タバちゃん
文字数 3,990文字
ハナビ君を引き取ることにしたのは、その前日にタバが旅立ったから、ということを、前の話で書きました。
それで今度は、そのタバの話です。
それはハナビ君を引き取ることになったときから、さらに約四年前の出来事です。
たまたま仕事絡みで保健所の待合室を通ったら、「みゃーみゃーぴーぴー」という猫たちの鳴き声が聞こえてきました。(親子連れ?)
それで私が、思わずその声の方へと向かうと、(そういうのが、私の悪い癖です)そこにはケージが置いてあり、その中に黒猫のお母さん猫と、四匹の仔猫たちがいました。
仔猫は白にキジトラが三匹。それと、暖かそうな色合の、ちょっとアメショーっぽいキジトラの仔が一匹でした。
子猫たちは生まれて二か月くらい。
そして保健所の人にたずねたら、何と殺処分予定だって!
そんな話を聞いて、私はこの仔たちが可哀そうで可哀そうで仕方なくなり、そして居ても立ってもいられなくなってしまいました。(そういうのも、私の悪い癖です)
だけど私の家にもキャパシティーがあるから、仮に引き取るとしてもせいぜい一匹です。
前にも書きましたが、うちは定員5匹。それで、その仔を引き取ると6匹目となってしまう。
定員オーバーの120パーセント!
それで仮に1匹の仔猫は私が引き取るとしても、お母さん猫と、あと仔猫が3匹!
どうしよう…
それから私は、自分の職場のいろんな人にもあたりました。
猫好きの物好きそうな人が見に来てくれました。
だけど結局誰も引き取ってくれなかった。
うちには犬がいるから(私の家にも犬はいるぞ!)とか、子供がアレルギーだから、とか。
だけど犬がいるというのは、猫を飼えない理由には、全くならないのだ!
それは経験的に、私は知っています。
犬猫を一緒に飼ったら、だいたい仲良しになる。
たいていの仔猫は犬のことを「お母さん」あるいは「兄貴」みたいに思うようだし、犬は犬で、仔猫のことを「可愛い子分」だと思うみたいです。
それで犬は仔猫をぺろぺろとなめてあげ、面倒を見てあげたりして、一方、仔猫は犬のことを慕うのですけどね。
それはともかく、うちには犬がいるからとか、子供がぜんそくだからとか、いろいろな立派な理由を言って、結局誰も引き取ってくれなかったのです。
だけど私は現在、7匹の猫の里親をやっています。大変だけど何とかやっていますよ。
猫は犬みたいに散歩もさせなくていいし。
だからたった猫一匹くらい何とか…
まあそれはいいです。
だけど、ともあれ私は、その中でキジトラの仔を引き取ると決めて、それで保健所から猫用の小さなケージを借り、それに入れて連れて帰ることにしたのです。
それから、前にも言ったように、引き取るのにも限度、というか、節度というものがあります。
だから私は、心を鬼にして、もう本当に心を鬼にして、残りの仔たちを引き取ることは断念しました。
ところで、なぜキジトラの仔にしたかは、また次の話で書きます。
そしてハナビくんのときのように「終生責任を持って飼育いたします」という用紙にサインし、保健所の人に渡しました。
用紙を受け取った保健所の人は、「ああ、これで一匹助かった!」と、嬉しそうに言ってくれました。
本当は、保健所の人だって辛いのです。
だったら保健所の人が引き取れば?
いやいや、聞いてみると、保健所の人も結構動物を引き取っているそうです。
それに最近は「殺処分ゼロ」を目指す風潮もあります。
行政だって、頑張ってくれているところも多くあります。
だからそういうことが広まればいいのですが…
ところで余談ですが、日本で最初に殺処分ゼロを達成した県はどこか知っていますか?
