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文字数 1,273文字

 戦闘開始直後。
 戦略通りの動きを見せる一号機から三号機。
 本来ならこの時点で語ることのないオペレーターがすぐに驚きの声を上げた。わき目も振らずに敵の集団に真っ直ぐ突っ込んでゆく四号機の動きを確認したためだ。
 慌てたように状況を伝えるオペレーター。
 教えられた指揮者は予想外のその動きに動揺する。
「四号機、青薔薇姫、古谷っ、前に出すぎです! 引きなさいっ!!」
 通信を行うも、四号機からの返事は無い。


 その時、古谷は火気の照準合わせの作業でそれどころではなかった。
 指揮官の声は届いていたが作業しながら返事を出来るほどの経験はなかったし、余裕がありそうな青薔薇姫が答えなければ四号機からの応答は無くなる。

 四号機の装備するミサイルは照準さえ合わせれば複数の敵を一度に狙えるが、指定できる20全てに短時間で、しかも動きながら照準を合わせるのは至難の業。
 しかもトリガーは青薔薇姫に今回握られていて、先程あらかじめ彼女が指定した地点に到着したら古谷の状況を確認もせず問答無用で撃つという。
(こんな短い移動時間の間にどうにかしろなんて、無茶だっ!)
 心の中で叫びつつ、それでも己の命に関わる問題であったから、本気で集中した。
 人型内に保存されている戦況マップの中、段々と指定地点へと近づいていく。
 それを確認しながら訓練学校時代の彼の成績では考えられないような速度で情報処理を行い、表示されている敵一つ一つへと照準を合わせてゆく。

 外では、ざしゅっ、という音と共に四号機の動きが止まる。
 敵の集団のすぐ目の前。半分以上が射程範囲に収まる所。
『撃つ』
『勝手に、しろぉっ!!』
 予定にない報告に古谷はつい怒鳴り返したけれど、ギリギリで照準合わせは完了していた。


 打ち込まれたミサイルが、戦場のあちこちで火花を散らす。


 指揮車の中ではオペレーターが仕事をしていた。
「四号機のミサイル、敵18体に被弾。内8体反応消滅」
 報告終了後。
 オペレーター、指揮官、その他の隊員が控える指揮専用装甲車の中に、嫌な沈黙が流れる。命中率90%は、彼らの隊が誇る中距離射撃用人型操縦者の最も調子の良い時を上回る成果だった。
 シミュレーションじゃあるまいに、という言葉をオペレーターは必死に抑えた。
 戦闘開始前ならまだしも開始後にそんな軽口を叩くほど不真面目に仕事をしているつもりはない。
「四号機、なお敵集団に接近。四号機、中型撃破」
 射撃のみならず、まだ続くらしい奇妙な状況に、現実逃避したくなるのを必死に堪えて周囲にそれを伝え続けるオペレーターは、まさにプロの軍人と言えた。
「四号機、小型撃破。一号機と二号機、中型撃破。四号機、小型撃破。続けて中型撃破」
 この時ほど、指揮車に乗っている者が、実際の戦場の見える映像が欲しいと思ったことはない。
 目を見開いて指揮官が己の座席から凝視する戦況マップ上。
 レーダーの故障かと思わせるような、四号機の一方的殺戮が淡々と表示されてゆく。
 その間も、損傷を受けた他の機体と違い、四号機の表示色は青……機体状態は無傷であると示されていた。
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