ケリーの代役をしたブチ猫のミッキー

文字数 1,558文字

 年老いた母は当時、一匹の大きなチワワを飼っていました。
 ケリーという名です。
 
 母は可愛がり過ぎて、私がいくら注意しても、母はケリーに食べたい放題に食べさせていたのです。
 ドッグフードだけじゃなく、ささみとか、ツナとか、とにかくいろいろ。
 そうしてチワワとしては驚異的な7.2kgにもなってしまいました。
 
 チワワとはいえ、これはとんでもなく大きな犬で、だいたいちょっとした枕くらいの大きさでした。
 ギネスに申請しようかとさえ思っていました。
 それは冗談だけど。
 

 だけどそれからしばらくして、何となく元気もなく、フィラリアでもいるのかなと、獣医さんに連れて行ってみると、フィラリアではなく、心臓弁膜症だと言われました。

 チワワには多い病気らしいのですが、とにかく心臓の負担を減らすべくダイエット! 
 だけど簡単に痩せるものではありません。

 ケリーに与えるドッグフードをいくら制限しても、私が見ていないうちに、母が食べ放題にしていたのです。

 とにかく「ケリー1日分!」と書いた小さな容器に1日分のドッグフードを入れておいて、「これだけを食べさせんしゃいよ! それ以外おやつとかはいかんよ!」と言っても、母は私がいない隙にそんなの無視して、ケリーかわいいかわいいと、あれやこれや食べさせまくっていたのです。
 まあ年寄りだから、仕方がないのですが…

 それで、それから獣医さんに利尿剤を処方してもらい、だましだましやっていました。
 利尿剤は、毎日私がケリーに飲ませていましたが、そのときはミッキーも連れて行って、しばらく一緒に遊ばせていたりしました。
 ミッキーとケリーも仲良しでした。私のところの犬猫は、いつでもすぐに仲良しです。

 ただし私も母のこと言えた義理ではなく、私もミッキーを可愛がり過ぎたのか、ミッキーは豪快なブタ猫と化していました。
 当時ミッキーは7.7kgありました。だから二匹合計すると…
 とにかく親子で、似たようなことをやっています。

 そしてそんな日々が過ぎていきました。
 残念ながらケリーはほとんどやせず、相変わらずの状態でした。

 そしてある日、とうとうケリーは物凄く息が苦しそうになり、私は急いで、その日の利尿剤を飲ませたりしましたが、母がケリーをさすったりしているうちに、突然ぱたんと倒れ、そのまま死んでしまいました。

 本当にあっというまに、ケリーは死んでしまったのです。
 母は大変なショックを受けていました。
 それからケリーを庭に埋め、みんなでお祈りし、花を飾りました。

 だけど私は、母がケリーを太らせたことを責めたりはしません。
「ケリー、おいしい御馳走をいっぱい食べて、幸せやったね」と言ってあげました。

 すると母は、「ケリーちゃん幸せやったよね。長生きしたよね」と、何度も言いました。
 それで私は「ケリー長生きしたよ。幸せやったよ」と言ってあげました。


 そして次の朝、母は窓から、庭のケリーを埋めた場所を眺めながら、本当に悲しそうにしていました。
 あんなに悲しそうな顔の母を、私はそれ以外に見たことがありません。

 それで、その日の夜からも、私は母のところにミッキーを連れていくことにしました。
 悲しそうにしていたけれど、母はミッキーの愛嬌のある顔を見ると少しだけ微笑みました。
 そしてミッキーを抱えようとしたら、「うわー、この仔はケリーよりも重たいね!」と言って笑いました。
 
 それから毎日毎日、ミッキーは母が眠るまで一緒にいることになりました。
 ブチ猫のミッキー。
 ケリーの代役、お疲れ様。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み