帰還

文字数 825文字

 運の良い事に、青薔薇姫がいなくなってから一度も出撃は無かった。
 古谷以外、青薔薇姫が来ていないことにすら気付かなかった。古谷も、あえて周りには何も言わずに、少なくとも三日は待つことにした。
 そして三日目。



「何だぁっ!?」
 戦術講義中。窓の外を見ていたらしい誰かが声をあげた。
 つられて外を見た古谷の目に予想外の光景が飛び込んでくる。
 荷台の部分が外から見える大型のトラックが窓から見える中庭に止まっていた。荷台には牛・鶏・いくつもの巨大な茶色の紙袋・植物などが混在している。見ただけでは軍の施設に昼間から入ってくるような車ではない。
 運転手席から降りてきたのは、青銅の髪の少女。
「あ、青薔薇姫っ!?」
 度肝を抜かれつつ、講義中なのも忘れとりあえず中庭へ向かった古谷。その後ろからは同じく勉強どころじゃなくなったらしい小隊の面々と、さらには教師までがついてきた。
 真っ先についた古谷はトラックの前で佇んでいた青薔薇姫に尋ねる。
「ななな、何なのコレ?」
「材料だ」
 驚いて問う古谷に、当たり前のごとく答える青薔薇姫。
「必要とされるものを一通り調べ、調達してきた。一部は本体ごとになったが今後の食糧事情の改善が図れるだろう」
「調達って……」
 全部貴重なものだ。買うにしたって幾らかかるかわからない。
 がやがやと、他の隊員たちが集まってきた。
 各々が勝手にトラックへと近寄り、元気なものは荷台によじ登って中を覗き込んでは感嘆したり叫んだりしている。あまりに騒がしくなったので会話する古谷と青薔薇姫の声は周りに聞こえないだろう。
「ねぇ、これだけの物、どっから持ってきたの?」
 気になって仕方ない。
 たった、三日。青薔薇姫はもしかしたら見えないところで他の隊員よりも優遇されているのかもしれないが、それにしたって今の関東の物資不足は顕著な問題だ。現在地から三日で回れる範囲でこんな量の物資が手に入るとは思えない。
「世界中」
 それだけ言って青薔薇姫は去っていった。
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