12

文字数 1,032文字

 敵の集団の中心近くまで食い込み一機暴れ続ける人型に、広がっていた敵の配置が徐々にではあるが四号機の周りに集中してゆく。

 状況を知らない他機体は、事前に伝えられていた状況から考えると驚くほど早く友軍が奮闘している地点まで辿り着き、拍子抜けしていた。
 それでも己の職務を忘れるほど経験が少ない訳もなく。
 必要な指示がある時以外に回線を開くことのない指揮車に、報告の為に回線を繋ぐ。
「友軍と合流、これより援護・回収にあたります」
 一号機から淡々と報告をした。いつもならば向こうからは端的に了承の応えが届く筈だった。
 なのに、いつもは即座に返ってくる指揮車からの返事が無い。
「指揮車?」
 あまりない事ではあるが回線の調子が悪いのかと一号機は耳を澄まして様子を伺う。
 開きっぱなしの回線に、オペレーターの声が入ってくる。

『四号機なお前進。四号機、中型撃破、続けて小型撃破、さらに小型撃破……』

「は?」
(何が起きているんだ?)
 友軍の撤退を援護しつつ、聞こえてくるその情報が信じられずに、首を捻る。
 オペレーターは四号機と言っていた。少なくとも彼らの小隊において四号機と呼ばれるものは一つしかない。
 戦略通りの行動をする上では上官の承認が必要で、彼らは答えを待つという言い訳を前に聞こえてくる音声へと耳を澄ませた。


 ある意味で皆の注目を浴びている四号機の中は、地獄絵図のような状態だった。


『き、気持ち悪い……』
『もうしばらく我慢しろ。損傷率はまだ2%、敵は戦場全体でまだ20体以上残っている』
 機体性能を超えた動きを続けるのだから操縦者の身体に掛かる重力も当然、開発者の設定以上にあるわけで。
 操縦席の安全性や快適性は保障の限りではなかった。
 初めての操縦で限界を超えて振り回され続けた古谷は、要は、酔っていた。
 湧き上がる不快感や胃から込み上げる吐き気を抑えるのに必死で、他に気が回らない。操縦席で吐いてしまったらその後どれほど不快な状態が待っているかなんか想像に容易いから、例え死にかけたって吐きたくなかった。
 回線の先から何か聞こえてたような気もしたが、確認をする余裕もない。

 両手に人型用のナイフを握り、四号機は瞬く間に、死を撒き散らしてゆく。
 青い機体は、元の色が見えないくらいに敵の体液で赤黒く染まっていた。
『あと10分で終わらせる』
 かなりとんでもない事を青薔薇姫は言ったのだが。
 古谷はそれに気が付く余裕はなく、ただただこの時間が早く終わることを願っていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み