交差する

文字数 1,124文字

 そこは、荒れ果てていた。
 だけど存在する生命の気配に、彼女は笑った。
 どれだけ荒廃しようと、どれだけ血生臭かろうと、そこに絶望を感じるモノが居る限り、希望は生まれ続けるものだと知っていたから。

 動くものの気配に、彼女は歩み寄る。
 人と呼ぶにはあまりにも汚れきったモノが、いきなり現れた彼女に驚いたように反応をして、身構えた。乾いた所が見当たらない服は沢山の血により紅く染められ、ソレの身体の至る所に、その赤はべっとりと付いていた。
 彼女を睨みつける、ソレの目にあるのは。

 生きる意志。
 闘争本能。
 そして……絶望。

 故に、彼女は、希望を見出した。
 この世界に彼女の存在する意味は、無い。
 だけど、意味を作ることは出来る。

 彼女は服を脱いだ。
 下着以外の全てを脱ぎ捨てる彼女の行為に、何かの記憶を揺さぶられたのか、それとも理解できないことになのか、それの目が恐怖に揺れる。ただ一つ、ソレが持っているナイフを強く握り締めて、警戒している。
 そんなものでは、彼女の命は奪われないのに。

 彼女は、雨を詠んだ。
 理に従い降り出した雨が、ソレと、彼女を洗う。

 赤が流れ、その下のヒトが露わになる。
 彼女は、脱いでいた自分の服を、新しく現れたそのヒトに差し出した。そして、ヒトの着ている、雨では到底洗われない紅い服を指差す。

 交換。

 吸い込んだ血と雨で、重くなったヒトの服を奪うと、その身に着ける。
 ヒトの方は、慌てて彼女の服を身に着けていた。女の服では無いから、そのヒトが身につけても違和感は無い。お互い、幼い姿であるため、大きさも丁度の様だ。

 これが、お互い相応の姿だろう?

 そう話しかけたのだけど、言葉が違うらしい。分からなかった様だった。
 沢山のヒトの気配が近づいてくる。
 彼女に遅れてヒトもそれに気付いた。
 怯えたように周りを見回す。退路を探しているようだ。

 追われているのか?

 そして、周囲に沢山の大人が現れた。
 ヒトは、逃げ遅れた。
 大人の手には、黒光りする金属が握られている。
 突然の雨に、皆、濡れていた。

 大人が何か叫ぶ。
 ヒトが、しゃがんで悲鳴をあげた。

 手を叩いたかのような、大きな音。何度も。

 身体を貫くモノに、彼女はバランスを崩して倒れる。
 胸や腹に、熱い痛み。
 大人たちが駆け寄ってきて、彼女の身体を抱えあげる。

 とりあえず、こんなものでは私の身体は死の端にすら触れないのだ。

 事態の動くままに身を任せることにした。
 抱えあげられた彼女の目に、呆然としているヒトが映る。他の大人に介抱されつつ、怯えたように彼女を見ていた。

 その目からは、絶望が消えている。

 ほら、ね。
 生きている限り、絶望は消える。

 それが嬉しくて、彼女は笑った。
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