第90話 本気でやりたいなら

文字数 602文字

「そうっすよ」
池崎が言った。
「上山さんはキャプテンだったのに、チームの和を乱した。
 だから罰としてキャプテンは降格。秋の大会は出場停止ってことでどうっすか?」
「池崎・・・」
オレは嬉しかった。
池崎だって、上山には腹が立っているはずだ。
それなのに上山を受け入れようとしてくれているのが、本当に嬉しかった。

「大村。お前はどうだ?」
オレがそう尋ねると大村はじっと上山を見ながら言った。
「俺は・・・。わかりません。そんな簡単に忘れられることじゃないですから」
当然の答えだ。池崎が楽観的過ぎるのだとオレは思い知った。

「でも、上山さんが本気で野球がやりたいなら、拒みはしません。
 俺も本気で野球やりたくてやってるんで」
大村も許そうと努力をしてくれている。
上山はじっと大村を見つめていた。

「鈴木。お前はどうだ?」
「自分も大村と同じです」
「町村は?」
「私は戻ってきて頂きたいです。でも・・・」
「どうした?はっきり言えよ」
「辞めていった1年生たちが・・・」
そうだ。その通りだ。あいつらを戻す方が先だ。
オレはキャプテンなのに、上山のことばかり考えて、
あいつらのことをすっかり忘れていた。

上山は黙ったまま、オレの手をそっと解き、歩き出した。
「上山!」
「上山くん!」
オレに続いてアイツも上山を呼び止めようとしたが、
上山は一切振り返ることなく歩いて行ってしまった。
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