みー太郎サナダ虫事件

文字数 1,959文字

 それから二カ月ほどしたある朝、猫土間の掃除中、トイレを掃除しようとしたら、みー太郎がそそくさとトイレに入って、しゃがんでうんちを始めました。

 それでし終わるのを待っていたら、うんちに続いて、お尻からひものような細長い物体がにょろにょろ~~~~~~~~っと出て来たのです。
 それはいつまでもいつまでも…

 それからみー太郎は、パニックになって走り出しました。
 とみかくみー太郎はすぐにパニックになる仔です。

 もちろんお尻からは長い長いひものようなものが出ていたので、それを引きずりながら…
 長さは1メートルくらいありそうです。
 
 それで私は、急いでみー太郎を追いかけました。
 するとみー太郎は猫部屋へ走り込み、ぴょんと棚の上の箱に飛び乗りました。
 わかめもそうですが、猫は「やばい!」と思ったら、とっさに高い所へと向かいます。

 それで、箱の上にいるみー太郎のしっぽをつかみ、それから急を要していたので、とりあえず素手で(!)そのひものようなものを、ゆっくりとゆっくりと引っ張ると、どんどんどんどんにょろにょろと出てきて、そして数メートル出たところでぷつりと切れました。
 
 あ! サナダ虫だ!
 
 それから虫を洗面器に入れ、私はしっかりと手を洗い、そしてその次の日、獣医さんに持って行ったら、マンソン裂頭条虫だと分かりました。

 やはりサナダ虫の仲間で、そのうちでも最強のやつだそうです。
 太さは細めのきしめんくらいだけど、長さは数メートル。(食事中の方、御免なさい)
 途中でぷつりと切れたので、頭はまだお腹の中に残っているようです。

 それで虫下しを処方してもらい、一件落着なのだけど、この虫、とてもしぶとくて、通常の条虫の3倍量の薬が必要とのこと。
 それは結構強い薬で、それを飲ませた日、みー太郎としてはあり得ないくらい「お利口さん」でした。


 実はこの虫は、少々不思議なライフスタイルを持っています。
 成虫は猫の小腸に住み、頭は腸の壁に食い付いています。そうして、腸の中を流れる栄養を頂戴して、つまり寄生して生きているのです。

 そしてその虫は、そこで無数の卵を産み、それは猫の糞に混じって外界に出ます。
 その卵は水気の多い場所、つまり水たまりなんかに入り、それをオタマジャクシが食べます。

 それからオタマジャクシはカエルになり、カエルの体の中で幼虫になります。
 そしてそのカエルを猫が食べるのです。

 すると食べた猫は幼虫に感染し、虫は猫の小腸の中で成虫に育ち、それから生涯その猫の腸に住み続け、卵を産み続けるのです。
 つまり、このようなややこしいライフサイクルをやっているのです。


 だから猫部屋に水たまりがあったり、オタマジャクシやカエルがそこに住んでいたり、そして猫がそのカエルを食べたりしないない限り、他の猫には感染しないので、みー太郎はそのまま猫部屋で過ごすことになりました。

 それではなぜ、みー太郎がマンソン裂頭条虫に感染したかというと、それは迷子になっていた二日間のうちに、カエルを食べたからだろうと思います。

 そもそもみー太郎は野良さん上がりだから、野良猫の頃はきっとカエルも食べていたのでしょう。
 そして迷子の時は、それはもう腹ペコだったでしょうから。
 
 そして、猫がカエルを食べて感染して、そして虫が猫のお腹の中で育つまでに、約二か月かかります。
 それで、迷子事件の時から逆算すると、ぴったりでした。

 
 一般に、完全室内飼いではなく、外出させる猫には、かなりの頻度でサナダ虫がいるらしいです。
 しかも一匹だはなく、何匹も、何十匹もいるかもしれません。

 だけど、マンソン裂頭条虫をはじめ、サナダ虫の類は、宿主である猫にはほとんど危害を加えません。
 宿主の猫が死んでしまったら元も子もないからです。

 つまり猫の腸内で少々の栄養を頂戴しつつ、猫様には極力ご迷惑を掛けず、そこでそれこそ、細長ぁ~~~~~く生きているのです。
 そしてその虫の寿命は数年。

 それで、虫下しを与えたみー太郎のお腹の中には、まだ一、二匹くらい虫がいるかも知れませんが、みー太郎に大した迷惑も掛けないだろうし、少なくともまた脱走しない限り、そうそうカエルを食べる事もなかろうし、それでとりあえず、そのままにしています。

 それから、虫下しを与えると虫は死ぬわけですが、虫は完全に溶けてしまい、うんちに混ざって出ても、にょろにょろした虫は確認できません。

 つまりその死体が、猫のお尻からにょろにょろぉ~~~~~っと出てくる訳ではありませんので、どうかご心配なく。
 今回は写真もありませんのでそれもご心配なく。

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