訪問

文字数 1,445文字

 関東で突然登場した化け物のような強さを誇る青い人型が、関東地域の多くの戦場で活躍し戦況の安定に大きく関与したことは他地域でも有名な話になりつつあった。

 敵の方でも状況の変化は解ったのだろう。
 大きく手薄になった関東の方へ再度攻め入る為、今まで以上に激しい侵攻が始まっていた。
 ようやく落ち着いた関東を手放したくは無い軍部としては、富士の麓に展開した戦線をもって関東圏への最終防衛ラインとし、関東・甲信越両地域から召集された精鋭達が日々増え続ける敵に対して、背水の陣ともいえる攻防を繰り広げていた。
 関東からの兵士たちにとっては最も重要な防衛線。
 だが甲信越の兵士たちにとってのそこは、自分たちの戦う理由が見つけ辛い場所だった。関東の平穏を守ったところで甲信越に暮らす彼らにとっては大きな意味がないように思えたから。それどころか関東が変に張り切ったから自分たちにとばっちりが来ているのではないか……とすら。
 多くの年若い兵士たちがそう思うのも、仕方ないことだった。



「っていうか、なんで関東から『青の機人』は来ねーんだよっ」
 朝から第一種警戒態勢の呼び出しで叩き起こされ食事を食べる間も無く戦闘に駆り出された若い人型兵は、遅い朝食をとりながら不機嫌に歩兵の友人に言う。
 彼らがいるのは甲信越軍の陣の中。おかげでこういうことも言える。
 士気の維持のため、同じ管轄内の同僚に関しての内容は厳しく咎められる傾向がある軍であるが、他管轄の兵士に関しては割と寛容だった。特に青の機人のような知名度の高い相手ならば聞かれてもほぼお咎め無しである。
「こう言っちゃなんだけどさ、ほんとにそういうヤツが存在してるのかも怪しいよね」
 不満丸出しで叫んだ友人を眺めながら歩兵の友人は答えてそう言う。

 彼らの発言も無理はない。
 少し前に甲信越に入ってきたその噂は、他地域の話でありながらもあっという間に大きくなっていた。それと同時に関東の方が落ち着いていったのは事実である。
 しかもその上ここ半月位、何故か甲信越軍の管轄内で姿を現しているという噂があった。真偽ははっきりしていないものの、誰かの友人がいる小隊で見かけたらしいなんて話をこの場所でもよく聞くようになってきた。
 なのに。
 常に激戦区に姿を現すとされるその存在が、現在日本でも五本の指に入るであろうこの激戦区には一向に姿を現さないのだ。
 今いる場所以外の情報が上手く入ってこない最前線で、自分たちの管轄内で広がる訳の解らない青の機人の噂は現場の、特に甲信越側の兵士達を苛立たせていた。
 噂が本当なら此処にこそ居るべき存在なのに。
 命のやり取りを毎日行う中で幻のような相手に抱く渇望が、憎悪に近い感情に変換されていってしまった。

 歩兵の友人が嗤う。
「皆の士気をあげるための上層部の嘘かも」
「もしそうなら余計にムカつくだけだっ!!」
 冷静にも他人事にもなりきれない人型乗りの少年は箸を折らんばかりに握りながら叫んだ。
 毎日、どこかで青の機人に関する噂が流れている。良い意味でも、悪い意味でも。
 今日も、噂だけのはずだった。だが。


「大変大変っ!! 『青の機人』が来たんだってっ!!」


 食堂に突然飛び込んできたその声。
 日常訓練で声を出してることもあってよく響いたそれは、あっという間に陣で休んでいた全員の知る事となった。

 最前線に、噂の主が現れた。
 救世主か偽りかも分からぬ謎の存在。
 誰もが食事も忘れ一目見ようと現場に向かったのは仕方ないことだったと言えよう。
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