アイタローのこと

文字数 1,946文字

 この話に出てくるのは、私の手を噛んだブチ猫のミッキーと、やはり私の手を噛んだカブちゃんと、そして仔猫のアイタローです。


 ある日、子供が仔猫を拾ってきました。学校の校庭にいたようです。
 生まれて2か月くらいの仔でした。

 私はその後、その仔にはアインシュタインと名付けたのですが、コペルニクスのときのように長たらしくて、それでいつのまにかアイタローという名になり、それで定着し、だからこれからは、その仔のことをそう呼ぶことにします。

 それでアイタローは、御多分にもれず、もうどろどろに汚れて、猫カゼをひいて、そして左目は塞がりそうで…、そんな状態で私の家へやって来ました。

 とにかくノミやダニが飛び散る前に、速攻でお風呂に入れ、洗って乾かして、それから塞がりそうな目に目薬をさしました。

 それからアイタローがみゃーみゃー鳴いていると、ミッキーが心配そうな優しい顔で、とことことやってきました。(他の先住猫たちはしゃーしゃーでした)
 
 でも、まだミッキーは何をするか知れたものではないという危惧もありました。だって病院でのあんな武勇伝を知っていれば、だれだってそう思うでしょう。

 だけどその一方、例の「取った」とき以来、ミッキーは本当に優しい仔になっていたし、それにそのときのミッキーの目は本当に優しそうだったので、試にと、アイタローを手に持って、しっぽの臭いをかがせました。
 ちなみに、アイタローのしっぽは豪快なカギしっぽです。
 
 それで、しっぽの臭いをかがせると、その猫が何と思っているのか、大体分かります。
 警戒しているのなら、少し臭いをかいでから、突然、目が厳しくなり、そしてしゃー!っと言います。
 だけどミッキーはさらに優しい目になって、そしてアイタローをぺろぺろとなめ始めました。

 それで、これは大丈夫と思い、アイタローをぽんと床に置いてみました。
 するとミッキーは、しばらくアイタローのにおいをかいで、ぺろぺろなめ、それから何と、ごろんと横になってみせました。
 そしたらアイタローは「お母さ~~ん」という感じでミッキーにうずくまり、そして甘え始めたのです。
 
 何だか奇跡のように思えました。

 とにかくそれから、ミッキーはアイタローを可愛がり続けました。
 自分のしっぽを猫じゃらしのようにして、遊んであげたりしていたし、いつも一緒に寝ていたし。
 
 そうやってアイタローは育ち、猫部屋で暮らし始めました。
 そんなある日のこと。

 ミッキーは猫部屋で私と遊んでいました。
 と、そのとき猫土間から、かすかな鳴き声がしました。
 そしてそれを聞くとミッキーは、一目散に猫土間へと向かいました。
 
 何? と思って私もミッキーの後を追い、行ってみると、そこではアイタローと、気難しい(私の手を噛んだ!)キジ猫のカブちゃんがはちあわせして固まっていました。
 何だか険悪な雰囲気!

 だけどそれから、ミッキーは二匹の間に入り、つまり三匹はカタカナの「ト」のような状態になりました。
 カブちゃんは偉そうで強気、一方アイタローはというと耳を後ろにやり恐々です。

 と、そのとき、カブちゃんがアイタローに突っかかりました。
 だけどその次の瞬間、ミッキーは右手をあげ、カブちゃんの額を肉球でやさしく「ぽん」と叩いたのです。
 それでカブちゃんはさっとどこかへ行ってしまいました。
 
 つまりミッキーはアイタローを守り、しかもカブちゃんには爪を出さず、柔らかい肉球で「ぽん」と、手加減して叩いたのです。
 
 ミッキーのアイタローを思う気持ちと、カブちゃんを優しくたしなめる気配り!
 やっぱりミッキーは出来た猫だた思いました。
 そしてミッキーは、よほどアイタローがかわいかったのだろうと思います。
 
 
 それから何年かの年月が過ぎ、ミッキーは年老いて衰弱していきました。
 一方、アイタローは大きく育ちました。
 そしてアイタローは、いつも年老いたミッキーと一緒にいました。
 
 寒い冬は一緒の箱に入って、一緒に寝て、温めてあげているようでした。
 そしていつもいつも、ミッキーをぺろぺろとなめてあげていました。
 
 そしてある日、年老いたミッキーは、とうとう猫の星へと旅立ってしまいました。
 だけどそれからしばらくしたある日、突然、アイタローもミッキーの後を追うように死んでしまいました。
 アイタローは、まだ四歳だったのに…
 
 そんなアイタローは、大好きだったミッキーと、今も同じお墓で、一緒に眠っています。




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