青の機人
文字数 1,109文字
連絡が来てから射撃がされるまでがあまりに早すぎた。
理解が追いつかない事態に人は時に思考を止める。
「遠藤くん、状況報告を……」
沈黙する指揮車内。いち早く正気に戻った司令が、乾いた声で指示を出した。
その声に我にかえったオペレーターはざっと戦況を見て、信じられないけれどもそのデータの示す通りに、呆けた声でいつもよりゆっくりと報告を始める。
動揺してまともな報告が出来ないよりはゆっくりでも正確に。職務への矜持が無意識にそうさせた。
「未確認人型の射撃、全弾命中」
もう5年もこの仕事をやってきたが、この言葉を戦場で言ったのは初めてだった。
シミュレーターならまだわかる。だが、ここは現実だ。
「これにより小型6体消滅……未確認機、我々の視認位置まで合流します」
しかも撃った者達は斉射後もずっと走り続けてきたらしい。一瞬思考は飛んでいたが射撃前と現在地の変化からはそうとしか読み取れなかった。
オペレーターの言葉に指揮車内の司令を含めた皆が、その機体を見ようとして数少ない小さな窓に駆け寄ったのは仕方ないのかもしれない。いつもなら冷静な司令が動いているので誰も止めるものがいなかった。
曇った窓の向こう。
地響きをたてながら、止まることもスピードを落とすこともせずに、横を駆け抜けてゆく人型。
その、見落としようもない、目にも鮮やかな青空の色。
そのまま真っ直ぐに、爆破の余韻漂う戦場へ、突っ込んで行く。
『これより接近戦に移ります。余力が無いんなら後ろに下がっててくださいね。あ、後ろで奇襲かけようとしていた奴らは全部消しときましたから安心して下がらせてください』
緊張感の無い柔らかい声の通信が届く。
最初に通信が入ってきた時に比べるとかなり余裕を感じる声だった。
「青の、機人……?」
噂の中での存在でしかなかったモノを目の当たりにして、誰かが呟く。
関東軍にいる青い人型の話は、甲信越軍でも有名だった。どんな戦況も必ず覆す無傷無敗の人型機。現実離れしたその話に、それでも命をかけて戦場に立つ兵士達が縋るのは仕方ない。
さすがに、人型を青く染めるのは戦場では目立ちすぎて逆に危ないという理由で、甲信越軍全体で禁止令が出された……のはつい四日前。
オペレーターはモニターを凝視したまま、仕事を続ける。
「未確認機、接敵、小型撃破。中型撃破、続いて中型撃破…………」
容赦ない殺戮の報告は、その辺りの敵がいなくなるまでやむことは無かった。
目の当たりにした噂の主に、その派手な噂の内容を全肯定するようなその動きに。
彼らも、そして青の機人の乱入に遅れて気が付いた他の友軍も、場違いにもその現実をみつめる事しか出来なかった。
理解が追いつかない事態に人は時に思考を止める。
「遠藤くん、状況報告を……」
沈黙する指揮車内。いち早く正気に戻った司令が、乾いた声で指示を出した。
その声に我にかえったオペレーターはざっと戦況を見て、信じられないけれどもそのデータの示す通りに、呆けた声でいつもよりゆっくりと報告を始める。
動揺してまともな報告が出来ないよりはゆっくりでも正確に。職務への矜持が無意識にそうさせた。
「未確認人型の射撃、全弾命中」
もう5年もこの仕事をやってきたが、この言葉を戦場で言ったのは初めてだった。
シミュレーターならまだわかる。だが、ここは現実だ。
「これにより小型6体消滅……未確認機、我々の視認位置まで合流します」
しかも撃った者達は斉射後もずっと走り続けてきたらしい。一瞬思考は飛んでいたが射撃前と現在地の変化からはそうとしか読み取れなかった。
オペレーターの言葉に指揮車内の司令を含めた皆が、その機体を見ようとして数少ない小さな窓に駆け寄ったのは仕方ないのかもしれない。いつもなら冷静な司令が動いているので誰も止めるものがいなかった。
曇った窓の向こう。
地響きをたてながら、止まることもスピードを落とすこともせずに、横を駆け抜けてゆく人型。
その、見落としようもない、目にも鮮やかな青空の色。
そのまま真っ直ぐに、爆破の余韻漂う戦場へ、突っ込んで行く。
『これより接近戦に移ります。余力が無いんなら後ろに下がっててくださいね。あ、後ろで奇襲かけようとしていた奴らは全部消しときましたから安心して下がらせてください』
緊張感の無い柔らかい声の通信が届く。
最初に通信が入ってきた時に比べるとかなり余裕を感じる声だった。
「青の、機人……?」
噂の中での存在でしかなかったモノを目の当たりにして、誰かが呟く。
関東軍にいる青い人型の話は、甲信越軍でも有名だった。どんな戦況も必ず覆す無傷無敗の人型機。現実離れしたその話に、それでも命をかけて戦場に立つ兵士達が縋るのは仕方ない。
さすがに、人型を青く染めるのは戦場では目立ちすぎて逆に危ないという理由で、甲信越軍全体で禁止令が出された……のはつい四日前。
オペレーターはモニターを凝視したまま、仕事を続ける。
「未確認機、接敵、小型撃破。中型撃破、続いて中型撃破…………」
容赦ない殺戮の報告は、その辺りの敵がいなくなるまでやむことは無かった。
目の当たりにした噂の主に、その派手な噂の内容を全肯定するようなその動きに。
彼らも、そして青の機人の乱入に遅れて気が付いた他の友軍も、場違いにもその現実をみつめる事しか出来なかった。