第100話 無駄だよ

文字数 614文字


「さぁ、やるか」
翌朝、グラウンドに現れた上山をオレは早速マウンドに誘った。
上山はオレの言葉を全く信じていない様子だったが、黙ってオレについて来た。

「なんだなんだ?」
池崎や他の部員たちは不思議そうにオレ達の様子を見ている。

軽くキャッチボールから始め、徐々に距離を伸ばし、少し遠投をして、また距離を縮め、
上山はマウンドに登った。
上山がマウンドに立つ姿を見るのは、中学1年の夏の大会以来、実に5年ぶりだ。

上山は大きく振りかぶって、オーバースローから力一杯、ボールを投げた。
パシン!
ボールはオレのミットに綺麗に収まったが、あの時の力強さは無かった。
「もう一丁!」
オレは上山に返球した。上山は黙ったまま、もう一度投げた。
パシン!
また同じだ。
「もう一丁!」
オレの返球を受け取ると、上山は
「無駄だよ」
「そんなことないって!もう少し投げてみろよ」
その後、何球投げても、あの時の活きた球は来なかった。

「もういいよ。お前の気持ちは嬉しいけど、結局、俺の肩は壊れたままなんだから」
オレは悲し気な上山にすまない気持ちでいっぱいだった。
オレが余計なことをしたばっかりに、上山に辛い気持ちを思い出させてしまった。
その時、オレはふとあの時のことを思い出した。
あの時はファーストからの送球だった。
そうだ!
送球だ!

「上山!少しサイドスロー気味に投げてみろよ。
 ファーストからの送球だと思って」
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