乳がんになったぴゃーちゃん

文字数 1,992文字

 ハナビ君と派手なケンカをしたペルシャ猫のぴゃーちゃんは、最後は末期の乳がんでした。

 ぴゃーちゃんのおなかにしこりがあるのを見付けたのは、その一年半ほど前。
 だけどその頃ぴゃーちゃんは、すでに13歳。

 獣医さんも、麻酔して手術するのも、そろそろ危険のある年齢だと言われ、私もそう思ったし、それに私は、動物ががんになったときには、あまり積極的なことをやりたくなかった。
 だから何もせず、様子を見ようということになりました。

 それからぴゃーちゃんは、猫部屋ではなく、私たち人間のスペースで暮らすことになりました。
 猫部屋にも微妙に派閥があったりで、猫関係も結構ややこしいみたいです。
 それでストレスがないほうがいいだろうとも思い、人間スペースで暮らさせようと思ったのです。

 それにペルシャ猫のぴゃーちゃんは、自分が人間だと思っていたような気がします。
 その前もたびたび人間スペースにきていたし、猫部屋に戻そうとすると「何で私が猫部屋に戻らないといけないの?」みたいな目をしていたからです。

 だからぴゃーちゃんは、それから女王様のように優雅に、人間のスペースで暮らすことになりました。

 だけどそれからしばらくして、部屋の中で何だか変な臭いがし、どこかでネズミでも死んでいるのかな、なんて思っていましたが、ある日、ぴゃーちゃんを抱っこして、そして私は愕然としました。
 おなかにあったしこりが破れて、そこから悪臭がしていたのです。

 おなかに破れて悪臭がするのは、もう乳がんか、さもなければよほど予後の悪いがんです。
 そしてがんが皮膚に破れてカイヨウが出来ると、雑菌が繁殖し、それはもうすさまじい悪臭が漂います。

 ぴゃーちゃん、もう安楽死?
 一瞬、私は絶望しました。

 だけどカイヨウを、徹底的に洗浄・消毒すると、臭いはずいぶん少なくなります。
 それは私の職業上の経験から知ったことです。

 だからこれから毎日、ぴゃーちゃんのおなかを洗浄しよう!
 私はそう決めました。

 薬局へ行き、生理食塩水や消毒液や、ガーゼや綿球やを買い、いろいろ試しました。
 それでとりあえず、ぴゃーちゃんを仰向けに抱っこして、消毒液で洗浄を始めました。

 一日3回。
 朝と、夕方と、寝る前。

 消毒したあとはガーゼを付けていましたが、ぴゃーちゃんが嫌がるので外しました。
 ガーゼがなくても、ぴゃーちゃんのおなかは床に着いたりせず、それは大丈夫でした。

 そして消毒液で浸した綿球や、後の方ではティッシュで、最後は直径10センチくらいになってしまったカイヨウを洗浄しました。

 そして洗浄ているあいだ、ぴゃーちゃんは仰向けになり、足を開いてじっとして、ずっとごろごろといっていました。

 きっと自分のおなかが、「とんでもないことになっている」と分かっていて、そして飼い主である私が、「なめて治してあげている」と思っていたのでしょう。
 ぴゃーちゃんは「空気の読める」とても賢い仔でした。

 それから来る日も来る日も洗浄して、いろんな洗浄液、消毒液を使っているうちに、ある日、緑茶がいちばんいいと気付きました。

 緑茶は浸みません。
 それはぴゃーちゃんを見ていたら分かります。

 それに、カテキンの殺菌作用は素晴らしいのでしょう。
 見事に臭いが消えるのです。
 だけら途中からは、ペットボトルの緑茶ばかりで洗浄しました。

 そうやって消毒が終わり、「いいよ」と言ったらさっと起き上がって、それから椅子にぴょんと乗り、そこがお気に入りの場所でした。

 それから、朝、私が起きて行ってみると、ぴゃーちゃんは、いつもおなかを洗浄する場所で、ちょこんとお座りをして待っていました。
 私が朝起きたら、おなかをなめてくれて、それで痛みが取れるとわかっていたのでしょうね。

 死んだ日の朝も、ぴゃーちゃんは待ちどうしそうな顔で、そこでお座りして待っていました。
 それで私が、「ぴゃーちゃんおはよう」と言ったら嬉しそうな顔をして、それから洗浄してあげました。
 そしてそれが、最後の洗浄でした。


 ぴゃーちゃんは、乳がんがおなかに破れてから、150日間生きてくれました。
 獣医さんに話したら、そんなに長く生きたなんてと、驚いていました。
 毎日毎日、洗浄したかいがありました。

 150日間、1日3回、合計で450回の洗浄をしてあげることが出来ました。
 それはぴゃーちゃんと過ごせた、最後の最後の、とても幸せな時間でした。

 そしてぴゃーちゃんは15年のにゃん生を全うし、2016年1月11日に、猫の星へと旅立ちました。
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