乱入者
文字数 2,131文字
全滅は覚悟しなくてはならないかもしれない。
戦況が誰より真っ先に解るというのも場合によっては困りモノだと思いながら、オペレーターは報告を続ける。これで戦況が左右するわけではない。でも、これをしないと戦況は変わるから。
こんな時ほど役立ってるかも分からなくなるが。
「二号機損傷、活動限界値です!」
二つの人型、三人の重装備歩兵。
この辺の小隊としては一般的だ。しかし前回の出撃からの消耗が響き全ての兵力は損傷激しく、まだ隊の全員が生き残っているのが不思議なくらいだ。
指揮車にまで、攻撃が届きつつある。
そろそろ決断時だと司令は唇を噛み締める。
同じ戦場で戦っている友軍も似たような状況であるのが通信を通して判る。
精鋭揃いの遊軍も、今日は間に合いそうにない。
今回の作戦は、関東から中部に向けての物資運搬ルート確保。ここが途絶えれば関東からの補給路が一つ減ってしまう。それは自分達にも、そしてさらに南で戦う者達にも致命的なダメージとなるだろう。
ここさえ維持するならばまだ戦える。
それが判っているからか、敵の攻撃も激しさを増す。
それでも、ここを譲るわけにはいかない。例え自分達が骸になろうとも。
「皆さん……覚悟を決めてください」
指揮車から、全員に通信を送る。出来るだけ冷たく響くように心掛けた、言葉。
死ねなんて穏やかに言えるほど人間は出来ていない。最後の瞬間まで足掻いて、一人だろうが生き残らせたい。自分の命を捧げて全員助かるならば悪魔とだって契約してみせるのに、戦場にそんな奇跡はない。
『とっくに、出来てますよ』
皆を代表して重装備歩兵の親友が、そう答えてきた。
一番前で敵を食い止め続けている。彼の残弾はとっくに尽きて、今は白兵戦をしていた。負傷の程度なんかもうしばらく報告もされていないが、聞くまでもないだろう。
眉間に皺を寄せ、司令は、『最後の決断』を命令しようと口を開くが。
「後方より何か接近! これは……人型です!」
その役目のままに状況の変化を伝えてきたオペレーターに言葉は遮られる。
人型なら、それは自軍に間違いない。
なんと早い到着か……すこしほっとしつつ司令は尋ねる。この辺ですぐ来れる隊など無かった、なんて記憶もここでは浮かばない。低いとはいえ、より遠くから馳せ参じている可能性があるから。
「どこの隊ですか?」
可能性ある隊の目星はついていたのに、返ってきたのは混乱したオペレーターの声だった。
「わかりませんっ! 一機のみで……凄い速度です」
「どういうことです。ちゃんと教えてください」
「人型から識別信号が発信こそされてますが解読できないんです。どうも、この辺の機体ではないようで…………」
日常は不真面目だが戦場では優秀なオペレーターの言葉に司令が眉を顰めた、そのすぐ後。
『こちら、関東軍直属・独立支援型人型機の古谷ですっ! 聞こえますか!?』
音量調節を盛大に間違えたらしい大音量の通信が、指揮車内に響いた。
「関東軍っ!? そりゃ解読できねぇはずだわ。何でこんな所へ……」
思わず、地に戻って呟くオペレーター。
通信こそ統一規格であるため問題なく届いているが、ここは甲信越軍。共同戦線を度々敷いている地域ならばまだしも、こんな信濃の山奥で、誰が関東軍と会うと予想がつくだろう。もちろんだが指揮車のコンピューターには、関東軍の人型の識別信号など入っていない。
そんな余計なデータまで入れられるほど性能の高いものなんか末端の小隊には配られないから。
「一機のみですか? 他には」
司令が問いかける。
突然のことに動揺していても問いかけが出来る胆力は流石であった。
『そうですよ言ったでしょ独立って。細かいことは後で! 時間がないんです。今から全開射撃をするんで、とにかくさっさと前線の人たちを下がらせてください。当たりますしっ』
そう言いながらも、未確認機、今だ移動中。
相手のぞんざいな口調に憮然としつつも、司令は指示を出して言われた通りに歩兵・人型兵共に下がらせる。突然登場した人型を今一信用しかねているが、仮に本当に射撃が来て部下が巻き込まれたらたまらない。
幸運にもまだ生存している仲間たちが味方からの支援で死ぬなど、あってはならないことだ。
急な指示に前線では動揺があっただろうに、誰も問い返して来ずに移動を始めたらしいのが見てとれた。日頃の信頼関係の賜物か。
「戦況データを送るぞ」
オペレーターも司令の指示から意図を読み取って行動を起こす。
飛び込んできた人型の位置からして射撃が行われるまでにまだ一分以上かかるだろう。こちらから戦況を送っておかなければ射撃の照準も合わせられない筈。
そのオペレーターの判断に、どこも間違いは無い。
……普通、なら。
『もうわかってますっ! 射撃、いきますっ!!』
「えぇっ!?」
(そんな馬鹿な)
(戦況データ送ってねぇよ!? 位置どうやって知ってんだ?)
(え、そこから届く射撃ってどんな装備してんの?)
(ってゆうか君達まだ全速で走ってんじゃね? 嘘マジで撃ったの?)
