第66話 わかってるさ

文字数 630文字

「児玉さん!児玉さんが練習に遅れるなんてどうしたんすか!心配したんすよ!」
僕がグラウンドへ行くと、真っ先に池崎っくんが駆け寄ってきた。
池崎くんは僕の隣にいる高坂くんを見て、不思議そうな顔で
「この方は・・・」
高坂くんは1年生たちが入って来る前に辞めていたので、
当然、1年生たちは高坂くんのことは知らない。

「高坂!」
浅野くんが駆け寄って来た。
「児玉。どういうことだ?」
松島くんが近づいて来て言った。
「みんなに相談もせずに申し訳なかったけど、
実は僕がお願いして、高坂くんが今度の大会に出てくれることになったんだ」
「おぉ!」
2年生部員たちは笑顔でざわついている。

高坂くんは膝をつき
「もしみんなが認めてくれるなら、野球部に戻らせて欲しい。
 ハンドボール部には筋は通してきた。虫の良い話だとは自分でもわかっている」
そして、土下座をして
「頼む」
「やめてよ!高坂くん。僕が無理矢理お願いしたのに」
僕がそう言って、高坂くんを起こそうとしても、高坂くんは土下座を止めなかった。

「お前はそれで良いのか?」
松島くんが言った。
「もちろん!」
「実力から言って、お前が補欠になるぞ。それでも良いのか?」
「もちろん、わかってるさ」
松島くんは僕の目をじっと見つめていた。
「わかった。お前が良いなら俺達は歓迎だ」
「ありがとう!」
2年生部員たちは高坂くんに駆け寄って、抱え起こし、
握手をしたり、肩を叩いたりして、喜んでくれていた。
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