第48話 単にお節介なだけです

文字数 1,351文字

「で、その御前会議にはうるさ方が揃ってる、と」
 ユージーンの茶化したような言い方にも、キースは真面目に頷いた。
「少なくとも宰相の提示している政策は国策として妥当なものだ。独断専行はないと見ていい。そういう意味では、かつて摂政を務めた太后の方がよほど露骨に専横的だった」
「太后が馬車の事故で死んで、宰相の謀殺じゃないかって噂が流れたんだよな~」
「ちょうど対立が最高潮に激化している頃だったからな。宮廷でも事故調査委員会が設けられた。結論として、宰相が事故に関与したという証拠はなかった」
「は。微妙な言い方だな。つまりまだ疑惑は完全に晴れてないわけだ」
「そっちは近衛隊の管轄だ。俺はよく知らん」
 むっつりと言うキースに、ユージーンは皮肉っぽく目を眇めた。
「それで? 元王様としてはどう思ってるのかな?」
「シギスムントが無能なら、できる宰相に任せておいた方がよほど安心だな」
「わ~、厳しいねぇ。手ェ貸してやらないの?」
「俺はとっくに引退した。手出しも口出しもしない。あんたたちもそうだろ」
 ユージーンはにやりとした。
「基本的にはそうだけど。今にも倒れそうな奴を見たら反射的に手を貸しちゃうよね」
「単にお節介なだけです」
「あたっ。アビちゃんキツイなぁ」
「わざと突き飛ばしておいて親切ごかしに手を差し出すよりは、よっぽどマシですけど」
 ユージーンは、ぽんと手を打った。
「なーるほど。つまり王家は今まさに『わざと突き飛ばされてる』わけだ」
「というか、突つかれてる状況だな。先々代の皇帝が亡くなって以来、王家には黒い噂が絶えない。現在の皇帝は幼く頼りがいがない。宰相にいくら実力があったところで国を代表するのは皇帝だからな。王家と協力して国を支えてきた聖神殿も、創造主教会に信者を奪われて影響力が低下しつつある」
「女神様の聖骸を公開すれば、王家と聖神殿、双方にとって人心を取り戻せる、と?」
 ソニアに向かってキースは頷いた。
「効果覿面だろうな。『奇跡』を目の当たりにすれば信仰心は劇的に高まり、創造主教会に流れた信者がかなり戻ってくるはず。当然、教会にとっては面白くない事態だ。といって横やりを入れるわけにもいかない。下手に反対表明や批判をすれば国内での布教を禁止されるおそれがある。そうなっては元も子もない。そこで〈月光騎士団〉の過激行為を黙認してる。というか、むしろ陰で奨励しているふしさえある」
「教会は騎士団との関係を否定してるんですよね」
「破門したわけだし、絶対に認めないよ。こちらとしても確たる証拠がない限り教会を閉鎖するわけにもいかない。――ところで、例の男だが、それらしき人物の行方が掴めた。エストウィック卿の従者で、その後ヒューバート卿の従者にもなった……」
「オージアス!? どこ? どこにいるの」
 父と兄を奪った男が見つかったと聞いては落ち着いていられない。勢い込んで迫るソニアに対し、キースは何故か顔色が冴えなかった。
「それが、大司教の邸宅にいるようなんだ。しかも、大司教本人の従者をしてるらしい」
「大司教って……、もしかして創造主教会の偉い人?」
「そう。アステルリーズ大司教座教会の主。アスフォリア国内における教会活動の最高責任者だ」
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