そしてミッキーに手を噛まれた

文字数 2,075文字

 ミッキーとはいろいろありましたが、あの夜中に、ミッキーとほかの猫のケンカの助太刀をやったりしてあげて以来、私はミッキーと、だんだんと仲良しになったのです。

 そしてその頃から、私のいた病院の宿舎の玄関付近に、朝夕、キャットフードを置くことにしていました。

 それで朝夕、私が「ミッキー♪」と呼ぶと、どこからともなくミッキーが、たったかた~~~っと走って来て、食べるようになったのです。

 ともかくミッキーは、野良猫から、外で住んでいるとはいえ、飼い猫のはしくれに出世したのです。

 そんなミッキーを見ながら、ある日、掃除のおばちゃんがミッキーに、
「あんた、命助けてもらったね。よかったね」と言ってくれました。
 何だか人助け、いや、猫助けをしたみたいで、結構いい気分でした。


 だけどそんなある日、とてもとても不幸な事件が起こってしまったのです。
 何と私は、ミッキーに豪快に手を噛まれてしまったのです!

 それはある朝のこと。
 ミッキーがキャットフードを食べ終えた頃に、試しにミッキーをなでてあげようかな♪などといらぬことを考えつき、それで私がしゃがんだところ、ミッキーはごろごろと言いながら、私の足に頭をすりすりした後に、何と私の太ももで豪快に爪とぎを始めたのです!

 たしかにこういう爪とぎは、猫からすれば「親愛の情」を示すものです。(いやいやこれはただ単に、「この人間は自分の所有物だ!」と言っているに過ぎないという、異なる意見あり)

 だけどミッキーは、限りなく野良猫だから爪が伸び放題で、そんな爪で爪とぎされたものだから、もうあまりの痛さに、思わず私はミッキーの手をどけようとしました。

 そしたらミッキーは何を思ったのか、いきなり私の手にガブリ!
 どうやらミッキーは、私が攻撃してきたと誤解していたようです。

 それで私がぎゃ~~と言ったら、ミッキーは一瞬気まずそうな顔をして、それから一目散に、どこかへと走って行きました。


 もうミッキーに噛まれたことに、私はそうとう腹が立ちました。
 苦労して猫語で何度も何度も話し掛け、夜中にはケンカの仲裁までしてあげ、毎朝毎夕キャットフードを食べさせてあげ、院長室へ乱入したときは、院長先生に謝りにいったし。
 それなのに…、
 
 噛まれた左手は何日か、豪快に痛みました。
 もう二度とこんな奴の面倒なんか見るものか! と思いました。
 それで病院の食堂にこんな張り紙までしました。



 病院の敷地をうろついている、白と黒のガラの悪い猫(ミッキー)は、大変狂暴なボス猫です。大変危険ですので、絶対に近づかないで下さい!



 そして感情的になった私は、実際それから後数日間、ミッキーに餌をやりませんでした。
 ミッキーが猫語で「おはよう♪」といって近づいてきても、目を合わせないようにしていたし。

(二度とこんな奴の面倒なんか、見てやるもんか!)

 私は意地を張っていました。
 だけど来る日も来る日もミッキーは私の所に来ては、猫語で「おはよう」とか「こんにちは」とか言うし、それからお座りしてキャットフードを食べたそうな顔をするし、それに、キャットフードを入れていた食器を、ざらざらした舌でじゃりじゃりとなめて見せたりするし。(多分、「入ってないよ」とアピール中)

 しかもそのうちに、痛かった手も徐々に良くなり、そうするとそんなけなげなミッキーのことが、何だかとても可愛く、愛しく思われ始めてしまったのでした。(再び私の猫好き病!)

 それで、何日間かだけど、ミッキーにキャットフードをあげなかったことが、ミッキーに申し訳なく思い始め、それで罪滅ぼしにと、巣でも作ってあげようなどと考え、病院の薬剤師さんに言って、点滴の入っていた空き箱をもらい、その箱にミッキーがちょうど通りそうなくらいの入口を作り、その上に「ミッキー」と書いて、雨に濡れないように、宿舎の軒下に置きました。
 そしてその脇にキャットフード!


 するとミッキーは、その様子を物陰から見ていたようで、置いたとたんにミッキーがやってきて、だけど私を見て一瞬立ち止まり、どうやら食べるのをちゅうちょしているようでした。

 だから私は、ミッキーの顔を見て、にこりとしてから「ミッキー」と言って、そして「いいよ♪」と言ってから、キャットフードを差し出してあげたのです。

 するとミッキーは私の足にすりすりしてから、みゃーみゃー言いながら食べ始めました。
 気を使ったのか、そのときは爪とぎはしませんでした。

 それから私は箱の上に、風で飛ばないようにと板とかレンガとかを乗せ、中には使い古しのぼろぼろのシャツなんかを何枚か入れてあげました。
 そしてそれ以来ミッキーは、そこに住むようになりました。


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