転戦

文字数 1,671文字

 初めての出撃から一ヶ月。四号機の撃破数は200を超え、勲章も増え、四階級昇進をした。
 青の機人の戦場を問わない大暴れにより関東にいた人類の敵はかなり減少し、結果として今やどの戦場でも人類は圧倒的優勢状態で戦えるようになっていた。
 その頃から、1351部隊の出撃はほとんど無くなった。
 元より不利な戦場へと赴く遊撃部隊である。それだけ安定して人類が優勢な戦場が増えたのが末端の古谷にすら察せられたし、他の隊員も暇を嘆きながらもどこか元気で明るい。平和な空気が隊員たちに余裕を与え、隊員同士の関係性は向上した。
 穏やかに過ぎる日々に、こんな日がずっと続けば良いと古谷が思い始めていた頃。

 四番機搭乗者二人は、関東軍司令部最高責任者からの呼び出しを受ける。



「転戦……ですか」
 それが無礼であると知りつつも、古谷は思わず問い返さずにはいられなかった。
 初老の上官は他に人が居ないためか、それとも元から気にしない人間なのか、古谷の言動が気に触った様子もなく、顔色を変えずに話を続ける。
「そうだ。君達の尋常ならざる活躍により、我等が関東の戦場はすでに人類の圧倒的有利状態、戦況は安定しておる」
 現在関東の中で暴れていたのは特に戦争初期で雪崩れ込んできた敵。
 繁殖こそしないが一定期間で増殖を繰り返すらしい敵を相手に中々根絶やしに出来ず、増やしたり主要な食糧生産地域である東北へ大群を漏らしたりなどはなくても、一定以上に減らすことは難しかったらしいのは古谷も歴史の時間に学んでいる。
「関東から奴らの姿が消えるのも時間の問題であろう。日頃西南より流れ込んでくる分もさしたる問題にはならぬ」
 普通の戦場においては敵を全滅させること自体が滅多にない。
 その前に敵が退却したり、人類が退却したりだ。
 毎回のようにその戦場の敵を根絶やしにした青薔薇姫の戦い方が関東全体を安定させるのに貢献したのは間違いないだろう。
「しかし国全体においては今だ人類は不利な状況であることに変わりは無い」
 人類の敵たる化け物たちは、おおよそ南からやってくる。
 そのせいもあり関東より西に行けば行くほどに激戦区になってゆく。むしろその地域が大量に減らしてくれているからこそ関東が今の程度で済んでいる、とも言えるだろう。
 九州に至っては、戦争初期に軍が撤退して人類の敵に明け渡してしまっていた。
 上官は感情の読めない表情で語る。軍人でありながら饒舌な方らしい。むしろそれくらいの弁がなければ上にはいけないのかもしれなかった。
「君達はすでに関東と言わず日本屈指のエースだ。もはや関東に居る方が宝の持ち腐れというもの。私個人としてはこのまま関東に居てもらった方が心強いのだがな、全国で日々散ってゆく同胞達のことを思えばそんな事も言っておられぬ。それに……『青の機人』の活躍はすでに全国で有名でな。いつまで抱え込んでいるのだと、他の奴らがうるさいのだよ」
「それで、僕らはどこへ?」
 最後にちょっと笑った上官に対し、どうせ青薔薇姫は何も言わないだろうと思って古谷の方が問いかける。先の返答から、この場においてある程度の質問は許されるだろうと判断した。
 予想通り上官は叱責などなく答えをくれる。
「まずは、二人で四号機でもって名古屋へ向かって欲しい」
(…………まずは?)
 ひどく嫌な予感がして、古谷は意識して笑顔を維持する。
 この先の話の展開によっては表情を崩しかねない予感があった。
「その移動途中において、各地の戦場に独立遊軍として単機で参戦、勝利に導くのがとりあえず当面の君達の任務になる。最終的な目的地は、今のところ大阪だな。各管轄地域には既に了承を得ている」
(ちょっと待て。それは結構扱い酷くないか?)
 笑顔を作っておいてよかった。そうでなければ今、凄い顔をしたことだろう。
 普通にどこかに所属するものだと思っていた。でもその内容だと、何処かに居を構えることもなく延々と移動して戦場に突っ込めと言われていて。歩兵ならまだしも常に整備・調整の必要な人型乗りに要求することではない、ように思える。
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