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文字数 1,279文字

 戦闘で助けた部隊の一つ、甲信越軍・2885小隊に青の機人は身を寄せた。
 長居するわけではない。なんの好意もない。
 この隊が、整備・補給などが一番行いやすいと、古谷が判断しただけである。
 他管轄とはいえ階級が上、しかも全域に協力命令が出ているらしい古谷から提案されればごく一般的な一小隊に断る術などある訳もない。

 到着した装甲車から古谷に続いて青薔薇姫が下りてきた時、迎えに並んでいた小隊の誰もが息を呑んだ。
 青銅色の髪。白すぎる肌。蒼の瞳。
 前もって古谷から「異色な子だから」と言われてはいたが、想像を超えていた。人かどうかも怪しげな存在が関東軍の制服を着ている姿はなんだか不自然で、この世のものではないような印象がある。
「改めて。僕は古谷疾風。階級は少佐。彼女は同じく少佐の青薔薇姫。二人だけだが関東軍直属・独立支援型人型機部隊として、任務により大阪へ向かう途中である。これよりしばらくの間、こちらの隊に身を寄せる…………よろしく」
 決まり通りの口上を言った後、最後に挨拶と共に笑ってみせる。
 これだけでも随分、相手の印象を良くする事が可能だった。何しろ青薔薇姫が鉄面皮なので古谷の方がバランスを取らないと、二人揃って極端に距離を置かれかねない。
 そうでなくとも年齢と所属期間の割に階級が高くなっているのでやり辛いのに。
 名乗った古谷の前に青年が歩み出てくる。落ち着いていることや髭を生やしていることで年嵩に見えるが、肌などから恐らくまだ二十代前半だろうなと推測された。
「私がこの隊の司令、坂田です。我々に何か出来ることがあればおっしゃってください。また、我々の方でも貴方がたに教わる事は多いでしょう。短い間ですが、よろしく」
 古谷は、差し出された手に握手する。
 坂田がちら、と隣を見た。
「ところで、その、青薔薇姫というのは…………?」
(やっぱり言われるか)
 前の隊に居た頃は周りの方が先に慣れていたのもあって古谷も普通に受け入れていたが、よく考えれば姫とついてるあたり呼ぶのも結構気恥ずかしい名前である。
 そしてこの国で名字がない人間は、滅多にいない。
 関東はともかく、誰も青薔薇姫を知らないらしい甲信越まで来ると、こういう質問が増えた。
「彼女の本名ですよ。正確には名前で、名字は無いようですが」
「はぁ…………」
 当の本人は、まったく関心無く、ぼんやりとしている。
 あの様子だと早く人型を洗いたいとか思っているのだろう。彼女は最接近戦を得意とするくせに、人型が汚れるのは嫌だというのだから手に負えない。
 潔癖症かと思うものの、気にするのは人型周りだけなので少し違うのかもしれなかった。
 なんにせよ戦闘後は隅々の洗浄が済むまで修復も整備もしようとはしないのだ、この姫は。
 今日に限って言えば、人型を納めている装甲車の洗浄も先にしなければならないのだろう。ろくに汚れを落とす間も無く積み込んで移動してきた時に中がどうなるのかは過去の経験からも明らかだ。
 名前といい、性格といい、一筋縄でいかない相棒である。
 今日も徹夜かも……考えて、古谷は頭が痛くなった。
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