みー太郎の「ざわざわ発作」

文字数 2,387文字

 ある日、私が猫部屋へ行くと、みー太郎が「困った困った」という顔をして私を見て、それから突然、飛び上がるようにして走りだし、少し走ってまた立ち止まり、ぱたんと座り、それから体中を気にするように、それはもう激しく体中を毛づくろいしていました。

 そしてしばらく毛づくろいをすると、また飛び上がるようにして走り出し、またぱたんと座って毛づくろいをして…
 そういうことの繰り返し。

 なんだか体中に、ぴりぴりと激痛でも起こっているような様子。
 そしてみー太郎は、困り果てた様子。


 それからネットでそんな症状を検索したら、「知覚過敏症候群」というのがヒットしました。
 どうやら体中に、得体の知れないぴりぴりとした変な感覚が起こり、それが気になってしょうがない状態のようです。
 そしてこれは、基本的には心の病気らしいです。

 それは発作的に起こり、しばらく続きます。
 その間、つねに背中の皮膚がぴくぴくと動き続け、手足をぶるぶると振るわせたりします。
 手足に着いてしまった異物を取り除こうとしているような動作です。
 本当に辛そうです。


 それから私は、みー太郎のその発作を、「ざわざわ発作」と名付けました。
 ちなみに、獣医さんなんかのブログでは、好発年齢は4歳くらいの雄。
 ぴったりみー太郎です。
 そして原因不明!

 治療法は精神安定剤なんかです。
 つまり対症療法です。
 原因不明な以上、根本的な治療法ないらしいのです。


 実は私も子供の頃、突然体の中に、「いやぁ~~~~なイメージ」が湧いて、それがどんどん広がり、そして何とも不安になり…
 そんな時期があった記憶があります。
 それが何だったのか、今ではよく分かりません。

 だけど突然、心の中にさざなみのように変なイメージがわき、不安とか恐怖にさいなまれる。
 そういうことって、時々だったら、誰にでもあると思います。

 こういう類の「発作」は、有名人でも、あるいはプロ野球選手でも、記事で読んだことがあります。
 また、「目撃」したこともあります。

 それはある日。
 野球中継を見ていると、試合中、とある選手が突然、タイムをかけて、そして不安そうな顔をしてベンチに戻りました。
 そしてその様子を見た監督は、にこにこしながらその選手の肩をポンとたたいて、それからその選手は交代しました。

 それを見ていて私は、(あ、もしかして何か、みー太郎みたいな、心の発作が起こっちゃったのかな?)などと思ったけれど、解説者は、
「どうしたんでしょうねえ。どこか傷めたのでしょうかねえ」なんてことを言っていました。
 だけどもしかしてそれは、そういう心の発作なのではないのかと、私は勝手に想像しています。
 そしてその選手は、翌日には何事もなかったように、また元気に試合に出場していました。

 私はそのチームの監督は立派だと思います。
 選手を理解し、調子が悪ければ休ませ、だけどとても有能な選手だから、調子が良ければきちんと使ってあげる。
 その選手は、その監督のおかげで選手を続けられているとも言えます。


 みー太郎の話に戻します。
 それで、みー太郎にざわざわが出たときに使うためと、獣医さんに精神安定剤を処方してもらいました。

 それじゃ一体どのくらいの量がいいかというと、猫医学書(獣医学)なんかの資料や試行錯誤の結果、ごく少量から始め、最終的には、(個体差があると思いますが)みー太郎の場合、人間量の八分の一から四分の一程度がよかったようです。
 猫の体重を考えると多いようですが、猫は体のわりに新陳代謝が盛んなのだと思います。

 だけどその薬は少々苦いので、粉々につぶし、ハナビ君でおなじみのウエットフード一本に混ぜて与えます。

 グルメのハナビ君でさえぺろぺろ食べるほど(美味しいらしい)ウエットフードなので、野良猫上がりのみー太郎は、食べ始めるや、ざわざわ発作も忘れ、それこそ盆と正月が来たような顔をして、ぱくぱくぱくぱくと食べます。

 そして食べ始めるや発作が止まる…
 たしかに、これはもう心の問題だろうと思います。だけど食べ終わるとまたざわざわです。

 実はみー太郎は、ざわざわ発作が出ているとき、目を見てもそれがすぐにわかります。
 何だか物に取りつかれたような、きつい目になるのです。
 だけど薬を混ぜた、そのウエットフードを食べて10分もすると、いつもの優しい目にもどります。
 薬が効いたのです。

 そして私に近寄り、寄りかかるようにして座り、ゆっくりと毛づくろいをして、それからごろんと寝そべって、ごろごろいって、ふみふみして、そして私の体に頭をうずめて眠り始めます。

 それで私は、「みーちゃん、ざわざわ止まったね。よかったね」と言ってあげることにしています。


 そして、そういう持病があったとしても、その猫(人)のことを飼い主や、人ならば周りの人が理解してあげられれば、その猫(人)は、きちんと生きていけると思います。

 だから、上に書いたプロ野球の監督のように、私もみー太郎の発作を理解してあげ、幸せなにゃん生を送らせてあげようと思っています。

 追伸
 この1年くらい、みー太郎のざわざわはほとんど出ていません。
 この発作は4~5歳の男の仔に多いとか、何かに書いてあった気がしますが、みー太郎は(多分)もう6歳(野良上がりだから年齢不明)になったと思うけど、それで一過性のものだったのかも知れません。
 それと、なるべくみー太郎と一緒にいてあげる時間を取るようにして、可愛がってあげているからかも知れません。現在、みー太郎はハナビ君の下の部屋で個室です。相部屋の頃は何かと「猫関係」で神経を使っていたのかも。

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