第9話 一線を超える

文字数 5,381文字

『今から約千年前、預言者グレーダンは厄災の根源となる7つの悪徳を定義し、再び厄災を引き起こさぬよう『7つの(いまし)め』を掲げ、これを遵守(じゅんしゅ)するよう大陸の民と約束を交わした。』

『現代では最早(もはや)グレーダン教典の中でしか触れることのない契約だと言えるが、7体の悪魔に対する定義は今尚(いまなお)揺るがないものだ。悲嘆(ひたん)虚栄(きょえい)憤怒(ふんど)嫉妬(しっと)淫蕩(いんとう)貪食(どんしょく)、強欲。…だが『(かげ)の部隊』による調査、ならびに国家として過去に保管されていた記録の数々を踏まえると、7つの悪徳は更に2つの要素で分類することが出来(でき)る。』


『1つは、悪徳を向ける対象が無差別か(いな)か。もう1つはその対象を執着するのか、拒絶するのかという観点だ。簡便に説明すると、対象が多数かつ無差別であればあるほど、また執着するより拒絶するほど、厄災が継続する時間…(すなわ)ち悪魔を宿した者の寿命は短い傾向にある。恐らく瞬間的な魔力の消費が、比較的激しものとなるのだろう。』

勿論(もちろん)7体の悪魔が引き起こす厄災にはそれぞれ独特の性質があり、一概(いちがい)に時間の長短を順位付けられるわけではないが、今後悪魔と対峙(たいじ)する際の参考にはなるだろう。では、この中で最も短命な傾向となる厄災はどれか。…答えは、『悲嘆(ひたん)の悪魔』による厄災だ。』


『『悲嘆(ひたん)』に(おちい)る要因は多々あれど、安直に言い表すならば極限の絶望だ。この世の(すべ)てを信じられなくなり、関わる者を余さず蒼炎(そうえん)で焼き尽くしてしまう…それが『悲嘆(ひたん)の悪魔』が引き起こす厄災だ。』

『その悪魔を宿した者は火種なしで意のままに炎を(おこ)し、あらゆる物質に延焼させてしまう。感情の(まま)()き散らす業火(ごうか)は、あまりにも無秩序で破滅的だ。(あお)い炎は赤よりも高温だと言うが、あれは魔力で(おこ)しているが(ゆえ)の現象だろう。』

『とはいえ、(わず)かでも触れれば一溜(ひとたま)りもないことに変わりはない。耐火ローブは支給するが、過信してはならない。そして無差別に拒絶を振り()くことから、魔力の浪費が大きく厄災としての持続は短い。『悲嘆(ひたん)の悪魔』を『封印』するためには、蒼炎(そうえん)の猛威を()(くぐ)り早期決着を挑むことが(のぞ)ましいと言える。』



——ラ・クリマス大陸暦999年6月2日 深夜2時頃 ディレクト州ディレクタティオ


[予定通り『悲嘆(ひたん)の悪魔』の封印に成功。未明(はつ)の列車にて帰還し、封瓶を引き渡す。大聖堂の調査は同時刻を(もっ)て開始される。]


 事前に指示されていた通りの走り書きを風蜂鳥(かぜはちどり)(くく)り付け、宵闇(よいやみ)にその飛翔(ひしょう)を見送ったカリムは、待機場所となる宿舎の一室に戻るや(いな)や扉に(もた)れかかり、その場で崩れ落ちた。

 今すぐにベッドに入らなければならないほど身体は限界を迎えていたが、未明(はつ)の列車まで4時間ほどしか残されておらず、安易に眠りに就けば到底目覚める自信がなかった。


 だがそれ以前に、カリムの脳内では青白い残像が()(なお)弾け、そのなかで『宿主』の最期(さいご)の表情が鮮明に映し出されていた。

 横たわって目を(つむ)ろうものならその光景に(すべ)てを支配されてしまいそうな気がして、へたり込んだ姿勢で暗く狭い室内を茫然(ぼうぜん)(なが)めながら、迫り来る嘔気(おうけ)を全身の震えとともに抑圧することに必死であった。


——違う。俺は他人(ひと)を殺してなんかない。『宿主』は悪魔が顕現した時点で、(すで)に悪魔に殺されてるんだ。俺が殺したんじゃない……!




