ハナビ君の異変
文字数 2,865文字
だけど猫は時々毛げろなんかを吐いたりするし、それであんまり気にせず、様子を見ていたら、ある頃から連日吐くようになり、しかも全く何も食べなくなり、何も飲まなくなり、お気に入りの座イスで、きつそうに丸くなってじっとしていました。
それで、急性胃腸炎かな? くらいに思って獣医さんのところへ連れていくと、何とクレアチニン値が15になっていました。
クレアチニンは正常値が1くらい。クレアチニンは老廃物です。
そしてこの数値が上がるということは、腎不全!
それはもう末期の腎不全で、余命数日という状態でした。
それで獣医さんに「入院して点滴治療しますか?」と訊かれたけれど、そんなにひどい状態なら、ハナビ君にとって慣れ親しんだ自分の部屋で最期を迎えさせようと思い、私はハナビ君を連れて帰りました。
私も猫の点滴だったらやれるし。
それで点滴セットを受け取り、一日4回点滴を始めました。
点滴と言っても人間の点滴とはちがいます。
犬猫独特の点滴で、本当は皮下点滴といいます。
犬も猫も、首の後ろをつまむと、びろーんと皮膚、というか毛皮がが伸びて来ます。
これは他の動物に襲われたときの被害を少なくする、動物特有の体の作りで、噛まれてもびろーんと毛皮が伸びる事により、体の深い部分に、噛んだ相手の動物の牙が入りにくくなっているという、動物特有の優れ物の体の作りなのです。
そして皮下点滴とは、動物の首の後ろをつまんで引っ張り、すると毛皮の下に空間が出来て、そこに注射針を入れて点滴液を入れるのです。
猫だと最大で、一回120ccくらい入れる事が出来ます。
だけど注射器は最大で60ccなので、その日から私はハナビ君に一日4回、合計240ccの皮下点滴を始めました。
それは朝6時、夕方6時、夜10時、そして夜中の2時頃。
何とか生き延びてくれ、と願いながら…
そして次の日。
私が仕事から帰って、夕方の皮下点滴をしようと、ハナビ君のところへ行きました。
ぐったりして、もう死んでいるかも…
そう思いながら、恐る恐るハナビ君の部屋のドアを開けたら、何とハナビ君は起き上がり、とことこと歩いて、そして爪とぎを始めました。
爪とぎをするということは、まんざらでもないということです。
(あ、ハナビ君、助かるかも!)
そのとき一筋の希望が見えました。
実際、それからハナビ君はどんどん元気になりました。
おしっこもどんどん出ました。
そして数日後、獣医さんへ連れて行ったらクレアチニンは正常化していました。
もう点滴もしなくていいでしょうとも言われました。
(やった! ハナビ君は助かった!)
そう思って喜んだ三日後、またハナビ君がこぽっこぽっと吐き始め、ぐったりしてしまいました。
それで再び獣医さんに連れて行ったら、クレアチニンは元通りに悪化していたのです。
皮下点滴で良くなり、それを中止するとまた悪くなった。
ということは、獣医さんも言っておられましたが、ハナビ君は、これから死ぬまで、毎日皮下点滴を続ける他に、生き延びる術はないだろうということです。
だけど皮下点滴を続ける限り、吐かないし、食欲もある。
それで、私の手間の限界という問題もあるし、皮下点滴は最低限どのくらい必要かを探るため、ハナビ君が吐かない状態を維持できる最低量をさぐりつつ、皮下点滴回数、点滴量を少しずつ減らしていきました。
すると試行錯誤の末、皮下点滴は1日あたり80ccで、ハナビ君の状態が維持できることが分かりました。
そして注射器は最大で60ccですから、注射器を一度に2本使い100cc入れる日と、1本だけで60ccの日と言う具合に、それを交互に繰り返しました。
それから、水の器に入れる水の量もビーカーで測り、ハナビ君の飲んでいる水の量を調べました。
するとあきれたことに、そもそもハナビ君はそのとき、口からはほとんど水を飲んでいませんでした!
つまり私が推理するに、ハナビ君の腎不全の諸悪の根源は、「口からほとんど水を飲まない」ということみたいです。
それで、これまた少し話が逸れますけれど、飼い猫という生き物のルーツは、リビアヤマネコという話があります。
元々砂漠に住んでいて、だからオアシスでもない限りほとんど水の無い世界で、それじゃ水分はどうやって? というと、猫は肉食動物だから、ほとんどは捕食した生き物の体に含まれる水分だけで生きているらしいのです。
だから容器に入った水なんてものは、そもそも砂漠にはなかっただろうし、だから全く「水を飲む」という行動になじまない仔がいたとしても、不思議ではありません。
つまりそれがハナビ君だったのでは、と!
