37

文字数 1,422文字

 装甲車へと戻る途中で数人の男に囲まれた。
 自分と大して歳の変わらなそうな者達を表面上は穏やかに、だけど内心は気だるい気分で古谷は眺める。
 いつ戦闘が開始されるか分からず、どんな扱いされるかも不明なこの場所では、早く装甲車に戻って仮眠したいのに。
 見上げる古谷を男たちは胡散臭そうな顔をして見てきた。
「お前が、青の機人のパイロットなのか?」
「うん。関東軍直属・独立支援型人型機部隊の古谷疾風。部隊といっても僕ともう一人しかいないんだけどね。確かに青の機人とも呼ばれてるよ」
 全くのタメ口は年齢が変わらなさそうだからか、同じ兵士だと思う気安さからか。
 少なくとも今の古谷は相手の制服からして確実に階級が上。そんな口の利き方をされたこと自体を罰しても軍規上は問題ない立場なのだが、どうやら関東以外において古谷たちの階級はその年齢と同じくあまり広まっていない。
 故に彼らが知らないのも仕方ないのかもしれないが……階級関係なく初対面の人間に対する話し方じゃないよなぁと古谷は思う。
 だが相手は表情を険しくして掴みかからんばかりの勢いで更に言い募ってきた。
「なんでもっと早くこねーんだよ。いままでどこで道草食ってたんだ、あぁ?」
(はぁ……言いたい放題だなぁ)
 確かに昨日は道に迷ってたし、温泉なんて入ってたりする。そしてこの場所だけなら全国でも指折りの激戦地なんだろう。
 でも、そんな言い方される筋合いはない。ここ半月以上はずっと甲信越での連戦だった。早く来てないから何もしてない、にはならない筈だ。
「あのね。僕らだって所詮は人間だよ? 一度に一つの戦場にしか来られない。そうでなくても大阪に行けっていう命令が出ていて、本当はもう信濃まで進んでたのを、此処の苦戦の話を聞いてわざわざ戻ってきたんだよ。場合によっては僕ら、引き返した事の方を命令違反で処罰されかねないんだ。それでも来た。なのにそんなこと言われると不愉快だよ」
 かろうじて笑顔のまま、しかし言葉はきつくなってしまった。大人げないと思う。
 だけど最近、行く先々でこんなことを言われる。一体、自分達を何だと思っているのか。
 いや百歩譲って青薔薇姫が人の枠に入れて良いか分からないくらい凄くたって、それでもこんな扱いをされる筋合いはないだろう。
「ごめんね、一昨日の戦闘がらずっと寝ないで此処に移動してきてたもんだから、寝不足で気が立ってるみたいなんだ。文句なら後で訊くから今はほっといてくれるかな」
 そのまま相手に発言を許さずに話し続けたので、男たちが怒りを滲ませ睨んでくる。
 だが気にもとめずに古谷は続けた。
「これから先、僕の許可なく、僕らの居る装甲車にみだりに近づくことを禁じる。連絡は通信で行う事。これは関東軍中佐としての命令だよ。皆に伝えておいて」
 この場に逆らえる相手が居るとは思えない。この甲信越の陣地内にすら、これより上の階級がいない可能性もある。故に命令を下してしまえば管轄が違えど彼らは逆らえない。
 軍に所属し軍の重要な最前線で暴れる人間たちほど、その上下関係の厳しさと逆らった時の恐ろしさは骨身に染みている筈だ。理性がいっときの感情に負けるような人間は激戦区の前線に送られるほど戦果を残せないから。
 この対応は相手の神経を逆撫でしたようだったが、それ以上に古谷の方が先に神経を逆撫でられていたので、容赦ない。
 取り囲んでいた男達をすり抜け、古谷は再び装甲車に向かって歩き始めた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み