 ラ・クリマスの悪魔の撲滅(ぼくめつ)を掲げる『(かげ)の部隊』への入隊を決意したカリムは、ルーシー・ドランジアに連れられる形でグリセーオを去った。
 城郭(じょうかく)都市トレラントのとある軍事関連施設の地下に候補生として送り込まれると、戦闘訓練を受けるとともに厄災に関する歴史や時事情勢について学ぶ日々が始まった。

 必要のなくなった長髪は切り落としたが、相変わらず黄金色(こがねいろ)の左目は前髪で隠し続けており、悪魔への復讐心(ふくしゅうしん)に身を(やつ)すことで近寄り(がた)陰鬱(いんうつ)な雰囲気は(むし)ろ助長されていた。

 穏やかな時間など1日として見出(みいだ)せなかったが、胸に空いた(むな)しい(あな)は底なし沼のように活力に()えていた。


 そして5年の月日が経つと、愈々(いよいよ)7体の悪魔を『封印』する計画の口火が切られた。
 カリムはルーシーからディヴィルガムを託されて最前線に立つこととなったが、その選考理由については当然に知る(よし)もなく、知る必要性を感じていなかった。

 『(かげ)の部隊』には同年代の子供もいればずっと(よわい)の離れた大人も混在しており、自分の能力が最も秀でているなどと思ったことはなかった。
 ただ任命されたことを幸運に捉えるのみで、『封印』装置だという透明な液瓶にも何ら関心を(いだ)くことはなかった。



 6月1日、カリムは午前中にはディレクタティオに到着し、指示通りの拠点にて待機していた。
 数日以内に大聖堂で『悲嘆(ひたん)の悪魔』による厄災が発生する可能性が高いこと、厄災により大聖堂が崩壊した後は別部隊による調査が入ることを事前に(しら)せられていた。

 自分以外にも多くの部隊員が密かに動き計画を推進していることは承知しており、その実態の(ほとん)どについてカリムは知り得なかった。
 だが悪魔の撲滅(ぼくめつ)という大義への第一歩が自分の手に掛かっていると思うと、初めて窃盗を犯した時よりも遥かに浮足立(うきあしだ)っていた。

 『(かげ)の部隊』として悪魔と実際に対峙(たいじ)するのは初めてであり、伝聞(でんぶん)だけの脅威よりも失敗に対する不安が上回っていた。
 今回の標的は因縁のある『強欲の悪魔』ではなかったが、将来的に相見(あいまみ)えるためにも最初に結果を残すことが必須であり、窓に映る荘厳(そうごん)な大聖堂を戦々恐々(せんせんきょうきょう)(なが)め続けていた。


 その日の夜には予期されていた通りに大聖堂が蒼炎(そうえん)に包まれ、街中が阿鼻叫喚(あびきょうかん)に満ちるなか、素性(すじょう)を隠したカリムは宵闇(よいやみ)に紛れて丘を()け上がった。
 周辺は大陸軍によって包囲するように一晩中警備が敷かれ、悪魔と対峙(たいじ)する舞台は(わか)(やす)く整えられていた。

 だが大聖堂を焼き尽くした蒼炎(そうえん)は1時間ほどで北風に(あお)られ徐々に鎮静(ちんせい)していったものの、カリムが悪魔の『宿主』と対面するまでにはそこから(およ)そ4時間が経過していた。


 その間『宿主』は不似合(ふにあ)いな大鎌を肩に掛けながら瓦礫(がれき)(むくろ)の上で(うずくま)り、(うつ)ろで恍惚(こうこつ)な表情を浮かべたまま微動(びどう)だにしていなかった。
 絹のような長い白髪(はくはつ)(あや)しく揺らめかせるその姿は、カリムの(まなこ)にはこの世のものとは思えぬ不気味な人形のように映っていた。

