対峙
文字数 1,088文字
戦闘訓練。
古谷にとってそれは馴染みの薄いものである。
初戦以降、訓練も実践もごちゃ混ぜだった上、ある時期以降からはその訓練すら出来る状態で無くなった。立つ場所は常に戦場、訓練なんて遠い昔の懐かしい思い出のように思える。
ここまで移動してきた中でも、戦場に呼ばれることは多々あれど、訓練の相手に指名された記憶はない。
だから、一機で一個大隊並みの戦闘力を持っていると最近一部で言われ始めたらしい『青い服の機人』――もとい独立支援型人型機の操縦者二人には、この単語はひどく懐かしい。
しかも関東軍においての戦闘訓練はシミュレーターか対人のものを指す。
実際に人型同士を使っての格闘訓練などという豪気な真似は、関東軍では行われていなかった。
戦闘訓練専用の広場に現れた青い人型に、見物に来た中部軍の者たちからどよめきが向けられる。
どんよりとした灰色で埋め尽くされた曇り空の下に降り立ったその人型は、本来あるべき装甲の代わりに裾の長い青い服を身に着けている。風に翻るそれは一見軽やかだが、金属製の代物。下手な装甲よりも、覆う部分が多かったりするので防御力は高い。
多少の爆撃でも破れることは無い、現日本には存在しない技術で作られたモノ。
青薔薇姫の個人提供。
実際に、服の部分だけは軍の所管ではない。
対するのは、目が痛いくらいの鮮やかな黄色の人型。
此方はその彩色以外、いたって普通の人型に見える。その手には、鞭。
乗り手は向日葵姫とそのパートナー。一緒に乗るそのパートナーがどういう相手なのかは、結局ここまで教えられていないが、向日葵姫曰く「ほぼ全部私だから」だそうである。
登場した向日葵姫の機体を見た瞬間、外部音声は切ったままで古谷は頭を抱えそうになった。
「普通さ、こういう場合って、素手格闘じゃないの?」
武器を持ち出せば互いに損傷は大きくなる。それでは訓練の意味がないのではないだろうか。
いくら実戦前提であろうと普通は訓練用の装備があると思うのだが、あちらの黄色の機体が持っているのは明らかに実戦用のそれだ。
「此処ではああなのか、あるいは向こうが真っ当な訓練をするつもりはないのか」
「ナイフ使う?」
「いや、問題ない。このままで行う」
救いは、青薔薇姫がそんなもので怖気ずく性格でもなく、更に言えば相手の武器などどうでもいい程に強い事だろうか。
戦場では鞭のようなものを使ってくる敵も実際いるが、青薔薇姫はそれを機体に受けた事は一度もない。
問題ないという発言も、本気で言っているのだろうと古谷にはわかる。
「始めっ」
二人が会話している間に、鋭く開始の放送が入った。
古谷にとってそれは馴染みの薄いものである。
初戦以降、訓練も実践もごちゃ混ぜだった上、ある時期以降からはその訓練すら出来る状態で無くなった。立つ場所は常に戦場、訓練なんて遠い昔の懐かしい思い出のように思える。
ここまで移動してきた中でも、戦場に呼ばれることは多々あれど、訓練の相手に指名された記憶はない。
だから、一機で一個大隊並みの戦闘力を持っていると最近一部で言われ始めたらしい『青い服の機人』――もとい独立支援型人型機の操縦者二人には、この単語はひどく懐かしい。
しかも関東軍においての戦闘訓練はシミュレーターか対人のものを指す。
実際に人型同士を使っての格闘訓練などという豪気な真似は、関東軍では行われていなかった。
戦闘訓練専用の広場に現れた青い人型に、見物に来た中部軍の者たちからどよめきが向けられる。
どんよりとした灰色で埋め尽くされた曇り空の下に降り立ったその人型は、本来あるべき装甲の代わりに裾の長い青い服を身に着けている。風に翻るそれは一見軽やかだが、金属製の代物。下手な装甲よりも、覆う部分が多かったりするので防御力は高い。
多少の爆撃でも破れることは無い、現日本には存在しない技術で作られたモノ。
青薔薇姫の個人提供。
実際に、服の部分だけは軍の所管ではない。
対するのは、目が痛いくらいの鮮やかな黄色の人型。
此方はその彩色以外、いたって普通の人型に見える。その手には、鞭。
乗り手は向日葵姫とそのパートナー。一緒に乗るそのパートナーがどういう相手なのかは、結局ここまで教えられていないが、向日葵姫曰く「ほぼ全部私だから」だそうである。
登場した向日葵姫の機体を見た瞬間、外部音声は切ったままで古谷は頭を抱えそうになった。
「普通さ、こういう場合って、素手格闘じゃないの?」
武器を持ち出せば互いに損傷は大きくなる。それでは訓練の意味がないのではないだろうか。
いくら実戦前提であろうと普通は訓練用の装備があると思うのだが、あちらの黄色の機体が持っているのは明らかに実戦用のそれだ。
「此処ではああなのか、あるいは向こうが真っ当な訓練をするつもりはないのか」
「ナイフ使う?」
「いや、問題ない。このままで行う」
救いは、青薔薇姫がそんなもので怖気ずく性格でもなく、更に言えば相手の武器などどうでもいい程に強い事だろうか。
戦場では鞭のようなものを使ってくる敵も実際いるが、青薔薇姫はそれを機体に受けた事は一度もない。
問題ないという発言も、本気で言っているのだろうと古谷にはわかる。
「始めっ」
二人が会話している間に、鋭く開始の放送が入った。