その答えは熊本県です。
それから、これはずっと後で知ったことなのですが、こういうケースでは、最近では動物保護のNPOなんかに連絡すると、可能な限り引き取ってくれます。
よく里親探しのページで、「保健所からレスキューした仔です」なんて書いてあります。
それともう一つ。
最近では保健所も里親募集の活動をずいぶんとやってくれています。
保健所のホームページなんかにも里親募集を載せていますし、NPO法人の犬猫譲渡会の場を提供してくれたりもしています。
世の中がだんだんといい方向へいくといいですよね。
いろいろ書きました。
それで、そのキジトラの仔の話の続きです。
それから私は、そのキジトラの仔を連れて帰ることにしました。
だけど帰り際に、私は思わず、またそのケージを見てしまいました。
するとケージの中で、黒猫のお母さんが、残った3匹の白キジの仔を、優しくなめてあげていました。
そして保健所の窓から、中庭に植えてある木に当たった木漏れ日が、ケージの中の猫たちを照らしていました。
とても幸せな光景ですが、とても残酷な光景でもあります。
あの光景を、私は一生忘れません。
辛かったです。
だけど私は心を鬼にしたのです。
そしてあの仔たちの分、このキジトラの仔を可愛がってあげようと、心に誓いました。
それから私は、そのキジトラの仔を家に連れて帰りました。
「先住さん」の五匹の猫と、二匹の犬と、一匹一匹に「よろしく」とあいさつさせて、それから私はその仔に「タバ」と名付けました。
なぜタバと名付けたのかも、また後で述べます。
そして次の日。
仕事中、私はあの黒猫のお母さんのことを思い出しました。
「あの仔だけでも助けてくれてありがとう」
黒猫のお母さんが私にそう言っているような気がして、本当に辛かったです。
心を鬼にしなければ良かったと後悔しました。
だけど全部引き取ったら、我が家は一体どうなっていたか…
とても難しい問題です。
ともあれ、それからタバはどんどん育っていきました。
キジ猫らしく、少しだけやんちゃでした。
体が少し小さくて、少しおとなしくて、そして優しい仔でした。
もちろん私にもよく懐きました。
それから、ミニチュアダックスとは、大の仲良しになりました。
(ほらね、言った通りでしょ。仲良しになるでしょ!)
だけどそれから三年後のある日。
猫部屋へ行くと、タバが動けなくなっていました。
そして血の混じったおしっこを漏らしていました。
それから急いで獣医さんのところへ連れて行くと、物凄い貧血で、輸血をしなければ死ぬと言われ、それで輸血をしてもらいました。
それから他の獣医さんにも行っていろいろ調べてもらったりして、結局「ヘモバルトネラ」という病気だということが分かりました。
それでいろいろと注射をしたり、薬を飲ませたりしました。
だけど薬の効果はあまりなく、依然として強い貧血が続いきました。
ヘマトクリット8%!(とんでもない貧血です)
獣医さんは、もしかすると、背景に血液の病気があるのかも知れないと言いました。
悪性リンパ腫とか白血病とか…
私は猫の里親をやっています。たくさんの猫を飼っています。
だけど私は、本当は猫たちに、基本的に「食住」だけを提供しようと思っています。
本当は、命にあまり介入したくないのです。
それがその仔の天命だったら、仕方がないと思うのです。
だけど理不尽な殺され方はいやなのです。
それゆえに、まがりなりにも猫の里親をやっているつもりなのですが…
それで、ともかく私は、キャットランドの上に寝そべるタバの顔を見ながら、もしも白血病とかだったら、抗がん剤を使うのはやめようね。そしてもし今度きつくなったら、もうそれっきりにしようねって約束しました。
だけど貧血の薬だけは、毎日飲もうねと決めました。
それからタバの顔を見ながら、私は考えました。
きっといつか、タバとのお別れの日が来てしまう。
だけど、それまで一生懸命、タバのこと、可愛がるからね。
だけどそのときが来たら、タバ、さよならだね。
さよならだね…
それから毎日毎日、タバに会うのは、幸せだけど辛かったです。
いつまでこの仔と一緒にいれるのだろう?
そんなことを考えながら、タバと一緒の、大切な大切な時間を過ごしました。
それからのタバは、いつも少しだけ息が苦しそうだったけれど、食欲もあったし、それなりに元気に暮らすことが出来ました。
毎日たくさんの水を飲み、たくさんのおしっこをしていました。
貧血で少ない血液を、水を飲んで補おうとしていたのだと思います。
タバだって必死で生きていたのです。
それから十一か月の時が過ぎたある日。
その日、タバが旅立ちました。
突然、呼吸が止まり、苦しむ間もなく、あっという間に死んでしまいました。
貧血になって、苦しんで苦しんで、そして壮絶な死に方をする…
タバには、そんな死に方はして欲しくなかった。
だけどあっという間に死んでしまいました。
苦しまなくて死んだから、良かった?