 一度魔力を激しく放出した『宿主』は一時的な意識混濁(こんだく)(おちい)ることがあると聞いていたが、その姿は一見(いっけん)無防備でも常に間合いを警戒されているように思えて、息を(ひそ)めて(にじ)り寄りつつも仕掛ける機会をいつまで経っても見出(みいだ)せずにいた。
 ディヴィルガムを(たずさ)える自分以外に戦闘に加勢する者はおらず、失敗への恐怖が重い足枷(あしかせ)になっていることを自覚していた。

 だが唐突(とうとつ)に『宿主』が透き通るような声音で(うた)い始めたので、焦燥(しょうそう)と共にカリムの潜伏(せんぷく)躊躇(ちゅうちょ)が生じた。
 そしてその致命的な隙は予想だにしない速さで投擲(とうてき)された大鎌によって突かれ、長時間に(わた)る警戒はその一瞬で水泡(すいほう)に帰していた。



 眠れない夜は、あまりにも残酷(ざんこく)なほどにゆっくりと時間が刻まれているような気がしていた。
 カリムの脳内では悪魔の『宿主』であった白髪(はくはつ)の修道女との対峙(たいじ)走馬灯(そうまとう)のように想起され、動悸(どうき)は依然として落ち着く気配がなかった。

 悪魔との戦闘記録はいずれにせよ報告書として取り(まと)める必要があり、記憶が新鮮なうちに書き留めておくべきだと思いつつも、気力を失った身体はまるで自由が効かなかったため、(つづ)るべき内容を頭の中で出来(でき)る限り整理することに努めていた。


 まずカリムは、悪魔の『宿主』相手に対人を想定した戦闘訓練は(まった)く役に立たないことを思い知らされていた。

 名も知らぬ修道女は常人ならぬ腕力や瞬発力を発揮(はっき)していた一方で武器の扱いは素人(しろうと)同然であり、全体的な動作が覚束(おぼつか)ず順応出来(でき)るまでに時間を要していた。
 蒼炎(そうえん)の制御も最期(さいご)を除いて的確かつ戦略的であり、九死に一生を得たと言っても過言ではなかった。

 一筋縄ではいかない使命だと(わきま)えたはいたものの、部隊としても悪魔の力の(すべ)てを把握し(のぞ)んでいるわけではなく、実戦の中で(おのれ)の判断力を研ぎ澄まさなければならないことを(きも)(めい)じていた。


 次に、結果論ではあるがディヴィルガムが本当に魔力を遮断(しゃだん)出来(でき)たことに驚愕(きょうがく)安堵(あんど)を覚えていた。

 事前に聞いてはいたが実験する機会はなく、魔力で(おこ)された炎だと知っていても、その古びた杖を構えて迎え撃つ勇気は更々(さらさら)湧かなかった。
 だが修道女がこれまで以上に(しら)んだ炎を発しながら(ふさ)ぎ込んだとき、ルーシーから受けた教示が頭を(よぎ)り、形振(なりふ)り構わず杖を掲げて炎へ突っ込む他なくなっていた。


『悪徳には『矛先』がある。特定個人なのか不特定多数なのか、それに対し執着したいのか拒絶したいのかで悪徳を分類出来(でき)ることは(すで)に説明したが、『宿主』にとって『矛先』に(ほころ)びが生じることは致命的だ。』

(すなわ)ち、悪徳を向ける対象や理由を喪失した場合、悪魔の力は行き場を失い『宿主』(みずか)らに降り掛かる。悪魔にとって思いのままに厄災を(ふる)えない(うつわ)は、容赦なく切り捨てられてしまうのだろう。裏を返せば『宿主』の隙を突く絶好の機会と言えるが、『封印』を目的とする上では最後の機会だとも言える。』



 あのとき修道女は廃墟一帯を蒼炎(そうえん)で包み込み、(みずか)らもまた炎に閉じ(こも)ろうとしていたことを思い返しながら、カリムは何故(なぜ)そのような破滅へと転じたのかぼんやりと考え始めた。


