ハナビ君との出会い、そして

文字数 3,417文字

 猫のハナビ君が毎日のように吐き始めたのは、2017年の10月頃でした。
 ハナビ君が私の所へ来て、3年半ほど過ぎていました。 

 猫を多頭飼いしている私の所で、訳あって一匹暮らしをしています。
 茶トラに白の男の仔。


 以前から、ハナビ君の所へ行くのが、つまり餌をあげるのが少々遅れると、(たぶんすねて)吐いてしまっていることはありました。
 そしてときどき吐くくらいなら、たいていのは猫は、毛げろとか草を食べたとか、いろいろ吐くこともあるので、そんなに心配はしてはいなかったのです。



 ハナビ君は仔猫のころ保護され、そのときすでに、猫カゼで左目をひどく傷めていたそうです。
 それから保護施設で飼育され、獣医さんで予防注射や去勢手術と同時に、左目の摘出手術を受けています。

 だからハナビ君には右目しかありません。
 だけど残された右目だけでも、もちろんとても元気で、何かに飛び乗るのだって全く問題ないようで、高い所にも正確に、ぴょんと飛び乗ることも出来ます。

             これは里親募集時のハナビ君の写真


       元々人懐こくて、それで保護施設の猫カフェでも人気者でした。

 そして私がその猫カフェへ行くと、ハナビ君はいつのまにか私の膝に乗って、一つの目をつぶって、気持ちよさそうに、いつまでもじっとしていました。
 だからきっとハナビ君は、私のことがお気に入りだったのでしょう。



 それからしばらくして、私の所の猫が一匹、天国へと旅立ち、それで私は一匹面倒を見ようと思い、再びその猫の保護施設へと向かいました。

 ペットが死んだら、もう悲しくて悲しくて悲しくて、それでしばらくは喪に服す…
 そう考える人は多いと思います。

 とくに一匹だけのペットで、しかもそれが初めてのペットだったりすると、もう悲しくて悲しくて、そして、「もう二度とペットは飼わない」と考える人も多いし、実際もう二度と飼わない人も多いようです。
 もちろんそのような考え方について、私はとやかく言うつもりは毛頭ありません。


 だけど私は、まがりなりにも猫の里親をやっているつもりだし、だから猫の多頭飼いをやっているし、それで、私の所にいる仔が天寿を全うしたなら、里親になってくれと首を長くして待っている仔たちのことを思うと、可能な限り受け入れようと思っています。


 だいたい私が受け入れる仔は、行き場のない仔や、殺処分予定の仔です。
 あるいは、私が一匹引き取ったなら、保護施設に「空席」ができるのだから、それでその施設で保護できる仔が一匹増えます。
 そんな考えで、私は可能な限りの仔を受け入れることにしています。

 もちろん無制限ではなく、定員は決めています。
 5匹です。(ただし現在7匹)


 最近、多頭飼い崩壊なんて言葉を耳にします。
 だから私なりに、「定員」を決めているつもりです。
 そうすると、現在の収容猫数は、定員の140パーセントということになりますが…



 話が逸れました。
 ちなみに私は、今後も時々話を逸らすので、どうかご承知おきください。

 それで、ハナビ君がうちへ来る前日に天国へと旅立ったのは、タバという仔でした。
 だけどその仔については、今はまだ話を逸らさず、次の話で述べるつもりです。

 もちろんタバが死んだことが、悲しくなかったという訳では、まったくないのです。
 いや、絶対に、絶対に、ありません! 

