文字数 940文字

 女上官が彼を置いていなくなる。
 とたんに周りに、これから仲間になる者達が興味本位で群がってきた。軍人であってもやはり年頃の少年少女で、此処での古谷は見慣れぬ転校生のようなものだった。
 古谷が何か言うより前に目の前を陣取った少年がにっかりと笑う。
「俺、樋口和敏。ココ来て三ヶ月の人型操縦士、よろしく」
「うん、よろしく」
 にこやかに笑って色黒の少年に握手しつつ、内心毒づく。
(お前が原因の一人か。いつか報復してやる)
 他に何人も挨拶をしてくるが、もう覚えなかった。
 どうせいつか嫌でも覚えているのだろうから、一度に覚える必要は無い。
 少なくとも一ヶ月程度はすぐに名前が出なくたって責められたりもしないだろうし、仮にそこで態度に出るならそういう相手と分かる。
 今ここで覚えるべき者は、一人だけ……件の、問題児だ。
「ねぇ、僕と操縦する人って誰なの?」
 色々訊いてくる騒がしい周りに適当に返事をしつつ、にこやかに訊いてみた。
 とたんに皆が、苦虫を噛み潰したような顔になる。とんでもない嫌われようだ。誰にでも好かれる術を身につけている彼には信じられない。集団生活でそんなに嫌われたって良いことなんかないだろうに。
「あいつだよ」
 樋口が、部屋の隅を指さした。
 周りの騒がしさなど何処吹く風で、一人の少女が本を読んでいる。


 その姿を見た瞬間、彼はひどく動揺した。


「青薔薇姫。あ、これ本名かどうかは知らないけどな、名簿でもそう書いてあるんだ」
 彼の動揺には気付かずに、樋口は説明する。

 青銅色の髪。透きとおるような白い肌。

「軍のどっかの研究所で人工的に創られた人間なんだってさ。しかもその研究所を自分で抜け出したこともあるらしい。中に居る人間を皆殺しにしたんだってよ。ほんとかどうかはしらねえけど」

 どこか遠くから聞こえてくるかのような樋口の声。
 彼の手に、冷や汗が流れる。

「全然しゃべらねぇし、表情ねぇし、あの髪の色だろ、気持ち悪いんだよな」
 本人に聞こえるような声で、樋口は続ける。


 耐え切れずに、彼は部屋を飛び出していた。




 その後姿を見送って、誰とも無く囁く。
 いきなり黙って飛び出した新入隊員を悪く言える者はこの場にいなかった。
「気持ちはわかるわー……」
「やっぱショックだよな、あれじゃ」
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