一瞬で色々考えた指揮車内の者達を嘲笑うかのように、直後に発射音が響いてきた。
数瞬後には、空気ごと揺さぶられるような着弾音。
戦況が誰より真っ先に解るというのも場合によっては困りモノだと思いながら、オペレーターは報告を続ける。これで戦況が左右するわけではない。でも、これをしないと戦況は変わるから。
こんな時ほど役立ってるかも分からなくなるが。
「二号機損傷、活動限界値です!」
二つの人型、三人の重装備歩兵。
この辺の小隊としては一般的だ。しかし前回の出撃からの消耗が響き全ての兵力は損傷激しく、まだ隊の全員が生き残っているのが不思議なくらいだ。
指揮車にまで、攻撃が届きつつある。
そろそろ決断時だと司令は唇を噛み締める。
同じ戦場で戦っている友軍も似たような状況であるのが通信を通して判る。
精鋭揃いの遊軍も、今日は間に合いそうにない。
今回の作戦は、関東から中部に向けての物資運搬ルート確保。ここが途絶えれば関東からの補給路が一つ減ってしまう。それは自分達にも、そしてさらに南で戦う者達にも致命的なダメージとなるだろう。
ここさえ維持するならばまだ戦える。
それが判っているからか、敵の攻撃も激しさを増す。
それでも、ここを譲るわけにはいかない。例え自分達が骸になろうとも。
「皆さん……覚悟を決めてください」
指揮車から、全員に通信を送る。出来るだけ冷たく響くように心掛けた、言葉。
死ねなんて穏やかに言えるほど人間は出来ていない。最後の瞬間まで足掻いて、一人だろうが生き残らせたい。自分の命を捧げて全員助かるならば悪魔とだって契約してみせるのに、戦場にそんな奇跡はない。
『とっくに、出来てますよ』
皆を代表して重装備歩兵の親友が、そう答えてきた。
一番前で敵を食い止め続けている。彼の残弾はとっくに尽きて、今は白兵戦をしていた。負傷の程度なんかもうしばらく報告もされていないが、聞くまでもないだろう。
眉間に皺を寄せ、司令は、『最後の決断』を命令しようと口を開くが。
「後方より何か接近! これは……人型です!」
その役目のままに状況の変化を伝えてきたオペレーターに言葉は遮られる。
人型なら、それは自軍に間違いない。
なんと早い到着か……すこしほっとしつつ司令は尋ねる。この辺ですぐ来れる隊など無かった、なんて記憶もここでは浮かばない。低いとはいえ、より遠くから馳せ参じている可能性があるから。
「どこの隊ですか?」
可能性ある隊の目星はついていたのに、返ってきたのは混乱したオペレーターの声だった。
「わかりませんっ! 一機のみで……凄い速度です」
「どういうことです。ちゃんと教えてください」
「人型から識別信号が発信こそされてますが解読できないんです。どうも、この辺の機体ではないようで…………」
日常は不真面目だが戦場では優秀なオペレーターの言葉に司令が眉を顰めた、そのすぐ後。
『こちら、関東軍直属・独立支援型人型機の古谷ですっ! 聞こえますか!?』
音量調節を盛大に間違えたらしい大音量の通信が、指揮車内に響いた。
「関東軍っ!? そりゃ解読できねぇはずだわ。何でこんな所へ……」
思わず、地に戻って呟くオペレーター。
通信こそ統一規格であるため問題なく届いているが、ここは甲信越軍。共同戦線を度々敷いている地域ならばまだしも、こんな信濃の山奥で、誰が関東軍と会うと予想がつくだろう。もちろんだが指揮車のコンピューターには、関東軍の人型の識別信号など入っていない。
そんな余計なデータまで入れられるほど性能の高いものなんか末端の小隊には配られないから。
「一機のみですか? 他には」
司令が問いかける。
突然のことに動揺していても問いかけが出来る胆力は流石であった。
『そうですよ言ったでしょ独立って。細かいことは後で! 時間がないんです。今から全開射撃をするんで、とにかくさっさと前線の人たちを下がらせてください。当たりますしっ』
そう言いながらも、未確認機、今だ移動中。
相手のぞんざいな口調に憮然としつつも、司令は指示を出して言われた通りに歩兵・人型兵共に下がらせる。突然登場した人型を今一信用しかねているが、仮に本当に射撃が来て部下が巻き込まれたらたまらない。
幸運にもまだ生存している仲間たちが味方からの支援で死ぬなど、あってはならないことだ。
急な指示に前線では動揺があっただろうに、誰も問い返して来ずに移動を始めたらしいのが見てとれた。日頃の信頼関係の賜物か。
「戦況データを送るぞ」
オペレーターも司令の指示から意図を読み取って行動を起こす。
飛び込んできた人型の位置からして射撃が行われるまでにまだ一分以上かかるだろう。こちらから戦況を送っておかなければ射撃の照準も合わせられない筈。
そのオペレーターの判断に、どこも間違いは無い。
……普通、なら。
『もうわかってますっ! 射撃、いきますっ!!』
「えぇっ!?」
(そんな馬鹿な)
(戦況データ送ってねぇよ!? 位置どうやって知ってんだ?)
(え、そこから届く射撃ってどんな装備してんの?)
(ってゆうか君達まだ全速で走ってんじゃね? 嘘マジで撃ったの?)
一瞬で色々考えた指揮車内の者達を嘲笑うかのように、直後に発射音が響いてきた。
数瞬後には、空気ごと揺さぶられるような着弾音。