ブチ猫のミッキーに出てくる「おじいさん猫」の思い出

文字数 2,345文字

 私がその猫に出会ったのは、2004年の12月末でした。
 それは、以前の話に出てきたタバサが死んで、数日後のことです。
 おじいさん猫というのはもちろん老猫だからで、しかもほとんど目が見えません。

 その猫と出会ったいきさつはこうです。
 ある日私が、河川敷の狭い道をゆっくりと車で走っていると、私の前を、首輪を付けた白にキジの、いかにも老猫という感じの猫が、よたよたと道を横切り、それから道の端の草むらにうずくまりました。
 首輪をつけていたけれど、弱っていそうだし、迷い猫かなと思い、それで私は車を降りて、その猫に近づきました。

 そのとき私がその猫を見捨てなかったのは、数日前にタバサが死んだからかも知れません。
 どうやら私には、猫が死ぬと、次の猫のめんどうを見ようという習性があるように思います。
 あるいは、死んだ猫が私と次の猫を引き合わせているのかもしれない…


 さて、それからその猫をよく見てみると、雰囲気からは、どうやら飼い主に見捨てられたようでした。
 見捨てられてから、何日もさまよっていたのだと思います。

 それから私は、その老猫の首輪を外してみたけれど、飼い主の電話番号なんかは書いてなく、そしてその猫はひどく汚れていて、がりがりに痩せていて、多分このままじゃ何日かで死ぬだろうと思い、それで車に積んであった段ボールに入れ、それから車に乗せて連れて帰りました。

 そして獣医さんへ連れて行き、検査とかダニなんかの駆除をしてもらいました。
 だけど念のため、新聞に迷い猫の広告を出しました。
 見捨てられたと思ったけれど、もしかしたら、飼い主が心配して探しているかもしれないと思ったからです。

 そして新聞広告を見て、実際に猫を見に来てくれた人もいたけれど、「やっぱり違うねえ…」とかいって、とても残念そうに帰って行きました。
 とにかくそういういきさつののち、結局私が、その老猫を飼うことになりました。

 それで、その猫には何となく「レモン」という可愛らしい名前を付けました。
 私が付ける名前というのは、いつもインスピレーションで、とっさに付けたものばかりです。
 だけどなぜレモンとつけたのか、実はさっぱり覚えていません。

 ともかくそれから私は、レモンには日当たりのいい部屋を与えてあげました。
 ほとんど目が見えないとはいっても、光は分かるようで、よく日の当たる網戸の近くで、日向ぼっこをして一日をすごしていたようです。


 実はその頃、ミッキーはまだ私に懐いていません。
 私が「みゃ~お♪」とあいさつしても、逃げてばかりでした。

 そしてそんなある日。
 何とミッキーが、レモンのいる部屋の縁側に上り、日向ぼっこをしているレモンと網戸を挟んで座り、いかにも語り合っているようにしていました。
 そしてそういうことを、私は何度か目撃しました。
 彼らは本当に、何かを語り合っていたのでは?

 だけどそんなレモンは、2005の末ごろからどんどん衰弱し、年が明けるとほとんど動けなくなってしまいました。

 ところがレモンが死ぬ数日前、なぜか体調が良さそうで、いつもは動かないのになぜか立ちあがり、とことこと歩き、そして久しぶりに日差しが当たる網戸のところに座りました。
 そしてしばらくすると、何と縁側には、またしてもミッキーの姿がありました。

 彼らは最後の語らいをやっていたのではないのか…


 それから数日後の朝。
 レモンが亡くなる日の朝、私が行くと、レモンはあぐらをかいた私の膝の上に必死で登ろうとしました。

 だけどよたよたして、登れませんでした。
 猫は、普通なら1メートルくらいの高さだって、ぴょんと飛び乗れるはずです。
 だけどレモンは、そのときわずか10センチやそこらの段差を上がれないほど衰弱していたのです。

 それで私はお尻を押してあげ、膝の上に乗せてあげました。
 するとレモンはゴロゴロいいながらふみふみをしました。
 それは最後のふみふみです。

 
 それから私は仕事へ行くことにして、レモンを段ボールに入れてあげ、寒くないよう体に毛布を巻いてあげ、頭をなでてあげました。

 もうこの仔とは、お別れだな…
 そのとき私は、そう悟りました。

 そして昼休みに帰ってきたら、レモンは段ボールの中で冷たくなっていました。
 それから私は、レモンを宿舎の庭に埋めました。


 それ以来、狂暴だったミッキーは、徐々に私に懐いていきます。
 縁側の網戸を挟み、きっと語り合っていた二匹。

 狂暴だったミッキーは、きっと人間嫌いだったはずです。
 だけどレモンの話を聞き、「悪くない人間もいるらしい」と知り、それから私に懐いたのかもしれない…

 そしてそのレモンを引き取ったのはタバサが死んだ直後。
 死んだ直後だから、私の心がナイーブで、だからレモンを見捨てなかった。

 もしそうだとすれば、タバサが天国で私の心を操り、私とレモンを結びつけ、そして結果として、私とミッキーをも結びつけたのではないのか…

 今でも私は、勝手に想像しています。

 レモンが死んで私がレモンを庭に埋めたあと、しばらくしてその場所にミッキーの姿がありました。きっとお別れをしていたのだと、私は思っています。
  私が想像で書いた若き日のレモンちゃん




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