第67話 拷問するの!?

文字数 1,188文字

「答えると思うか!」
「自主的に答えてもらえないなら無理やり聞き出すしかありませんね。ソニア様、ちょっとあっちを向いててもらえます? あんまり見てて気持ちのいいものじゃないので」
「ま、まさか拷問するの!?
「そんなことしませんって。とにかくちょっと目をつぶってて──」
「ソニア様──!!
 いきなり甲高い女の声が響きわたった。驚いて振り向くと、そこには何故かフィオナが真っ青な顔で立っていた。後ろではユージーンがひらひらと手を振っている。
「地下限定方向音痴さんのために、わざわざ迎えてきてやったぞー。用は済んだ?」
「ば、馬鹿! なんで彼女を連れてくる!?
「やー、遠回りするのも面倒でさぁ。いちばん近い出入口から──」
「大変! お嬢様がお怪我をっ」
 先ほどギヴェオンに抱きついたせいで、ソニアの顔や服には派手に血がついていた。
「ち、違うわ、フィオナ。わたしは大丈夫……」
「お嬢様ぁっ」
「わぁっ、待って! それ踏んじゃだめっ」
 ギヴェオンが悲鳴じみた叫びを上げる。フィオナの足が床に流れ出した液体──元は椅子型の何かの装置のようだったもの──を踏んだ途端、液体が眩く発光した。
 生き物のように床から立ち上がった液体が粘性を増し、あっという間にフィオナの全身を包んでしまう。ソニアの時とは違う音が鳴り響き、それまで暗かった制御卓の盤面が一斉に点灯した。
『コード確認。封印を解除しますか』
 無機質な声がどこからか告げる。弾かれたように動いたナイジェルが、制御卓に飛びつく。同時にギヴェオンの瞳が輝き、手も触れずに吹っ飛ばされたナイジェルの身体は激しく壁に叩きつけられた。抑揚のない声が無情に報告した。
『プログラムの実行を開始しました』
 焦って制御卓を操作するギヴェオンを、磔状態でナイジェルは嘲笑った。
「無駄だ、一度動きだしたら止められない……」
「中止命令は出せるはずだ。そうでなければこんなもの弾かれる!」
 ギヴェオンは歯噛みしながらなおも操作を続ける。その後ろではフィオナがゼラチン質の膜から解放され、目をぱちくりさせていた。
「フィオナ! 大丈夫? 何ともない?」
「お嬢様……? あっ、お嬢様こそお怪我を」
「ギヴェオンの血がついただけよ。わたしは何ともないわ」
「い、いったい何が起こったんです?」
「わからないわ……」
 ギヴェオンは目にも留まらぬ速さで制御卓を操作している。くくっと掠れた笑い声がした。壁に叩きつけられた状態のままナイジェルは暗い笑みを浮かべていた。足が床についていないのに落ちもしない。まるで見えないピンで展翅板に留められた異形の蝶のようだ。
「そうか、娘をすり替えていたか……。まさかそんな手を打ってあったとは」
「ど、どういうこと……?」
「……女神の血筋はソニア様じゃなくて、フィオナのほうなんだよ」
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