考えてみると猫カフェでも、要するに多頭飼いですので、一匹一匹がどれくらい水を飲んでいるかなんて、管理できないでしょう。
基本的に新鮮で十分な水を与え、各々の仔がナチュラルに、自分の飲みたいだけの水を飲む。
だからハナビ君みたいに極端に水を節約する仔がいても、分からないこともあるでしょう。
ともかく、そういうハナビ君みたいなライフスタイルの仔は、猛烈に水を節約し、徹底的に濃縮した濃い尿を出す。
それでハナビ君のおしっこです。
実は私の所では「取り替えいらず」と謳ったトイレを使っていて、猫砂の代わりに白い「猫玉」が入っていて、おしっこは下に抜けてペットシーツに落ちるというシステムなのですが、ハナビ君のおしっこは本当に濃くて、すぐにかぱかぱに固まってしまうほどだったのです。
だけどそういうことも、ハナビ君はそういう仔だと思い、それにずっと元気だし、まあいいかと思っていたわけです。
それに後から考えてみると、ハナビ君の水を換えるとき、あまり、いや、ほとんど水が減っていなかったように思います。
そういうことって、案外後から気付くものです。
とにかくハナビ君は、リビア山猫みたいな、水を節約するライフスタイルで生きていたのでしょう。
だけどいろいろ調べてみると、そういう極端に水を節約するライフスタイルの仔は、実は腎臓にとても負担をかけているらしいということが分かりました。
だけど野生の猫は、はたまた野良猫はせいぜい2年の寿命ですから、仮に腎臓に負担をかけても、腎不全になる前に寿命が来てしまうのです。
そう考えると、ハナビ君が腎不全になったのは生後5年ほどだから、あまり(ほとんど)水を飲まないライフスタイルである以上、こうなるのはハナビ君の寿命なのか…
とにかくそういう風に考えて、だから私はハナビ君の腎不全は仕方がないなと考え、それでも毎日皮下点滴をやって、それで行けるところまで行こう。
私はそう考えることにしました。
だけどここから意外な展開が待っていました。
それで、急性胃腸炎かな? くらいに思って獣医さんのところへ連れていくと、何とクレアチニン値が15になっていました。
クレアチニンは正常値が1くらい。クレアチニンは老廃物です。
そしてこの数値が上がるということは、腎不全!
それはもう末期の腎不全で、余命数日という状態でした。
それで獣医さんに「入院して点滴治療しますか?」と訊かれたけれど、そんなにひどい状態なら、ハナビ君にとって慣れ親しんだ自分の部屋で最期を迎えさせようと思い、私はハナビ君を連れて帰りました。
私も猫の点滴だったらやれるし。
それで点滴セットを受け取り、一日4回点滴を始めました。
点滴と言っても人間の点滴とはちがいます。
犬猫独特の点滴で、本当は皮下点滴といいます。
犬も猫も、首の後ろをつまむと、びろーんと皮膚、というか毛皮がが伸びて来ます。
これは他の動物に襲われたときの被害を少なくする、動物特有の体の作りで、噛まれてもびろーんと毛皮が伸びる事により、体の深い部分に、噛んだ相手の動物の牙が入りにくくなっているという、動物特有の優れ物の体の作りなのです。
そして皮下点滴とは、動物の首の後ろをつまんで引っ張り、すると毛皮の下に空間が出来て、そこに注射針を入れて点滴液を入れるのです。
猫だと最大で、一回120ccくらい入れる事が出来ます。
だけど注射器は最大で60ccなので、その日から私はハナビ君に一日4回、合計240ccの皮下点滴を始めました。
それは朝6時、夕方6時、夜10時、そして夜中の2時頃。
何とか生き延びてくれ、と願いながら…
そして次の日。
私が仕事から帰って、夕方の皮下点滴をしようと、ハナビ君のところへ行きました。
ぐったりして、もう死んでいるかも…
そう思いながら、恐る恐るハナビ君の部屋のドアを開けたら、何とハナビ君は起き上がり、とことこと歩いて、そして爪とぎを始めました。
爪とぎをするということは、まんざらでもないということです。
(あ、ハナビ君、助かるかも!)
