全く懐かない猫、わかめ

文字数 2,392文字

 わかめといっても、私が付けた名前ではありません。
 もちろんあの磯野家とも関係ないらしい。
 どうやら「預かりさん」が付けた名前らしいのです。
 野良猫や、そんな猫が産んだ仔猫を保護して必要な医療を施し、予防注射をして、場合によっては避妊や去勢の手術までやり、それから里親探しの募集をやったり、保健所などで譲渡会をやったりする。
 こういう大変なことをやってくれるNPO法人があちこちにあって、もちろんボランティアの人々にも支えられています。
 そんな中に「預かりさん」というサポートをしてくれる人がいます。
 里親ではないけれど、一定期間預かって飼育してくれるのです。
 それからNPO法人の保護施設へ移ったり、人に懐く仔は猫カフェで「働く」こともあります。そして猫カフェ自体も、里親探しの場であることも多いのです。

 それでわかめの話です。
 わかめは、それはもう全く人に懐かない仔で、預かりさんのところのケージの中でも、豪快に隠遁生活をしていたらしいです。
 もちろん「猫カフェデビュー」なんか夢のまた夢。
 とにかく人間がいると絶対に姿を現さない。だから触ることさえ、ましてなでるなんて、とんでもない仔だったようです。
 それでキャットフードを置いておくと、誰もいないときに秘かに食べていたようです。
 そしてそういう状態で、わかめは預かりさんの所を転々としていたらしいのです。

 それでは何故に、私がわかめを引き取ったか。
 それはタバが動物病院へ行ったとき、待合室にそのNPO法人の「里親募集」の張り紙があり、それを見てその法人の存在を知ったことに始まります。
 かかり付けではなく、夜間救急対応をしてくれる獣医さんだったのですが、タバが緊急事態だったので、電話をしたら診てくれると聞き、それからタバをそこへ連れていったという訳です。
 そしてそのときに、そのNPO法人のことを初めて知ったのです。
 だからもし、タバがそんな病気にならなければ、その夜間救急をしてくれる獣医さんには行かなかっただろうし、そうするとそのNPO法人の事も知ることはなかったかもしれません。
 そうすると、おそらくわかめと出会うこともなかったでしょう。

 それから少しして、何となくそのNPO法人のホームページを見ていたら、里親募集中の仔たちの写真が掲載されていました。
 そしてその中にわかめがいたのだけど、実はその写真が、娘がとても可愛がっていて、だけど以前死んでしまった、アイタローという仔にとても似ていたのです。
 アイタローのことは、ずっと後の話で書きます。
 それで、そもそもそのホームページを見た、もう一つの理由は、その少し前にみかんちゃんという老猫が旅立っていたのです。
 だからそのときは、タバが急病になるし、みかんちゃんは死ぬし、いろんなことが重なってしまっていました。
 ともかくそういう訳で、みかんちゃんの分も可愛がろうと、次の猫を探していたところでした。
 それで、みかんちゃんことも、またずっと後の話で書きます。

 ともかく私は、それからそのホームページに載っていた、わかめちゃんを見に行くことにしました。
 死んだアイタローにそっくりだったら、可愛いかも。
 そう思いながら…
 それから私は、そのNPO法人の保護施設へ、わかめを見に行きました。
 するとNPO法人の方が豪快に、言い放つように、釘を刺すように、
「ぜんぜん懐きませんよ!」と言われました。
 それに、実際に見てみると、アイタローにはあまり似ていませんでした。
 白キジで、ずれたカチ割れが個性的と言う点だけは同じでしたが、何だかとても疑り深い目をしていました。
 だけどその「ぜんぜん懐きませんよ!」という言葉が、私のチャレンジスピリットに火を付けたのです。

(よし! 懐かせてやろうじゃねえか! こっちには猫缶もカツオブシもあるんだい! わかめにはきっと、かつお君がいい!)
 そう思って、終生責任を持って飼育云々という用紙にサインをして、そして意気込んで連れて帰ったものの、やっぱり豪快に懐きませんでした。
 考えが甘かったです。
 そもそもケージから出てきません!
 猫缶、キャットフードにカツオブシをかけたやつ。そういうのを持参して、
「わかぁ~~~めちゃん♪」
 と近寄っても、
「しゃ~~!」
 だけど数時間後にそっとのぞいてみると、ちゃんと食べていたので、めげずに、希望を持って、
「わかぁ~~~~めちゃん♪」と言ってから、来る日も来る日も、キャットフードを置き続けました。
 少ししてからは、わかめがそっぽを向いているすきに、先に猫じゃらしが付いている棒で、わかめをなでなでしてあげたりもしました。
 いかにも母親がなめてあげているようなリズムで、すいすいすいと。
 するとわかめは、まんざらでもない顔をしていました。

(いけるかも!)

 それでしばらくすると、私が行くと、わかめはケージから顔を出して、
「ごは~~~ん♪」という顔をするようになったのです。
 そしてそれは、その数か月後のある日のこと。
 何と突然、わかめが私にすりすりしてきました♪ 
 それからはもうどんどん懐き、おひざも出来、ふみふみもするようになりました。
 それでNPO法人の人に報告すると「わかめがふみふみするなんて!」と、唖然とされていました。
 だけどとにかく! 愛情と根性を持って根気よく接すれば、猫は必ず懐きます。
 それは後の話で出てくる、それと他の作品で書いている「ブチ猫のミッキー」と仲良しになったプロセスで、私が学んだことでもあります。
 ともあれわかめは、私の所の猫部屋でも「中堅どころ」くらいの存在で、幸せそうに暮らし始めました。

PS それから7年後、苦心さんたんの末、わかめは完ぺきな「抱っこ」も出来るようになっています。これで私が面倒を見た猫は全員、「抱っこ可」となりました。14連勝です!

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