貴方(あなた)の雇い主は誰。貴方(あなた)みたいな人間が(ひと)りで厄災に(いど)んでくるはずがないわ。教えてくれれば、貴方(あなた)の命は見逃してあげる。』


 大鎌にローブの(はし)()い付けられるように貫かれ、瓦礫(がれき)の山に(いびつ)な態勢で固定されたカリムは、その(つんざ)く衝撃音で意識が飛びかけていた。

 そんななか修道女の低く冷たい脅迫は不思議と脳内に染み込んでいたが、(こた)えられる余裕はなく、そもそも何一つ(こた)えるつもりなどなかった。標的に対し会話を交わす必要などないことは、誰に言われるまでもなかった。


『…何も(こた)えないということは、貴方(あなた)には代わりの()く駒が控えているということでしょう。貴方(あなた)は自分の命が使い捨てのように利用される現実が悲しくないの? …どうして、何の抵抗もなく、そんなに容易(たやす)く死を受け入れようとするの?』


 いかに劣勢だったとはいえ何も諦めてはおらず、他の誰にも手柄(てがら)を明け渡したいと思っていなかった。
 『(かげ)の部隊』として生きる以上は確かに自力で失敗を取り返すことは困難かもしれないが、それ(ゆえ)に最後まで形勢を立て直す余地を虎視眈々(こしたんたん)(うかが)い続けていた。

 だが修道女はその八つ当たりのような台詞(せりふ)を最後に何も(しゃべ)らなくなり、(しばら)くして蒼炎(そうえん)に閉じ込められてしまっていた。


——会話の拒絶し続けたことが、『矛先』を喪失させるきっかけになったのか? 目の前でまだ敵が生きているのに、何故(なぜ)(とど)めを刺す前に自壊したんだ?


 その空白の因果関係を推測していると、修道女の(くら)い言葉の数々が沸々(ふつふつ)とカリムの脳裏(のうり)(よみがえ)ってきた。



『生まれつき悪魔と(さげす)まれ拒絶され、数えるのも嫌になるほどの憎悪(ぞうお)と殺意を向けられ、挙句(あげく)本物の悪魔に(おか)され、いくら振り払っても終わらない私の悲しみを…止めどない激情が(もたら)す力を、貴方(あなた)が制圧することは叶わない。』


——あの人の過去は何も知らない。何が原因でそんなに悲惨(ひさん)な人生を歩むことのなったのか、知る(よし)もない。生まれた故郷も親も(わか)らず、左右の瞳の違いを散々(さんざん)気味悪がられてきた俺の方が…天罰のように大切な存在を奪われた俺の方が、余程(よほど)不幸な人生を送ってると思う。


『死神さん。貴方(あなた)が私を殺す理由は何ですか。何故(なぜ)貴方(あなた)が今ここで私を殺すことは許されるのですか。』

『何も悪いことなんてしてないのに、弁明の余地なく殺されたい人なんていないでしょう? だから死神さん、お願いします……どうか私を見逃してください。』


——人は何の落ち度がなくとも、突然命を奪われることがあるんだよ。悪魔が顕現した時点でそもそもあんたも限られた命に…(のが)れられない運命(さだめ)(とら)われていた。殺すも見逃すも筋違いでしかない。理不尽の理由は、あんたの中の悪魔に()くべきだったんだ。


『私を終わらせてくれたのが、貴方(あなた)でよかった。…さようなら。私の命が、貴方(あなた)のためになりますように。』


——最悪だ…なんで最期(さいご)にそんな顔で俺を見たんだよ!? それじゃあ本当に俺が殺したみたいじゃないか!? あんたの人生を終わらせたのは、ラ・クリマスの悪魔だろ!? あんたの命なんて、俺にはどうにも……!!



