第89話 野球をやる資格

文字数 617文字

「大丈夫か?」
オレは上山に手を差し出した。
じっと空を見つめていた上山は、ようやくオレを見た。
上山はオレが差し出した手を無視して、自分で立ち上がった。
そして、黙って立ち去ろうとした。
「待てよ!」
オレは上山の腕を掴み引き止めた。

「お前、やっぱり野球やりたいんじゃないのか?」
上山は黙ったまま、振り向きもしない。
「今日、ここに来たのも、アイツにあんな風に檄を飛ばしたのも
 やっぱり野球が好きだから、やっぱり野球がやりたいからじゃないのか?」
上山はしばらく黙っていた。

「今更、俺にそんな資格はねぇよ」
上山はボソッとつぶやいた。

「そんなことない!」
声のした方を見ると、アイツが立っていた。
後ろには他の部員たちの姿もあった。

アイツはオレ達の方に近づいて来て言った。
「野球をやるのに資格なんか必要ないよ。
 資格が必要なら、僕こそそんな資格はない。こんなへたくそなのに。
 僕は高校では野球はやらないつもりだった。
 でも高坂くんが好きならやれば良いって言ってくれた。
 他のみんなも僕をチームメイトとして受け入れてくれた。
 上山くんだって野球が好きならやればいいじゃないか!」
いつも穏やかなアイツがめずらしく語気を強めて言った。

「お前と俺とは違うんだよ!」
上山も語気を荒らげて言った。
「お前はチームを大事にしてるから、みんなが受け入れるんだよ。
 俺はどうだ?チームをぶち壊したんだぞ!」
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