観音様になったブチ猫のミッキー

文字数 1,282文字

 タバちゃんの闘病生活で、毎日猫缶に貧血の薬を混ぜて与えていました。
 だけどある日、突然タバがこの世を去って、それで猫缶が何個か残ってしまったのです。

 それらは猫部屋のみんなにおすそ分けしたのですが、最後のひと缶を少しだけ残し、そのとき一匹暮らしのハナビ君のところへ持って行きました。
 グルメのハナビ君、食べるかなと思ったら、珍しくぱくぱくと食べてくれました。

 ハナビ君は、タバちゃんが死んですぐにうちへやってきて、タバちゃんのあとつぎみたいな存在だったから、タバちゃんの「食べ残し」を食べて欲しかった、という思いも、私にはありました。
 
 それで、ハナビ君がそれを食べ終え、私はしばらくハナビ君と遊び、それから部屋でごろんと横になり、そしていつのまにか、私はうたた寝をしていました。



 すると私は、古い道を歩いていた
 古い石畳の道
 その道の左側に小さな水路があり、その向こうにはコケの生えた古い石垣
 
 水路には、たくさんの魚が泳いでいた
 そしてその石垣の上には、緑の木々が生い茂っていた
 五月の緑の、美しい木々
 
 そして道の右側にも緑の木々があり、そこは緑のトンネルになっていた
 私はその緑のトンネルを歩き続けた 
 時々、道のわきに祠があり、お地蔵さんもいた


 その道は、美しく延々と続いていた
 そしていつのまにか、その道は坂になり、両側は石垣になった
 その石垣の上にも五月の木々が美しく生い茂り、遠くに鯉のぼりが見えた

 そして私がその石畳の坂をのぼりつめると、そこには真っ赤な鳥居があった
 そしてその鳥居をくぐると、そこからきれいな神社が見えた


 と、そのとき、そよそよと風が吹き始めた
 心地よい、五月の風

 そしてその風に、神社の屋根にあった風車が、ゆっくりと回り始めた
 かんからかんからと、音を立てながら
 
 そしてその風車をよく見ると、中で一緒に回っていたのは観音様
 しかもその観音様は、何と、ミッキーだった

 ミッキーは観音様になったんだ!
 私は思った
 そう思うと、とても嬉しかった
 
 ミッキーと別れて、とても寂しかったけれど
 とても辛かったけれど
 だけどこんな素敵な場所で、ミッキーは観音様になっていたんだ!

 そう思うと、なぜかほっとした
 ミッキーが観音様になったのなら、もう心配はない
 私はもう、ミッキーのことを心配する必要はない 
 ミッキーはきっと、幸せでいるにちがいない!

 それは不思議な、私の「確信」だった
 そしてそれは、私の心の隙間を埋めてくれた
 ほんとうに嬉しかった
 


 と、そのとき、私は夢から覚めました。
 するとまだ、かんからかんからと、その風車の音がしていました。
 
 その音はハナビ君が、空っぽになった猫缶で遊んでいる音でした。
 ハナビ君がその猫缶を、かんからかんからと、転がしていたのでした。

 ミッキーが猫の星に帰ったのが2012年。
 そしてその年に生まれたはハナビ君は、私に素敵な夢を見せてくれました。


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