 噴き上がる蒼炎(そうえん)(なげ)くような轟音(ごうおん)を響かせる中、何故(なぜ)かカリムには修道女の感謝と祈りが明瞭(めいりょう)に聞こえていた。
 淡く(あか)い粒子となって崩れ行く(はかな)げな微笑がいつまで経っても脳裏(のうり)から引き剥がせず、自分の行動と結果が客観的に結び付けられていた。

 そこには他人(ひと)の人生を終わらせたという確かな事実があり、リオとは異なり何も面識のない他人のはずなのに、あまりにも慚愧(ざんき)()えられない自分の姿があった。

 人として超えてはならない一線を更に超えた気がして、忘れかけていた過去が——罪科(つみとが)の追及を恐れた幼き記憶が胸の内に(にじ)み出していた。
 カリムはこれから(したた)める報告書から(みじ)めな為体(ていたらく)(おお)い隠そうと、必死に自分を(さと)し続けていた。


——俺は人殺しじゃない…だって罪に問われることもないんだ。『宿主』にどう思われようが知ったことか。俺はただ『(かげ)の部隊』として…悪魔という存在を(すべ)て滅ぼすために生きているんだ……!!
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登場人物紹介

【ドール】齢19の修道女。

▶ラ・クリマス大陸北西部にあるディレクト州の歴史ある街ディレクタティオで暮らしており、グレーダン教の総本山であるディレクタティオ大聖堂に連なる修道院に属している。

▶生まれつきの白髪が忌み嫌われ、赤子の頃に大聖堂に託された孤児だった。

▶対人関係が希薄なため幼い頃から本の虫であり、好奇心が旺盛。

▶その性格が災いしてか、あることをきっかけに異端者、廻者として糾弾されることになり、その理不尽な仕打ちを機にラ・クリマスの悪魔を顕現させてしまう。

【死神】ドールの命を狙い対峙する謎めいた人物。

▶グレーダン教徒に似た紫紺のローブを纏い、真っ白で無機質な仮面を着けている。

▶グレーダン教に代々継承されてきた司教杖に似た、武器と言い難い杖を構える。

▶その先端に着装された黒い鉱石からは、悪魔を脅かす不思議な力が醸し出されている。

▶「死神」という名称は、ドールが便宜上付与したものにすぎない。

【ネリネ・エクレット】齢16の貴族令嬢。

▶大陸南東部ヒュミリア州、2大交易都市の1つであるメンシスを治める領主ホリー・エクレットの1人娘。

▶穏やかで物腰柔らかな性格だが、箱入り故に世間知らずである。艶のある金髪の持ち主。

▶だが突如メンシスを襲った猛烈な竜巻で被災し、親も家も失う。

▶街の再建を大陸軍に任せて親戚の元へ身を寄せることになるが、その言動はまるで別人になったようであった。

【カリム】大陸議会の事務官を名乗る青年。

▶年齢はネリネと同じくらいと思われ、左目を前髪で隠しており陰気そうな印象である。

▶身に付けている赤を基調としたシャツと議会所属を表すバッジを留めた黒地のチョッキは所定の制服のようなもの。

▶馬車に乗りメンシスを去るネリネに随行し、竜巻被害について聴取しようとする。

▶大陸北東部の孤児院の出身で、過去に何か苦い経験をしているようである。

【リリアン・ヴァニタス】ヴァニタス海賊団の若き首領。

▶巻き毛の金髪が特徴で、体術では随一の戦闘力を持つ。

▶急逝した父の遺言により、齢16にして首領の座を継承しているが、経験が乏しく未熟であるため、父の右腕であった幹部ローレンの助力を得ながら海賊団を存続させている。

▶海賊団はアルケン商会という善良な団体を騙る裏で、密輸品などの取引を働いていた。

【ロキシー・アルクリス】齢17の女使用人。

▶大陸中央部プディシティア州にあるセントラム農業盆地の領主クレオーメ・フォンス伯爵の別邸に仕える。

▶物心ついた頃から母レピアと共に別邸に棲み込みで従事しており、あまり外界との接触がない。

▶長い藍色の髪をしており、やや陰鬱な印象とは裏腹に齢離れした恵体の持ち主。

▶使用人長でもあるレピアとともに好からぬ秘密を抱えており、大陸軍側からの詮索を敬遠している。

【ルーシー・ドランジア】大陸平和維持軍 国土開発支援部隊の隊長。

▶すらりとした上背に長い黒髪を湛え、銀縁の眼鏡の奥に黄金色の瞳を覗かせる齢28の女性。

▶メンシス港の機能停止を受け、セントラムの生産品の出荷計画などを見直すべく部隊を牽引しフォンス邸別邸を訪れるが、密かに別の目的も念頭にあるらしくロキシーに探りを入れる。