 出来る事ならもう一度、タバちゃんに逢いたいです。
 抱っこしたいです。

 だけど私は、タバが死んだ悲しみを乗り越えて、次の仔を、次の行き場のない仔を面倒見ようと思っただけなのです。


 それで、「結果的に」保護施設からハナビ君を迎え入れることになったその日、私はその保護施設から、いろんな仔の中で、アゴちゃんというサビ猫を引き取ると決めまていました。
 サビ猫は賢いらしいし、それで一度飼ってみたかったのです。

 実は、こういうときには私も、多少はわがままを言わせてもらっています。
 多少なりとも猫が「選べる」のであれば。

 それが、仔猫が「みゃ~おみゃ~おみゃ~お♪」と押しかけてきたときなんかは、「選ぶ」どころではありませんし。

 それで、もちろんハナビ君のことも気になったけれど、その時の私の心のどこかに、
「五体満足な猫を」
 という、とても邪悪な心があったのだと思います。

 つまり片目を失っていたハナビ君を、心のどこかで除外していた自分が、きっといたのだろうと思っています。
(そんな自分はとても嫌いです)

 ともあれ、それから五体満足なアゴちゃんを引き取ると決め、猫カフェの人に「終生責任を持って飼育する事を誓います」と書いてある書類にサインをし、猫の名という覧に「アゴ」と書きました。

 それからアゴちゃんを抱きかかえ、私が持って来たバスケットを見たら、何とすでにハナビ君が勝手に入っていたのです。

 それで、「ハナビ君じゃないんだよ。ごめんね」と言いながら、バスケットからハナビ君を出そうとしたら、ハナビ君はバスケットにしがみついていて、てこでも動きません。

 そしてハナビ君を抱え上げたら、バスケットも一緒に持ち上がってしまいました。
 もうどうしようもない。

 それで私は、(ああ、この仔はどうしても私の所に来たいのだろうか…)、そう思い、そしてきっぱりと決心し、それからさっき書いた書類の、猫の名の覧の「アゴ」という名を二本線で消し、その下に「ハナビ」と書き直しました。

 それにしてもハナビ君は、「五体満足な仔を」という私の邪悪な心を、そのたった一つの目で、見透かしていたのでしょうか?



 そして私は、バスケットに入ったままのハナビ君を連れて家へ帰りました。
 そのときハナビ君は生後2年ほど。

 それから私の所の先住猫たちにあいさつさせ、だけど最初は網戸でしきって、それから慣れたところで徐々にいっしょにする。
 とにかくそういう段取りでした。

 実際ハナビ君は、数日後いっしょにすると、すぐに自分の乗る箱を見付け、つまり自分の定位置を決め、うまくやっているかに見えました。

 だけどそれからすぐに、先住猫の一匹が、ハナビ君にしゃーと突っかかり、それにハナビ君が応戦して、もしかするとその「しゃ~」の言い方が、ハナビ君の逆鱗に触れたのかもしれません。

 とにかくそれからもう、わ~~わ~~わ~~と大騒ぎとなり、大変なことになりました。

 それで、みんなで猫缶を食べるなどの「猫親睦の会」なんかも再々やってみたのですが、食べ終わるや否や、また、わ~~わ~~わ~~となり、そういうわけで、結局ハナビ君は一匹暮らしになりました。


 猫カフェでは他の猫とうまくやっていたのに…
 だけど仕方がない。

 それでハナビ君にあてがったのは、二階の西側の部屋でした。
 夏はとても暑くなる部屋なので、わざわざエアコンを付けました。

 しかし考えてみると、ペットショップから上等な血統書付の純血種の猫を、何十万も払って買う人もいるくらいですから、それに比べれば、6畳間用の一番安いエアコンですから…と、私は自分に言い聞かせました。


 そういう訳で、とにかくハナビ君は一匹暮らし。
 だけど私には猛烈に懐きました。

 それから私は毎日、最低二回はハナビ君のところへ行き、餌をやり水を換えトイレを綺麗にしました。

 実はハナビ君は「みゃー」とは鳴きません。
 まるで小鳥にように、「ぴー」と言います。
 不思議な声を出す仔です。

 それで、私が行くのが少しでも遅れると、「ぴーぴーぴー」と、二階から不思議な不満そうな声が聞こえてきます。

 そして私が行くと「ぴろろろろっ」と、嬉しそうに、小鳥のように鳴きます。
 そしてすりすりしてふみふみして…


 それから数年後、私がハナビ君のところへ行くのが遅れると、時々ハナビ君は吐くようになりました。
 こぽっこぽっこぽっといい始め、がばっと吐きました
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