜としたぞ!」
クロスボウ部隊の1人がそう叫んだ。
ガフェイの眼前には岩肌が急激に近づいてくる。
「うわぁぁぁ」
ガフェイの最後の断末魔を聞く者は機長と操縦士以外には誰もいなかった。
”ドカァァァーーーーーン”
ついに飛行船が墜落、爆発した。
ラーゼは、
『あんな余計なことを言わず、さっさと逃げれば良かったものを‥‥心底愚かな奴だ』
と思って前を向いた瞬間、巨人の槍が腹部を貫通していた。
大量の血が噴き出る。
「戦場で後方を向くなど甘い奴だ」
ラーゼの耳に巨人族の声が聞こえた。
『ぬかった! あ‥‥あとは頼みます』
その最後の脳裏には勝利の女神の姿が浮かんでいた。
ラーゼの死に顔は、満足気であった。
そして残された兵士も次々と倒されていき、一部は逃げおおせたもののほぼ全滅状態になった。
この戦をもって、アトランティスは北方のアチ地区拠点を失った。