そのとき一筋の希望が見えました。
実際、それからハナビ君はどんどん元気になりました。
おしっこもどんどん出ました。
そして数日後、獣医さんへ連れて行ったらクレアチニンは正常化していました。
もう点滴もしなくていいでしょうとも言われました。
(やった! ハナビ君は助かった!)
そう思って喜んだ三日後、またハナビ君がこぽっこぽっと吐き始め、ぐったりしてしまいました。
それで再び獣医さんに連れて行ったら、クレアチニンは元通りに悪化していたのです。
皮下点滴で良くなり、それを中止するとまた悪くなった。
ということは、獣医さんも言っておられましたが、ハナビ君は、これから死ぬまで、毎日皮下点滴を続ける他に、生き延びる術はないだろうということです。
だけど皮下点滴を続ける限り、吐かないし、食欲もある。
それで、私の手間の限界という問題もあるし、皮下点滴は最低限どのくらい必要かを探るため、ハナビ君が吐かない状態を維持できる最低量をさぐりつつ、皮下点滴回数、点滴量を少しずつ減らしていきました。
すると試行錯誤の末、皮下点滴は1日あたり80ccで、ハナビ君の状態が維持できることが分かりました。
そして注射器は最大で60ccですから、注射器を一度に2本使い100cc入れる日と、1本だけで60ccの日と言う具合に、それを交互に繰り返しました。
それから、水の器に入れる水の量もビーカーで測り、ハナビ君の飲んでいる水の量を調べました。
するとあきれたことに、そもそもハナビ君はそのとき、口からはほとんど水を飲んでいませんでした!
つまり私が推理するに、ハナビ君の腎不全の諸悪の根源は、「口からほとんど水を飲まない」ということみたいです。
それで、これまた少し話が逸れますけれど、飼い猫という生き物のルーツは、リビアヤマネコという話があります。
元々砂漠に住んでいて、だからオアシスでもない限りほとんど水の無い世界で、それじゃ水分はどうやって? というと、猫は肉食動物だから、ほとんどは捕食した生き物の体に含まれる水分だけで生きているらしいのです。
だから容器に入った水なんてものは、そもそも砂漠にはなかっただろうし、だから全く「水を飲む」という行動になじまない仔がいたとしても、不思議ではありません。
つまりそれがハナビ君だったのでは、と!
考えてみると猫カフェでも、要するに多頭飼いですので、一匹一匹がどれくらい水を飲んでいるかなんて、管理できないでしょう。
基本的に新鮮で十分な水を与え、各々の仔がナチュラルに、自分の飲みたいだけの水を飲む。
だからハナビ君みたいに極端に水を節約する仔がいても、分からないこともあるでしょう。
ともかく、そういうハナビ君みたいなライフスタイルの仔は、猛烈に水を節約し、徹底的に濃縮した濃い尿を出す。
それでハナビ君のおしっこです。
実は私の所では「取り替えいらず」と謳ったトイレを使っていて、猫砂の代わりに白い「猫玉」が入っていて、おしっこは下に抜けてペットシーツに落ちるというシステムなのですが、ハナビ君のおしっこは本当に濃くて、すぐにかぱかぱに固まってしまうほどだったのです。
だけどそういうことも、ハナビ君はそういう仔だと思い、それにずっと元気だし、まあいいかと思っていたわけです。
それに後から考えてみると、ハナビ君の水を換えるとき、あまり、いや、ほとんど水が減っていなかったように思います。
そういうことって、案外後から気付くものです。
とにかくハナビ君は、リビア山猫みたいな、水を節約するライフスタイルで生きていたのでしょう。
だけどいろいろ調べてみると、そういう極端に水を節約するライフスタイルの仔は、実は腎臓にとても負担をかけているらしいということが分かりました。
だけど野生の猫は、はたまた野良猫はせいぜい2年の寿命ですから、仮に腎臓に負担をかけても、腎不全になる前に寿命が来てしまうのです。
そう考えると、ハナビ君が腎不全になったのは生後5年ほどだから、あまり(ほとんど)水を飲まないライフスタイルである以上、こうなるのはハナビ君の寿命なのか…
とにかくそういう風に考えて、だから私はハナビ君の腎不全は仕方がないなと考え、それでも毎日皮下点滴をやって、それで行けるところまで行こう。
私はそう考えることにしました。
だけどここから意外な展開が待っていました。