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文字数 1,392文字
昨日まで、そりゃもう無視できないくらいに鮮やかな真っ青であるが普通の人型だったのに、一晩明けると同じ青であるが全身を覆う服らしきものを着た人型になっていた。
陣地の中、隅の方で元は資材置き場の予備となっていた空き地で関東から来た人型部隊は移動手段且つ生活基盤らしき装甲車と共に待機している。
話題の主を一目見てやろうとやってきた休憩中の兵士たちは誰もが遠巻きに、呆然と見守っていた。
事情を尋ねに行けるような者は誰一人いない。
数日前に古谷が告げた警告はほぼ全員に行き渡っていた。直属の上長たちからも余計な関係は持つなとキツく言い渡されてしまえばもう、興味本位でそれを破れる訳もない。
そうでなくても理由は不明だが全てを青く塗られた装甲で立つ姿は異質なモノだったのに、防御の要である装甲すら脱ぎ捨てて服なんて着ている人型は前代未聞である。
それ以上に。
どうやら動作確認をしているらしき人型の動き……人型乗りでなくとも判る。その人型は、明らかに他の人型とは違うモノだと。むしろ人型のそばで戦うことの多い歩兵たちの方が異常をより理解した。
早く滑らかで、まるで生きている人間のような動きをする人型。
あれが、戦場に立つと、どうなるのか。
幸か不幸か青の機人合流後まだ一度も戦闘は起こっていないので、その答えは誰も知らないのだ。
その頃の、青の機人の中。
神経接続をしていることで声を直接出してはないが、古谷は延々と悲鳴を上げていた。
『うわぁぁぁっ、ちょ、これ、きついっ!! あ、ベルトがっ』
『ふむ。気持ちいいぐらい思い通りに動くのだが、今度こそ操縦席の改良が必要だな』
だが青薔薇姫の方は気にかけるでもなく延々と『テスト駆動』を続けている。いつ戦闘が発生するかわからないのだから出来る時に全てをすると始める時に確認され頷いたが、まさかこんな酷い目に遭うと古谷も思っていなかった。
それまでの青薔薇姫の動きがもたらす重力にはすでに耐性がついていた古谷だが、今度の「全開操縦」では操縦者の安全を保障するシートベルトが限界を超え、壊れた。
こんな、重力のままに座席へ叩きつけられただけで息が止まりそうな衝撃を受ける状態で、どうにか己の力で堪えようにもそれがままならない環境で、青薔薇姫がどうしてそうも冷静に操縦を続けられるのか理解できない。操縦席の構造は同じ筈なのに。
青薔薇姫の方のベルトは壊れていないのか、否、壊れていたって彼女が同じ状態になるのは想像つかないが。
常人である古谷には身を守る術など限られ、結局どうにもならず悲鳴をあげるのだった。
(もしかして俺、青薔薇姫に殺されるんじゃないだろうか……)
うっかり脳裏を過ぎる思考。
すぐに古谷は自嘲する。
ここまでどうにか生き延びてきたのだから今更誰にも殺されたくない。けれど世界でたった一人、彼女にだけは自分を殺す権利がある。何の罪も関係もなかった彼女に、それだけのことをした。
(なら、仕方ない)
表向きは悲鳴を上げる。
そうやって普通っぽく振る舞っていた方が、青薔薇姫が気にしないだろうから。誰かのために命を使おうなんて究極に身勝手で傲慢な考えほど、その相手には開示すべきじゃない。
死んだ先まで抱えていくべきだ。古谷は、そう思っているから。
テスト後。
結果を元に操縦席の修理・改造をしている時、敷地内で出撃のサイレンが響いた。