▶飄々として掴みどころのない性格。身内も大陸議会の関係者であるらしい。

【ステラ・アヴァリー】齢24の孤児院管理人。

▶大陸北東部カリタス州の新興都市グリセーオで大陸軍が設立し運営を委託するジェルメナ孤児院に従事している。

▶領主キーウィ―・アヴァリーの1人娘であり、2年前に母から管理人の立場を継承している。

▶赤みがかった茶髪を三つ編みで束ねている。世話焼きで責任感や正義感が強い。

▶過去に厄災を経験して以来、1人でも多くの親なき子の命を護りたいと身を粉にして働いているが、結果としてこれ以上収容できないほどの孤児を拾ってしまい、食糧などの遣り繰りに頭を悩ませている。

【リオ】かつてジェルメナ孤児院で暮らしていた少女。

▶物語開始時点から7年前、グリセーオ西端を流れる川に独り漂着していたところを救助されたが、虚弱体質に陥っていたためジェルメナ孤児院に引き取られ静養することになる。

▶救助以前の記憶をほとんど引き出すことが叶わず、当時は齢7,8程度と推測されていた。

▶2年後に『強欲の悪魔』を顕現させてしまい、命を落としている。栗毛と鈍色の瞳が特徴。

【ピナス・ベル】伝説の瑠璃銀狼の血を引くラピス・ルプスの民の少女。

▶外見は齢12,3ほどだが、人間と比べて齢を重ねる間隔が緩やかで、既に30年生きている。

▶大陸北部アヴスティナ連峰の中腹にあるクラウザという集落で同胞と共に密かに暮らしている。

▶とある目的を果たすため『貪食の悪魔』を宿して鳥の姿となり、大陸西部へ向かっている。

▶7年前のとある出来事で人間側との軋轢を経験し、その際に『貪食の悪魔』を宿した母を失っているほか、サキナとも面識をもっている。

【オドラ―・ベル】ピナスの祖父であり、クラウザの集落を束ねる長老。

▶齢200を超え、ラピス・ルプスの民の特徴である銀色の毛並みは灰色にくすみ、全身毛むくじゃらである。

▶大陸の人間が内戦時代を経て現代に至るまでの歴史だけでなく、千年前から続く厄災についても口伝により知識を蓄えている。

▶人間と対立する気はないが、緩やかに数を減らしてく一族の行く末を憂い、『貪食の悪魔』を同胞から生み出さぬためにも、人間の手を借りてでも種を存続させるべきか思案している。

【クランメ・リヴィア】齢28の博物館職員兼調査研究員

▶大陸西部グラティア州、首都ヴィルトス近郊のアーレア国立自然科学博物館に従事している。

▶やや小柄で、分厚い眼鏡と象牙色の髪が特徴。大陸南西部ミーティス州の農村出身で、独特な訛りで喋る。

▶ルーシーとはグラティア学術院で同期生の関係だが、当時はあまり好ましい印象を抱いていなかった。

▶ラ・クリマスの悪魔の『封印』に関わるとある仕事を引き受けている。

【イリア・ピオニー】齢26にして大陸平和維持軍 国土開発支援部隊の隊長を務める軍人。

▶桃色がかった金髪と強い正義感の持ち主。国の平和のため心身を尽くそうとする厳格な性格。

▶現代に至る国内軍事を統括し続けた由緒あるピオニー家の娘。父ジオラスは元帥の地位にあり、2人の兄も同じく軍人である。

▶十代のころに出会ったルーシーの理想に感銘を受け、励まされたことでその背中を追い続けている。

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