正直、私はそう思いました。
タバちゃんさよなら。
いっぱい遊んだね。
楽しかったね。
タバちゃん、いい猫だったよ。
冷たくなったタバに、私はそう話しかけました。
きっとタバは、あの黒猫のお母さんや、ほかの兄弟のところへ帰ったと思います。
あの木漏れ日の当たる「幸せな午後」を、これからお母さんや兄弟たちと一緒に過ごすことでしょう。
それで今度は、そのタバの話です。
それはハナビ君を引き取ることになったときから、さらに約四年前の出来事です。
たまたま仕事絡みで保健所の待合室を通ったら、「みゃーみゃーぴーぴー」という猫たちの鳴き声が聞こえてきました。(親子連れ?)
それで私が、思わずその声の方へと向かうと、(そういうのが、私の悪い癖です)そこにはケージが置いてあり、その中に黒猫のお母さん猫と、四匹の仔猫たちがいました。
仔猫は白にキジトラが三匹。それと、暖かそうな色合の、ちょっとアメショーっぽいキジトラの仔が一匹でした。
子猫たちは生まれて二か月くらい。
そして保健所の人にたずねたら、何と殺処分予定だって!
そんな話を聞いて、私はこの仔たちが可哀そうで可哀そうで仕方なくなり、そして居ても立ってもいられなくなってしまいました。(そういうのも、私の悪い癖です)
だけど私の家にもキャパシティーがあるから、仮に引き取るとしてもせいぜい一匹です。
前にも書きましたが、うちは定員5匹。それで、その仔を引き取ると6匹目となってしまう。
定員オーバーの120パーセント!
それで仮に1匹の仔猫は私が引き取るとしても、お母さん猫と、あと仔猫が3匹!
どうしよう…
それから私は、自分の職場のいろんな人にもあたりました。
猫好きの物好きそうな人が見に来てくれました。
だけど結局誰も引き取ってくれなかった。
うちには犬がいるから(私の家にも犬はいるぞ!)とか、子供がアレルギーだから、とか。
だけど犬がいるというのは、猫を飼えない理由には、全くならないのだ!
それは経験的に、私は知っています。
犬猫を一緒に飼ったら、だいたい仲良しになる。
たいていの仔猫は犬のことを「お母さん」あるいは「兄貴」みたいに思うようだし、犬は犬で、仔猫のことを「可愛い子分」だと思うみたいです。
それで犬は仔猫をぺろぺろとなめてあげ、面倒を見てあげたりして、一方、仔猫は犬のことを慕うのですけどね。
それはともかく、うちには犬がいるからとか、子供がぜんそくだからとか、いろいろな立派な理由を言って、結局誰も引き取ってくれなかったのです。
だけど私は現在、7匹の猫の里親をやっています。大変だけど何とかやっていますよ。
猫は犬みたいに散歩もさせなくていいし。
だからたった猫一匹くらい何とか…
まあそれはいいです。
だけど、ともあれ私は、その中でキジトラの仔を引き取ると決めて、それで保健所から猫用の小さなケージを借り、それに入れて連れて帰ることにしたのです。
それから、前にも言ったように、引き取るのにも限度、というか、節度というものがあります。
だから私は、心を鬼にして、もう本当に心を鬼にして、残りの仔たちを引き取ることは断念しました。
ところで、なぜキジトラの仔にしたかは、また次の話で書きます。
そしてハナビくんのときのように「終生責任を持って飼育いたします」という用紙にサインし、保健所の人に渡しました。
用紙を受け取った保健所の人は、「ああ、これで一匹助かった!」と、嬉しそうに言ってくれました。
本当は、保健所の人だって辛いのです。
だったら保健所の人が引き取れば?
いやいや、聞いてみると、保健所の人も結構動物を引き取っているそうです。
それに最近は「殺処分ゼロ」を目指す風潮もあります。
行政だって、頑張ってくれているところも多くあります。
だからそういうことが広まればいいのですが…
ところで余談ですが、日本で最初に殺処分ゼロを達成した県はどこか知っていますか?
