みー太郎迷子事件

文字数 2,057文字

 それからもちろん、みー太郎はとても懐いていました。
 猫部屋が本拠地だけど、時々人間スペースに出すと、もう、いつも私にくっついていました。
 私が小説を書いているときも、延々と(時には一晩中)膝に乗ってまん丸くなり、ずっと寝ていました。


 それからしばらくしたある日の夜、宅急便が来て、それで「みーちゃん待っててね」と言ってみー太郎をイスの上に置き、それからドアを開けたすきに、いつのまにか、みー太郎が出ていたようです。
 どうやら懐きすぎて、私を後追いしていたのでしょう。

 だけどそうとは知らず、それから私はドアを閉め、それでもちろん、みー太郎は締め出されてしまいました。
 それは一月のとても寒い時期。

 それから娘が「みーちゃんが外でうろうろしているよ」というので、あわてて庭に出てみると、みー太郎は外から猫部屋に続いた猫土間に入りたそうにしていますが、もちろん入れません。
 出られないようにしているのだから、入れるはずもありません。

 しかも猫部屋の猫たちは、猫土間からトレリス越に、「ウォ~~」とか「フ~~」とかいってみー太郎を威嚇しています。
 猫土間の仔たちはみー太郎を「よそ者」と勘違いしているのです。

 それでみー太郎はおろおろした様子で、うろうろしていました。
 だけど私がみー太郎にに近づくと、みー太郎は「しゃーっ」といって、私から逃げてしまいます。

 
 猫は環境が変わると、見える世界も激変するのです。
 だからあんなに私に懐いていたみー太郎も、一旦家の外に出ると、私のことが「得体の知れない恐ろしい人間」になってしまうのでしょう。

 しかもそこは得体の知れない恐ろしい世界です。
 だから呼んでも来ないし、近付くと逃げるし、もうどうしようもない。
 
 それで狭い場所へ追い込んで、何とか捕まえようとしたけれど、ぎりぎりですり抜けてしまい、それでもみー太郎を追いかけたのがいけなかった。
 そのうちにどんどんパニックのようになって、とうとう庭から外へ出てしまったのです。


 そうするとこれはもう、わかめ迷子事件と同様の対応しなければいけなくなってしまいました。
 また数十枚の写真付きビラを作り、500メートルくらいの範囲でそのビラを配って回りました。
 
 今回は、わかめのときよりも多く、捕獲器は3器体制。
 それで夜中も3時間おきに、懐中電灯を持ち、みー太郎のいそうな場所を点検して回りました。

 それにしても最悪の時期に迷子になったものです。
 一月の最も寒い時期。夜は氷点下。

 だけど希望の光は、みー太郎がかつて野良猫だったことです。
 そして、みー太郎が野良猫をやっていたのは、結構寒い、真冬は氷点下6度ほどにもなる地域だったのです。
 
 みー太郎は私に保護されて二年近く。
 毎日ぬくぬくと暮らしていたけれど、野良だった頃に身に着けていたであろう、寒さのしのぎ方を、きっとまだ覚えていて、どこかで寒さに耐えながら、生き延びていてくれるのではないだろうか…
 
 そう願いながら、何時間おきかにパトロールし、そしたら次の日の夜中に、わかめが迷子の時に登っていた、ガス基地の木の根元の近くを、みー太郎が歩いていました。
 もしかしてこのガス基地って、猫にとって「隠れ家」のようになっているのかも知れません。

 ただし、私が「みー」と呼んでも私の声を無視し、「困った困った」というオーラを全身で発散しながら、しばらくすたすたと歩き、それからそのまますたすたと、どこかへ行ってしまいました。

 とにかく猫は見知らぬ場所へ行ってしまうと、飼い主も何も分からなくなるらしいのです。
 とにかく、警戒心の塊です!

 それでその辺りに捕獲器を置き、残りの二つを私の家の玄関辺りと、車庫の中に置きました。
 みーちゃん入っておくれと願いながら…


 そしてその翌日の深夜、私がパトロールに出ようとすると、どこかから、かすかに猫の声がします。
 それで私は近所を見回りました。

 だけどみー太郎はいなくて、それから意気消沈して帰ってきたら、車庫の中から猫語で「困った困った」と言っている声がかすかに聞こえます。
 それでもしやと思い、捕獲器のところへ行ってみると、中で「困った困った」という猫語がはっきり聞こえました。

 それから懐中電灯で照らして見てみると、体の模様はみー太郎でした。
 そして捕獲器ごと家に入れ、明るい所に持って行くと、みー太郎と確認できました。

 良かった!

 それで教訓ですが、室内飼いの猫が外に出てしまったら、決して追いかけず、自然と帰ってくればいいけれど、さもなければ捕獲器を置いておくのが良いようです。

 とにかく猫が迷子になったときの対応法は、今回のみー太郎の話と、それから前に書いたわかめの話を参考にして下さい。




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