ペコちゃん

文字数 1,017文字

 以前のエピソードで、かぶちゃんがペコちゃんに攻撃しようとして、だけどかぶちゃんの手違いで私の手を噛んだ話をしました。
 それで、今度はそのペコちゃんと出会った日の話です。

 その頃私は、保健所で仕事をすることが多くありました。
 それで、とある保健所で午前中仕事して、昼休みになり、何となく背伸びがしたくて、それで保健所の中庭へ出ました。
 
 保健所って、なぜか綺麗な中庭のあることろが多いのです。
 タイルが敷いてあって、ベンチがあって、木が植えてあって。
 
 それで、そんな風景に、気まぐれ的に心魅かれた私は、そういうわけで、そこで背伸びをして、それからベンチにでも座って弁当を食べるか。
 そう思って中庭へとつながるドアを開け、一歩踏み出したら、

「みゃ~~~」

 その声はかすかに聞こえて来たのです。
 それで、私は操られるように、その声の方へと向かいました。
 すると小さな部屋があり、その中に無造作に網が、ドサッ!と投げ出すように置かれ、そして何と、その網の中に仔猫がいました。

 網の中ですよ!
 漁船で仔猫を海から釣りあげたってか?

 いやいや、網を使いとっ捕まえたみたいです。
 で、なぜとっ捕まえたかというと、通報があったからだそうです。
 子猫がみゃ~みゃ~言ってるって。

 そしてその仔は網から出ようして、もがいてもがいて、だけどもう疲れ切って、そして私を見ると、もう一度弱々しくみゃ~と鳴きました。
 だからさっき中庭で私が聞いたみゃ~は、その仔のSOSだったのです。

 その仔はふわふわの、クリーム色の長毛。

 ん? ラグドール?

 しかも例によって、何と! 殺処分予定。
 それも翌日!

 もうどうしようもないのです。
 そしてその日、私の家の猫は五匹となりました。


 その仔は最初、コペルニクスと名付けましたが、長たらしいのでコペちゃんにしました。
 だけどそのうちにひっくり返ってペコちゃんになり、それが定着しました。

 しかし考えてみると、あのとき私が保健所の中庭に心魅かれなかったら、そこで背伸びしようと思わなかったら、中庭へ出られるドアを開けなかったら、ペコちゃんのSOSのみゃ~は、決して聞こえなかったでしょうね。

  そしてこんな優雅な仔に育ちました。ふわふわです。

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