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文字数 1,104文字

 その後の事態の進行はとても早く、そして滑らかだった。

 研究所の爆破から数日。
 中部以外の管轄総意として、中部軍の「問題行為への処遇」が行われ、現在の上層部全員が地位を剥奪され、無力化された。詳しくない古谷は知らなかったが、どうやらそれが可能な法律が存在しているらしい。
 不在となった上層部と入れ替わるように代理責任者である甲信越軍の者がやってきて、実質中部は全域が甲信越の管轄下に入る。
 その過程において内部からの抵抗は、ほぼなかった。
 企む時間もないほどに処遇が早かったのもあるのだろう。
 今や敵との戦闘が大幅に減って余裕がある甲信越軍からは実力者が派遣され、その背後には保有する戦闘力なら日本で最大勢力とも言われる近畿軍、そして更に政治的実力者には事欠かないと言われる関東軍が控えている上、軍としての影響力はそこまでないものの日本全域の食料庫でもある北日本も賛成しているとなれば、中部軍は完全な孤立無援状態。
 これで逆らうほど骨がある者がいたならば現在のようにはなってなかったのかもしれない。
 しかも中部軍の軍事力、その大部分を担っていた「向日葵姫」は研究所の完全破壊で、もう無限に使える兵士ではなくなっている。残っているのは研究所から離れていた一部の個体のみ。
 抵抗する気力が失せるのも無理はない。


 この先で、今残っている向日葵姫たち、そして古谷達が知る彼女がどうなるのかは、知らない。


 少なくとも、2度とあの戦場が生まれることはなくなったが……だが、今も存在する向日葵姫「達」(彼女らを戦場に送り込んでいた研究所以外の場所で、兵士として予備的に存在する向日葵姫の「替え」であり実戦配備前で訓練中の彼女らが、非公開の施設内に存在しているのを把握している)がどうなるのか。
 ただの実験体に何が残されるのか。
 …………未来が、あるのか。
 明るい未来を思い描くことは、古谷には出来なかった。
 考えればすぐ、嫌な想像ばかりしてしまう。
 不都合な証拠など隠滅してしまった方が早いと知っている。
 結局は他人事だったからぐずぐずと思い悩むというほどでもないが、それでも気持ちはよくない。喉に刺さった魚の小骨のような気持ち悪さと存在感で、小さな疑問はいつまでも古谷の心に残ろうとする。

 そんな彼を救い上げたのは、あの日と同じく、やはり青薔薇姫だった。
 中部軍が解体されていく情報を前に、何も言わないまま微妙な顔をしていた古谷に、突然独り言のような言葉を投げつける。
「私がこうやってここにいる。なら、彼女も大丈夫だろう」
 ごくあっさりとしたその断定に、しかしそこにある妙な説得力に、彼の心の小骨はあっさりと溶かされた。
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