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文字数 1,287文字
補給の申請や受け取り、戦闘記録の連絡を終えた古谷が適当に人の相手をした後に装甲車に戻ると、青薔薇姫が熱心に人型の洗浄を行っていた。水も貴重品である戦時下、けれどいつも何処から持ってきたのか分からない綺麗な水の詰まったドラム缶が、今日も装甲車の周りに乱立している。
実は水など一部のものは今の職務についてから一度も申請したことがない。
いつの間にか青薔薇姫が調達している。その運び込む様を、古谷はまだ一度も見たことがなかった。数や頻度からして見かけないなんてあり得ないのに。
「手伝うよ」
声を掛けて、壁際に置かれているモップを手に自分も作業を始める…………はずだった。
古谷にしてみれば、瞬きしたくらいの感覚しかなかった。
しかし、次に目を開けたときには彼は横になって白い天井を見上げていて、そしてそれは見慣れた装甲車内にある彼の寝床の天井だったのだ。
しばらく状況が掴めなくて。ぼーっとする。
うまく動かない思考で最後の記憶をゆっくりと手繰り寄せた。
(俺は……そうだ、洗浄を手伝おうとして)
慌てて飛び起きた古谷の視界に、時計が目に入る。指している時間は、七時ちょうど。その向こうにある窓からは、やけに明るい光が斜めに差し込んでいる。
つまり今は。
「疲れは取れたか?」
転がるように寝かされていたベッドから飛び出し外に出ると、いつもと変わらない様子で人型の整備を行う青薔薇姫がいた。機体の洗浄も、昨日の戦闘でほんの少し損傷した箇所の修復も、すでに完璧に終わっているように見える
出てきた彼に気付いて、何の意図も含まれていない声を掛けてきた。
普段通りの青薔薇姫だ。
「僕は、一体……?」
「倒れた。寝不足の上に、あの戦闘だ。いくらお前が人より意志が強く体力があるといえど、人間だ。限界というものがあるだろう。まぁ、でも次からは私も気をつけよう」
「君が、運んだの?」
「他に誰がいる」
(うっわ、俺かっこわるっ!!)
古谷の脳裏に、青薔薇姫に担がれる自分が思い浮かぶ。どう贔屓目に見ても、情けない。
どんな担ぎ方をされたんだろうかと少しだけ気になったけれど怖くてそこまでは尋ねられなかった。仮にそれが横抱きだとか言われたら、しばらく羞恥で立ち直れない。
せめて背負われててほしい。いや引き摺って貰いたい。だがこの人の妙な男前さから考えればそれらの可能性は低そうで、つまり藪をつついて蛇を出す様なことは避けるべきだ。
葛藤する古谷には気づかない青薔薇姫が肩をすくめ、話を続ける。
「無理はしていい。だが無茶はするな。風呂を沸かした、入って来い」
示される、ドラム缶。
かろうじて装甲車の陰にあるが、周囲に丸見えなのは、変わり無い。
移動中の人気のない山の中とかならまだしも、此処は現在身を寄せている小隊の敷地内、装甲車を置くために間借りしている一角だ。朝早いとはいえ絶対に誰も来ないとは言い切れない場所。
ドラム缶からは湯気がのぼっている。
「え、アレ?」
「そうだ。私はもう入った」
「アレにっ!?」
(この人の羞恥心とか、どうなってるんだろ)
未だ古谷は相棒の思考が理解できそうになかった。
実は水など一部のものは今の職務についてから一度も申請したことがない。
いつの間にか青薔薇姫が調達している。その運び込む様を、古谷はまだ一度も見たことがなかった。数や頻度からして見かけないなんてあり得ないのに。
「手伝うよ」
声を掛けて、壁際に置かれているモップを手に自分も作業を始める…………はずだった。
古谷にしてみれば、瞬きしたくらいの感覚しかなかった。
しかし、次に目を開けたときには彼は横になって白い天井を見上げていて、そしてそれは見慣れた装甲車内にある彼の寝床の天井だったのだ。
しばらく状況が掴めなくて。ぼーっとする。
うまく動かない思考で最後の記憶をゆっくりと手繰り寄せた。
(俺は……そうだ、洗浄を手伝おうとして)
慌てて飛び起きた古谷の視界に、時計が目に入る。指している時間は、七時ちょうど。その向こうにある窓からは、やけに明るい光が斜めに差し込んでいる。
つまり今は。
「疲れは取れたか?」
転がるように寝かされていたベッドから飛び出し外に出ると、いつもと変わらない様子で人型の整備を行う青薔薇姫がいた。機体の洗浄も、昨日の戦闘でほんの少し損傷した箇所の修復も、すでに完璧に終わっているように見える
出てきた彼に気付いて、何の意図も含まれていない声を掛けてきた。
普段通りの青薔薇姫だ。
「僕は、一体……?」
「倒れた。寝不足の上に、あの戦闘だ。いくらお前が人より意志が強く体力があるといえど、人間だ。限界というものがあるだろう。まぁ、でも次からは私も気をつけよう」
「君が、運んだの?」
「他に誰がいる」
(うっわ、俺かっこわるっ!!)
古谷の脳裏に、青薔薇姫に担がれる自分が思い浮かぶ。どう贔屓目に見ても、情けない。
どんな担ぎ方をされたんだろうかと少しだけ気になったけれど怖くてそこまでは尋ねられなかった。仮にそれが横抱きだとか言われたら、しばらく羞恥で立ち直れない。
せめて背負われててほしい。いや引き摺って貰いたい。だがこの人の妙な男前さから考えればそれらの可能性は低そうで、つまり藪をつついて蛇を出す様なことは避けるべきだ。
葛藤する古谷には気づかない青薔薇姫が肩をすくめ、話を続ける。
「無理はしていい。だが無茶はするな。風呂を沸かした、入って来い」
示される、ドラム缶。
かろうじて装甲車の陰にあるが、周囲に丸見えなのは、変わり無い。
移動中の人気のない山の中とかならまだしも、此処は現在身を寄せている小隊の敷地内、装甲車を置くために間借りしている一角だ。朝早いとはいえ絶対に誰も来ないとは言い切れない場所。
ドラム缶からは湯気がのぼっている。
「え、アレ?」
「そうだ。私はもう入った」
「アレにっ!?」
(この人の羞恥心とか、どうなってるんだろ)
未だ古谷は相棒の思考が理解できそうになかった。