ハナビ君を救うために

文字数 3,387文字

 実は、ハナビ君は結構なグルメなのです。
 フードだってかりかりは決まっていたし、(他のフードは絶対食べない)そして水はほとんど飲まない。

 だけど水道水は美味しくないのかなぁなんて考え、試しに軟水のミレラルウォーターを与えてみました。
 すると、いぶかしげな顔で水のにおいを嗅いでから、ちょっとだけ、ぺろぺろとなめました。


 それで様子を見ていると、気が向いたときにときどき、水をぺろぺろとなめていました。
 それで、水の量を測ってみると、一日で20ccほど飲んでくれているようでした。

 やっぱりこの仔は相当なグルメです。
 水道水はダメ! ミネラルウォーターは少しくらいなら…

 ともあれこれで、皮下点滴は1日60ccに減らすことが出来ました。
 合計で80ccになりますから。


 でも、口からもっとたくさんの水を飲んでくれれば、皮下点滴が減らせる。そして皮下点滴休みの日とか、できたら一日おきとかになったらいいな♪

 そう考えて、それで、水をたくさん飲めるようなフードとして、尿路結石の治療のためのフードを与えてみました。

 これは塩分が少し多くて、水が飲みたくなるというからくりがあるのです。
 腎不全のハナビ君には本末転倒かもしれないけれど。


 それで試しに与えてみると、フードを少し食べてから、「これ違う!」と、厳しい顔をして、そしてぷいとそっぽを向いてしまいました。
 やっぱりいつものかりかり意外は、絶対に食べたくないようです。


 ハナビ君は右目しかないのだけど、実はその右目一つで、自分の心を表現してくる。
 とにかく! ハナビ君の一つの目は、「このフードは絶対に食べたくない!」と言っていたのです。

 それで仕方なく、いつものかりかりを与えると、ぷるぷるっと首を振ってから、かりかりと食べ始めます。

 実は猫が食べる直前にぷるぷるっと首を振るのはきっと「美味しそう♪」と言っているのです。
 それは私の猫飼いの経験で知ったことです。


 だけど何とか、尿路結石用のフードを食べないかなと思い、ある日、いつものかりかりと、そのフードを半分ずつ混ぜて、もう食器をからからと振って、指でぐりぐりとかき回して、とにかく二種類のフードが完全に混ざった状態で与えてみました。
(何でも物は試しです)

 するとしぶしぶ食べ始めたのだけど、フードを一個一個口に入れ、尿路結石用だけはぷいと吐き出して、いつものかりかりだけ食べ始めたのです。

 そして食器には尿路結石用だけが残りました。フードを見事に選別したのです!
 こりゃだめだ。何という頑なな猫!
 私はそう思って落胆しました。あきれ果てました。


 ともあれそんな状態で、一日60ccの皮下点滴をして、ミネラルウォーターを20cc飲んで、いつものかりかりを沢山食べて、そうやってハナビ君は、とりあえず元気に過ごしてくれていました。
 
 こぽっこぽっっと吐き始めたのが10月で、皮下点滴とミネラルウォーターで、それから11月、12月、1月、2月、3月と、そこそこ元気に過ごせたのです。

 とにかくハナビ君はそれから5カ月も生きた!
 余命あと一週間と言われた頃の状況を考えると、奇跡に近いです。


 だけど毎日皮下点滴をしたため、首の後ろの毛が抜け、露出した皮膚は赤くなり、小さなカイヨウも出来始めてしまいました。

 もちろん毎日毎日、針を刺す場所を変えたけれど、それでも限界があったのです。
 だから皮下点滴も、もう無理かな…

 私はそう考え始め、それじゃほかに何か、口から水分を摂らせる方法はないものかと考えていました。

 ウエットフード!

 だけどハナビ君ってグルメだから、なかなかお口に召すようなものもないのです。
 実際、たいていのウエットフードもなかなか食べてはくれなかったのです。
 しかもウエットフードは栄養的には偏っています。あれは本質的には「おやつ」です。
 

 だけどある日。それは3月。
 私がウエットフードを物色していると、スティック状のパッケージで、中身は一本14グラムのまぐろ味というものがありました。
 中身はジェリー状みたいです。

 見てみると水分が91%! つまり一本で水分約13cc摂取できるのです!
 で、ダメ元で買って帰り、小皿に出して与えたら、あらあらびっくり。

 豪快に首をぷるぷると振ってから、ぺろぺろぺろぺろと一気食べしてしまいました。
 よほどお口に召したらしいのです。


 それでもしかして…、と思い、試しに小皿に30ccのミネラルウォーターを入れ、それにそのウエットフードをちゅるちゅると出して、何というかスープに入った麺類みたいな感じのものにして与えたら、やっぱりぺろぺろぺろぺろと水ごと食べてしまいました。

 実はこのフードは、猫缶みたいな硬いのではなく、ジェリー状で、マヨネーズくらいのやわらかさです。

 ともかく、これは何を意味するかと言うと、つまりこの30ccのミネラルウォーターと合計で、43ccの水分摂取となるのです!

 そしてこれを一日2回与えると、86ccの水分摂取となる!
 そうするとこれで、水分摂取は完全にクリアできるということになる!
 

 ちなみに、ハナビ君がそのウエットフード+ミネラルウォーターを食べて(飲んで)いる様子を観察すると、まず、フードの周りの水から飲んでいました。

 それで、私が思うにハナビ君は、ウエットフードが食べたいが故、「邪魔な」水を取り除くためにウエットフードの周りの水を「飲んで」いるみたいです。

 いや、飲んでいたのではなく、邪魔な水を「取り除いて」からウエットフードを食べていたのです。

 とにかく理由はどうあれ、口から水を飲んでくれたのです!
 

 それでその日から皮下点滴は中止しました。
 どのみち首の後ろの皮膚はひどいことになっていたし、これ以上の皮下点滴は不可能だったし。


 だけどそれからハナビ君は、3月、4月、5月…、そして翌年、令和の時代になった現在も元気に暮らしています。
 ウエットフード水と、いつものかりかりでばっちり生き長らえているのです。
 そして現在、元気いっぱいで、首の後ろにもすっかり毛が生えそろっています。


 だからもし、あまりにも水を飲まない猫がいて、その仔が腎不全なんかになったら、試しにその仔が大好きなウエットフードを水に沈めてから与えてみて下さい。
 とにかくその仔が大喜びするようなウエットフードを使えば、もしかすると!



 そして今、私はハナビ君を引き取ることになったいきさつを思い出しました。
 あのときハナビ君は、私のバスケットをハイジャックした。
 他の仔を引き取ると決めていたのに、ハナビ君は実力行使で私の所へ来ることになった。

 そしてもし私でなかったら、そのウエットフード水なんてものを「発明」しただろうか?
 このことに関しては、私は自信があります。
 試行錯誤の末に、もう考えて考えて思いついた、特別な方法ですから。


 ともかくハナビ君は、保護施設で私のバスケットをハイジャックし、実力行使の末に私の所へ来て、そしてそのウエットフード水で命を救われたのです。

ちなみに、そのウエットフードはチャオチュールのまぐろです。

 左目は失っていますが、かわいい茶トラの仔です。


ハナビ君の里親募集時の貴重な写真(2013年撮影)が見つかりましたのでアップします。
当時ハナビ君は生後8か月でした。
 (みやざき動物のいのちを守る会 さんより許可を得て掲載)




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