第77話 ライトフライ

文字数 562文字

「ライト!」
高坂先輩の声が響きました。

打球は平凡なライトフライ。
ほぼライト定位置へ上がりました。
これなら先輩でも捕れる。
誰もがそう思っていたと思います。
チームメイトも、光南学園も、観客も、恐らく金子先輩たちでさえも。

「先輩。お願い。捕って」
私はただ祈りながら、先輩を見つめていました。
「児玉さん、そのまま、そのまま。絶対捕れる、絶対捕れますよ!」
隣で池崎くんも祈るように先輩を見つめています。

「オーライ、オーライ」
先輩は打球を見上げながら、手を上げ、少しフラフラとしています。
打球が落ちてきて、先輩は落下点に入っています。
もう大丈夫。そう思ったそのとき。
無情にもボールは先輩のグローブに当たって、こぼれ落ちました。

「先輩!」
私の目には涙が溢れていました。
あんなに毎日、一生懸命練習したのに。
野球の神様はいないの?努力は報われないの?
あまりにも悲しくて、切なくて、やり切れなくて、涙が止まりませんでした。

「ぎゃはははは」
「だから言っただろ!絶対エラーするって!」
「傑作だな!あんなの小学生でも捕れんだろ!」
「ぎゃはははは」
スタンドから金子先輩たちの声が聞こえます。

2塁ランナーは慌てて3塁へ。
ボールは先輩の前を転々とし、先輩はただ呆然と立ち尽くしていました。
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