第13話 奇跡

文字数 1,883文字

 翌日9時30分になると修練場に向かった。
 アーク兄さまとシルバーに挨拶を済ませ、配下のところに向かった。

 もうみな来ていた。
 シャレムまで左腕にギブスをして来ていたのには驚いた。

「シャレム! あなたは怪我を治すことが先決よ。帰宅してね」
 と言うが、首を横に振った。

「ラムディア様、何も出来ないとは思いますが居させてください。お願いいたします」
 と真剣な目で訴えてきた。

「わかったわ。その代わり、午前中だけよ」

「かしこまりました」



 私の配下のみんなを集め、実戦の話をした。
 まず私が簡単に説明し、シャレムが感想を述べた。
 続いてシャレム隊からも、遠目から見ていたのを知っていたので話をさせた。

「え? 姫様、お気づきだったのですか?」

「シャレムをあんなタイミング良く迎えに来るのだから、見ていたのだろうって思っただけよ」

「あ!」

「自白しちゃったわね」
 と笑いかけてあげた。

 その後、シャレムが気絶した後の話は私からした。

 みな、それぞれの感想も言い合って、午前は終了となった。
「シャレム隊は、今日は私が訓練をするわよ」
 とだけ伝えておいた。



 実はお昼前に、私のところにお父様の使いの者が来ていたのだ。
 なんとお父様が修練場までおいでになっているとのことで、シャレムを連れてくるように伝言があった。
 シャレムにそれを伝え、一緒にお父様に居る部屋に向かった。

「王様が私に直接、お会いくださるなんて夢のようです。お叱りを受けることになっても、私は幸せです」
 と少し危ない言葉まで発していた。

 部屋の前まで来ると、護衛の者がドアの前からどいてくれた。
 ドアをノックし、
「お父様、ラムディアです。シャレムを連れて参りました」

「待っていたよ。入っておいで」
 と直ぐに返事が返ってきた。

 素直に中に入る。
 シャレムは凄い緊張していた。
 お父様がシャレムに向かって温かな笑顔で、
「シャレム。娘を助けてくれて、ありがとう。君がいなければ、最初から巨人とこの子は2:1で戦闘しなくてはならなかった。だから、ありがとう」

「いえ。勿体ないお言葉‥‥こちらこそ真っ先に気絶してしまい、姫様をお守りすることができませんでした」

「そんなことはない。最初から2:1だっから、この子は殺されていたよ」
 と言葉をかけていた。

 シャレムが感動して涙を流している。

「さぁ、シャレム。そこに横になりなさい」
 とベットに横たわるように指示をした。

「そんな失礼なことは出来ません」

「いいのだよ。さぁ早く」
 と慈愛に満ちた言霊だった。

「はい。それでは失礼いたします」
 とベットの上に仰向けになった。

 私も少し離れて、様子を見ていた。
 お父様は、シャレムに近づくと、

「シャレム。あなたは、トートの神を信じますか?」
 と問うたのだ。

 シャレムは迷いなく、
「はい。私はトート神を心から信じております」
 と返事をすると、お父様も満足げな表情となった。

 そして慈愛に満ちた顔に変わり、祈り始めた。
「我が先祖にして偉大なるトートの神よ。あなたの愛を癒しの力に変えこの者の怪我を癒したまえ」
 と、手で空を仰いだあとその手をシャレムの左腕にあてた。
 お父様の手から白い光が広がり、シャレムの左腕を包んだ。

「うん。もういいぞ」
 と言うと、シャレムから離れた。

 シャレムが不思議そうな顔をすると、何を思ったのかギブスを外し始めたのだ。
「シャレム、無茶しちゃダメよ」
 と声を掛けるが、気にせずそのまま外してしまった。

 そして、腕を普通に動かしているのだ。
 見ると、怪我の跡すらない!!

『え? 何が起こったの?』
 私は信じられないものを見てしまった。
 なんと怪我が完全に治るどころか、元の綺麗な肌に戻っているのだった。

「お父様‥‥今、起きたことは‥‥いったい何だったのでしょうか?」
 シャレムも同じ顔をしていた。

「この者が、心からトートの神への信仰を持っていた。だからトートの癒しの光がこの者の怪我を治したのだよ。もし口先だけの言葉だったなら、こうはならなかった」
 と満足気な顔をしていた。

「き‥‥奇跡です!!」
「奇跡だわ」
 と私とシャレムは同時に言葉を発していた。

「怪我は治ったがシャレム、今日は帰宅なさい」
 とお父様がシャレムに言葉をかけると退室していった。

 その後ろ姿に向けシャレムが、
「王様! 本当にありがとうございました。私は今後もこの命に代え王様を、ラムディア様を、アトランティスをお守りすることをお誓いいたします!」
 と涙を流しながら宣言した。

 お父様は振り返ると、
「よろしく頼むよ」
 とだけ言い残し、王宮に帰って行った。
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登場人物紹介

アトランティス王家最後の第二王女で、本作の主人公

ラムディア・ラァ・アトランティック

「皆さま、どうかアトランティスの悲劇を現文明で繰り返さないようお願いします」

アカシック王

アトランティス滅亡を防ぐため降臨した救世主(メシア)

「愛とは奪うものではなく与えるものである。爽やかに吹き渡る風のように」

「創造神は人に完全なる自由を与えた。しかし自由には責任が伴うのだ」

後世、イエス・キリストとして降臨する。

アモン(第一王子)

アカシック王の後継者。

アカシック王の第一子。

性格は温厚で優しく、遠視や未来を視る能力を持つ。

重要な役割を負うことになる。

ラファティア(第一王女)

アカシック王の2番目の子で、巫女を務める。

能力が高く結界の守護者。

性格は早くに亡くなった母のように母性の高く思いやりに満ちている。

アーク(第二王子)

アカシック王の3番目の子で、近衛隊長を務める。

性格は正義感が強いが、気性が少し荒い。

曲がったことが嫌い。

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