その答えは熊本県です。
それから、これはずっと後で知ったことなのですが、こういうケースでは、最近では動物保護のNPOなんかに連絡すると、可能な限り引き取ってくれます。
よく里親探しのページで、「保健所からレスキューした仔です」なんて書いてあります。
それともう一つ。
最近では保健所も里親募集の活動をずいぶんとやってくれています。
保健所のホームページなんかにも里親募集を載せていますし、NPO法人の犬猫譲渡会の場を提供してくれたりもしています。
世の中がだんだんといい方向へいくといいですよね。
いろいろ書きました。
それで、そのキジトラの仔の話の続きです。
それから私は、そのキジトラの仔を連れて帰ることにしました。
だけど帰り際に、私は思わず、またそのケージを見てしまいました。
するとケージの中で、黒猫のお母さんが、残った3匹の白キジの仔を、優しくなめてあげていました。
そして保健所の窓から、中庭に植えてある木に当たった木漏れ日が、ケージの中の猫たちを照らしていました。
とても幸せな光景ですが、とても残酷な光景でもあります。
あの光景を、私は一生忘れません。
辛かったです。
だけど私は心を鬼にしたのです。
そしてあの仔たちの分、このキジトラの仔を可愛がってあげようと、心に誓いました。
それから私は、そのキジトラの仔を家に連れて帰りました。
「先住さん」の五匹の猫と、二匹の犬と、一匹一匹に「よろしく」とあいさつさせて、それから私はその仔に「タバ」と名付けました。
なぜタバと名付けたのかも、また後で述べます。
そして次の日。
仕事中、私はあの黒猫のお母さんのことを思い出しました。
「あの仔だけでも助けてくれてありがとう」
黒猫のお母さんが私にそう言っているような気がして、本当に辛かったです。
心を鬼にしなければ良かったと後悔しました。
だけど全部引き取ったら、我が家は一体どうなっていたか…
とても難しい問題です。
ともあれ、それからタバはどんどん育っていきました。
キジ猫らしく、少しだけやんちゃでした。
体が少し小さくて、少しおとなしくて、そして優しい仔でした。
もちろん私にもよく懐きました。
それから、ミニチュアダックスとは、大の仲良しになりました。
(ほらね、言った通りでしょ。仲良しになるでしょ!)
だけどそれから三年後のある日。
猫部屋へ行くと、タバが動けなくなっていました。
そして血の混じったおしっこを漏らしていました。
それから急いで獣医さんのところへ連れて行くと、物凄い貧血で、輸血をしなければ死ぬと言われ、それで輸血をしてもらいました。
それから他の獣医さんにも行っていろいろ調べてもらったりして、結局「ヘモバルトネラ」という病気だということが分かりました。
それでいろいろと注射をしたり、薬を飲ませたりしました。
だけど薬の効果はあまりなく、依然として強い貧血が続いきました。
ヘマトクリット8%!(とんでもない貧血です)
獣医さんは、もしかすると、背景に血液の病気があるのかも知れないと言いました。
悪性リンパ腫とか白血病とか…
私は猫の里親をやっています。たくさんの猫を飼っています。
だけど私は、本当は猫たちに、基本的に「食住」だけを提供しようと思っています。
本当は、命にあまり介入したくないのです。
それがその仔の天命だったら、仕方がないと思うのです。
だけど理不尽な殺され方はいやなのです。
それゆえに、まがりなりにも猫の里親をやっているつもりなのですが…
それで、ともかく私は、キャットランドの上に寝そべるタバの顔を見ながら、もしも白血病とかだったら、抗がん剤を使うのはやめようね。そしてもし今度きつくなったら、もうそれっきりにしようねって約束しました。
だけど貧血の薬だけは、毎日飲もうねと決めました。
それからタバの顔を見ながら、私は考えました。
きっといつか、タバとのお別れの日が来てしまう。
だけど、それまで一生懸命、タバのこと、可愛がるからね。
だけどそのときが来たら、タバ、さよならだね。
さよならだね…
それから毎日毎日、タバに会うのは、幸せだけど辛かったです。
いつまでこの仔と一緒にいれるのだろう?
そんなことを考えながら、タバと一緒の、大切な大切な時間を過ごしました。
それからのタバは、いつも少しだけ息が苦しそうだったけれど、食欲もあったし、それなりに元気に暮らすことが出来ました。
毎日たくさんの水を飲み、たくさんのおしっこをしていました。
貧血で少ない血液を、水を飲んで補おうとしていたのだと思います。
タバだって必死で生きていたのです。
それから十一か月の時が過ぎたある日。
その日、タバが旅立ちました。
突然、呼吸が止まり、苦しむ間もなく、あっという間に死んでしまいました。
貧血になって、苦しんで苦しんで、そして壮絶な死に方をする…
タバには、そんな死に方はして欲しくなかった。
だけどあっという間に死んでしまいました。
苦しまなくて死んだから、良かった?
正直、私はそう思いました。
タバちゃんさよなら。
いっぱい遊んだね。
楽しかったね。
タバちゃん、いい猫だったよ。
冷たくなったタバに、私はそう話しかけました。
きっとタバは、あの黒猫のお母さんや、ほかの兄弟のところへ帰ったと思います。
あの木漏れ日の当たる「幸せな午後」を、これからお母さんや兄弟たちと一緒に過ごすことでしょう。