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文字数 1,239文字

 古谷たちは人型の運動能力を最大限に発揮可能な一人操縦状態で、しかもあれこれあったり日頃の違法含めた整備のお陰か、一般に利用されている人型の基本性能を遥かに凌いでいる状態にある。
 しかも操縦者は青薔薇姫。
 だから、どう考えても苦戦するような対戦ではないと古谷は考えていたのだが。

「困ったな」
 開始後3分、相手の攻撃は全てかわし続けて様子を見ていた青薔薇姫が、突然そんな事を言った。
「え、なにが?」
「どうやらあちらも一人操縦状態で、しかも機体が改造してあるようだ」
 尋ねた古谷に青薔薇姫はなんでもないことのように伝えてくる。
「これは無傷で終わらせるのは難しい。しかしそうなると向日葵姫も無事では済むまい」
 そう語る間も、鞭の攻撃を避け続けている。
 ここで言う無傷、はどうやらこちらではなくあちらのことを指しているようだった。

「改造って……うちみたいに?」
「否、あれは恐らく生体部分への薬剤投与だと思われる」
「それは改造っていうよりドーピングなんじゃ」
「そうだな。人型は生体兵器だ。故に、その性能を投薬によって上げることは可能だ。しかしその代償として生体部分が長持ちしない。せいぜい一年保てば良いほうだ。使い捨てだな」
「そんな不経済なことしてんのっ、中部軍はっ!!」
「効率だけを考えれば、時に悪くは無いのだろう。実際向日葵姫は戦果を上げているのだ。問題は、我々にそんな相手と戦闘訓練をさせる、あちらの思惑……場合によっては負けるほうがいいのかもしれんが、それだとこちらも無傷というわけにはいかんだろうしな」
 珍しく長く語る青薔薇姫の声には、小さな苛立ちのようなものが感じられた。
 自分達の人型まで軽んじられているとも思えるこの状況に、何も思わない程、彼女はそれを道具と思っていないから……なのだろう。

 向日葵姫はいくらでも乗り換える人型があるのかもしれない。
 そして向こうは、古谷たちにひどい損傷が発生しても乗り換えればいいだけだから問題ない、と考えているのかもしれない。
 だが古谷たちは過去に人型を乗り換えたことは一度も無いし、この先もまだずっと乗るつもりでいる。特に青薔薇姫にとってこの人型は、今の状態になるまでに整備で多大な時間をかけたらしい機体だ。
 安易に乗り換えるつもりは毛頭無い。
 だからこの先も、この機体と大阪に向かう気でいる。
 こんなところで、しかもただの戦闘訓練で損傷をするなど冗談ではない。

「もしかして、僕たちもドーピングしてるって思われてる?」
「自分達が行っているなら、そう思われてても不思議ではない。温泉をそう言うなら、そうかもだが」

 初めての温泉入浴以降、趣味と実益を兼ねて、移動の間も暇さえあれば近くにある人のいない温泉に人型同伴で訪れていた。
 結果として、彼らの人型の基本性能は徐々に上昇、しかも日頃の過剰労働にも関わらず機能低下はしなくなったので、この状態は温泉が原因であると二人は結論づけている。
 流石にそんなこと、関東軍にも報告は出来ていないが。
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