『関東第三司令部直属・1352部隊』

文字数 1,480文字

 一定期間の訓練学校生活を経た後に、15歳から、軍人としてそれぞれ派遣される。
 期間は3年。
 この間に、死ぬことが無ければ、その後に自分自身で将来を選択できる。軍を抜けられるのはそこに至れた運の良い子ども達だけ。
 生体兵器の操縦者として徴用された者は、それでも幸運だと言われる。
 最も前線に立つにもかかわらず、搭乗機体に守られるせいか他の歩兵よりも明らかに生存率は高いから。
 さすがに事務や整備などよりは低いけれど。

 運良く、彼は人型の操縦者適性があった。
 そして、訓練学校期間も終わり、今日から軍に籍を置く。

「あなたが、古谷君?」
 初めて訪れた、これから3年間過ごすであろう建物の入り口では、軍服を着ているが、それに似合わぬ穏やかな顔立ちをした20代後半らしき女性が彼を待っていた。
 肯定の意味を込め、にっこりと笑いかけてみる。
 女性の顔が赤くなった。
 人間なんて、所詮そんなものだと顔には出さずに彼は心の中で嘲笑う。外見至上主義でない人間でも整った顔面には弱い。それがそのまま愛だの恋だのに繋がる訳でなくとも。恐らく本能的なモノなのだろう。
「では、行きましょうか」
 赤くなったのを誤魔化すように、女性は早足で先導した。

 生きるためには何だってしてきた。
 自分も容姿も能力も、相手の存在も、全てが利用するためのものだった。
 いつか平穏で何も無い生活を手にいれるための、踏み台でしかない。




「今日から新しく、この1352部隊に配属になった、古谷疾風君です」
「よろしく」
 休憩室らしき所に、隊員達が集められていた。
 彼と同じ年頃の女と男、同じ位の割合で、20人位。
 にっこり笑って挨拶をすると、部屋が沸いた。男にも、女にも好かれる自信がある。人好きのする系統の顔をしているから。
「彼は人型の操縦者として働いてもらいます」
 もう一度、部屋が沸いた。
「この部隊には4つの人型がいるんだけど、操縦者が7人しかいなくてね。いままで1台は動かせなかったのよ。これでようやく全部が動くようになるわ」
 人型は、普通2人乗りである。
 この女上司の言葉に古谷は軽く驚く。
 普通、一部隊に人型は2台。この部隊の規模で4台もあって、しかも全てに操縦者が割り振られるなど、関東圏では異例中の異例だった筈。明らかに、ココは普通の隊ではない。
「驚いた? ということは君はよく勉強してきたのね。ココは他の隊とはちょっと違うのよ。別名を、傭兵部隊……遊撃専門の部隊なの」
 しまった。
 内心、彼は舌打ちをする。
 多くの部隊は管轄地域を守るものだが、地域を問わず激戦区へ転戦し続ける部隊があることは知っていた。もちろん、どの隊よりも生存率は低くなる。そんなところへ配属されない為にも、訓練学校時代には手を抜いて、人並みより少し下の成績でいたのに。
「そんな、僕なんかが……」
 普通、配属されるのは選ばれたエリートのみだ。
 なのに、何故?
「本当は操縦者1人は予備だったんだけどね。どうしても操縦してもらいたい人と誰も組んでくれなくてね」
 言って、女性は何人かを睨む。
 睨まれた方は、目を背けた。
「だから、君に来てもらったというわけなの」
「はぁ……」
 情けない返事をしながら、内心憎悪の炎が燃え盛る。

 つまりそれは、誰にも組んでもらえない問題児専用の生贄ってことか!!

「もちろん、君のことは解っているから無理はさせないつもりよ」
 そして女は、彼にだけ聞こえるような小さな声で付け加える。
「無理させないために、平均より少し下の成績の子を選んだのだし」

 とても不愉快な気持ちなまま、そのミーティングは終わった。
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