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文字数 1,215文字

「私はこの2885小隊の整備長の桂 麻衣子。訊きたい事っていうのは貴方達の機体についてなんだけど。もし良ければ、私達も整備を手伝おうかと思って」
「あ、ありがとうございます。でも……」
 困った顔の古谷が言い淀む。
(やっぱり断られるか〜。これも予想通り。別の手でいくか)
「ふふ。分かったわ」
 無理に食い下がるのは心証が悪くなるばかり。
 短い付き合いかもしれないけれど少しでも情報を得るためならば関係の悪化は防ぎたい。さてどうしようかと思っていたら古谷の方が微笑んだままでぺらぺらと喋りだす。
「ああ、いえ、別に手伝ってもらうのは良いんですよ。むしろ手伝って欲しいくらいなんですけど。この機体、もう違法改造箇所だらけなもんで下手に僕ら以外の人が何かしようとしても出来ないらしいんですよね、あははは」
(いやあなた、そんなあっさり言っちゃっていいものなの、それ)
 思わず絶句していたら古谷は一人で喋り続ける。
「あれでしょ、僕らの機体を調べたいんでしょう? もう行く所行く所そういう人が多くて。前居た所なんか、夜中にこっそり忍び込んで来たんですよ。叩き返しましたけど。困るんですよね、下手にいじられると僕達の命に関わってくるんですから。だから聞かれたら素直に教える事にしてるんですけど、なかなか正面から訊きに来る人はいませんね」
「そ、そうなの?」
「ねぇ青薔薇姫、整備記録はいつものトコ? この人に見せていいかな」
 青薔薇姫は何も言わない。彼はそれを肯定ととった様だ。
 装甲車の中に戻って、分厚いファイルを持って外に戻ってくる。
「これが今日までの整備記録です。こっちは何かあった時の予備ですから、あげますよ。もしこれがわかったらその時整備を手伝ってくださると嬉しいです。でも僕達あと一週間もいませんけど」
(ありゃりゃ……任務完了しちゃった)
 あまりに鮮やかな会話の流れと手渡された分厚いファイルに、呆然としたまま頷くしかなかった。年下の少年の少し生意気な態度を気にする余裕もなく。




「どうでしたか?」
「整備記録を手にいれたわ。だけどこれ、信じられない。これだけの資材を安定して手にいれるのもそうだけど、それ以前に過激な設定過ぎるわ。これじゃ、少しでも設定が狂ったり当たり所が悪かったらそれだけで、確実に死ぬわ。普通の機体にこの技術の応用は難しいわね」
「当たらない自信があるのでしょう。古谷君はただの一般人でしたが、あの青薔薇姫という少女はどうやら只者ではないらしい。関東の友人の話では、あの人そのものが軍の最高機密のようですから」
「それで気になってたんだけど、もしかして青薔薇姫って大阪や名古屋の、あの『姫』達と同じなのかしら…………」
「わかりませんが、深入りはしない方が良いでしょうね。私達は私達の生きる道を考えていけば良いだけです。彼らの技術で良さそうな物があれば、実用化してください」
「わかったわ……世の中は、広いわね」
「ええ、まったくです」
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