まほろばの街
文字数 1,304文字
何だろう……ここは日本か?
車窓から見える、事前に想像することが難しい景色に唖然としつつ、古谷は装甲車を走らせていた。
隣にいる青薔薇姫をちらっと盗み見ると、彼女の方も同じような気分らしい。一見すると表情に変化はないが、最近は彼女のかなり小さな表情の変化も読み取れるようになっていた。
整えられた道。
茂る街路樹。
立ち並ぶ綺麗なビル。
行き交う人々の姿は小奇麗で、楽しそうだ。
昨日まで彼らがいた、走り抜けて来た世界とは余りにも違う。たちの悪い夢でも見せられているのではないかと、自分の頬を抓りたくなるほどに。
現実ではまだ知らない、平和という光景のようなものが、広がっている。
そんな二人に、車内の客人は何も気づかないのか、元気な声で道案内をし続ける。
「ふるやーん、そこを右に曲がって、突き当たりが中部軍の本部だよ」
名乗ったらすぐ妙な呼び方をされるようになってしまった。普通に古谷と読んでもらえば良いのだが、本人曰く「それじゃ可愛くないじゃん」だそうである。
案内のまま中部軍本部に着いて、ようやく日本にいる気になった。
軍の施設はどこも変わらない。
硬く、暗い雰囲気の、警備が厳重な建物。
今まで通ってきた町並みとは不釣合いなくらいの、見知っているそれらと変わりばえしない見た目の軍施設らしい建物に、古谷はほっと息をつく。何故だろう、その面白味のない見慣れた雰囲気をした建築物を前にしてやっと、悪夢から醒めたような安心感を彼は感じていた。
別に好きでもないのに。
「ありがとね!」
駐車場に着くと、軽い挨拶を残して向日葵姫は、黄色い人型を駆ってすぐにいなくなってしまった。
その程度の燃料は残っていたらしい。
そしてどうやら装甲車の中、敷居を挟んだ向こうにいた青い服の機人は見られなかったようだ。車内でも探るような様子もなかった(好奇心はむき出しだったが)し、どうやら向日葵姫は見た目の印象通りの明るく裏の少ない少女であるらしい。
もう片方の姫とは大違いである。
到着早々、義務でもあるので挨拶その他の所用を済ませに行くため、規定の軍服に着替える古谷。毎度それに参加することが絶対にない(実は関東軍の上層部からも不要だと言われている)青薔薇姫は、古谷不在の間、いつものように機体の整備をするつもりなのだろう。さっさと人型のほうへいってしまう。
一緒に関東から出て来て2ヶ月弱。
これだけの時間があれば、互いの役割分担などきっちり出来上がってしまう。
解ってはいるのだが、たまには見送りの一言くらいあってもよさげなモノだと、ちょっと寂しい気持ちで古谷は外に出る。
「古谷、待て」
「えっ!?」
外に出た所でいきなり呼び止められて、心臓の鼓動が跳ね上がる。
まさか心を読まれたかと驚愕して振り返った先、装甲車の窓からその顔を出した青薔薇姫は、珍しく険しい顔をしていた。
「出されたものを、食べるな……飲むのもだめだ。絶対に」
「え、あ、うん。わかった。気をつける」
青薔薇姫からの指示を、嫌がる理由も断る理由もない。真意を問おうにも、もうここは外だ……そんな迂闊な行動をするつもりはない。だからただ素直に頷いた。
車窓から見える、事前に想像することが難しい景色に唖然としつつ、古谷は装甲車を走らせていた。
隣にいる青薔薇姫をちらっと盗み見ると、彼女の方も同じような気分らしい。一見すると表情に変化はないが、最近は彼女のかなり小さな表情の変化も読み取れるようになっていた。
整えられた道。
茂る街路樹。
立ち並ぶ綺麗なビル。
行き交う人々の姿は小奇麗で、楽しそうだ。
昨日まで彼らがいた、走り抜けて来た世界とは余りにも違う。たちの悪い夢でも見せられているのではないかと、自分の頬を抓りたくなるほどに。
現実ではまだ知らない、平和という光景のようなものが、広がっている。
そんな二人に、車内の客人は何も気づかないのか、元気な声で道案内をし続ける。
「ふるやーん、そこを右に曲がって、突き当たりが中部軍の本部だよ」
名乗ったらすぐ妙な呼び方をされるようになってしまった。普通に古谷と読んでもらえば良いのだが、本人曰く「それじゃ可愛くないじゃん」だそうである。
案内のまま中部軍本部に着いて、ようやく日本にいる気になった。
軍の施設はどこも変わらない。
硬く、暗い雰囲気の、警備が厳重な建物。
今まで通ってきた町並みとは不釣合いなくらいの、見知っているそれらと変わりばえしない見た目の軍施設らしい建物に、古谷はほっと息をつく。何故だろう、その面白味のない見慣れた雰囲気をした建築物を前にしてやっと、悪夢から醒めたような安心感を彼は感じていた。
別に好きでもないのに。
「ありがとね!」
駐車場に着くと、軽い挨拶を残して向日葵姫は、黄色い人型を駆ってすぐにいなくなってしまった。
その程度の燃料は残っていたらしい。
そしてどうやら装甲車の中、敷居を挟んだ向こうにいた青い服の機人は見られなかったようだ。車内でも探るような様子もなかった(好奇心はむき出しだったが)し、どうやら向日葵姫は見た目の印象通りの明るく裏の少ない少女であるらしい。
もう片方の姫とは大違いである。
到着早々、義務でもあるので挨拶その他の所用を済ませに行くため、規定の軍服に着替える古谷。毎度それに参加することが絶対にない(実は関東軍の上層部からも不要だと言われている)青薔薇姫は、古谷不在の間、いつものように機体の整備をするつもりなのだろう。さっさと人型のほうへいってしまう。
一緒に関東から出て来て2ヶ月弱。
これだけの時間があれば、互いの役割分担などきっちり出来上がってしまう。
解ってはいるのだが、たまには見送りの一言くらいあってもよさげなモノだと、ちょっと寂しい気持ちで古谷は外に出る。
「古谷、待て」
「えっ!?」
外に出た所でいきなり呼び止められて、心臓の鼓動が跳ね上がる。
まさか心を読まれたかと驚愕して振り返った先、装甲車の窓からその顔を出した青薔薇姫は、珍しく険しい顔をしていた。
「出されたものを、食べるな……飲むのもだめだ。絶対に」
「え、あ、うん。わかった。気をつける」
青薔薇姫からの指示を、嫌がる理由も断る理由もない。真意を問おうにも、もうここは外だ……そんな迂闊な行動をするつもりはない。だからただ素直に頷いた。