第98話 もう一度

文字数 674文字


練習後、オレは久しぶりに上山と二人で帰っていた。
しばらくお互いに黙って歩いていたが、ふと上山が口を開いた。
「松島。色々悪かったな」
「上山・・・」
「お前と児玉のおかげで、やっと素直になれた気がするよ。
 やっぱり俺は野球が好きで、俺には野球しかないんだ。
 中学の時、お前が戻って来いって言ってくれた時も本当は嬉しかったんだ。
 でも、やっぱりピッチャーができないことがどうしても引っかかってた」

オレはふと上山が辞めた日のことを思い出した。
あの日、最後に上山が投げたボールは間違いなく活きていた。
「お前、もう一度ピッチャーやってみろよ」
「はぁ?何言ってんだよ。俺はもう肩が・・・」
「いや。あの日受けたお前のボールは間違いなく活きた球だった。
 ダメで元々だろ?
 明日、久しぶりにお前の球、受けさせてくれよ」
上山はしばらく黙っていた。

オレ達がコンビニの前に差し掛かると、金子と仲間たちがたむろしていた。
「おっ!上山じゃねぇか。なんだその頭」
金子の連れの一人が声を掛けてきた。
「おう」
上山は金子の方をチラッと見ながら応えた。
金子は黙ってジッと上山を見ている。
「また野球やってんのか?」
「まぁな」
「坊主頭、似合わねぇな。ぎゃはははは」
「うるせぇよ」
「ところで、あの“へたくそ”元気か?」
「あ、あぁ」
「あの試合以来、俺達すっかりあいつのファンになっちゃってよぉ。
 また応援しに行くから頑張れって言っといてくれよ」
「あぁ、わかったよ」
上山と金子の連れが話をしている間も、金子はジッと上山を見ていた。
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