化け物の根拠

文字数 1,282文字

「貴方はどう思いますか?」
「どうって……あの青の機人の子達? そうね……この前の戦闘記録を見る限りおよそ噂通りらしいわね。正に化け物。興味はあるわ」
「私はね、気になっているんですよ。彼ら自身が化け物なのか、それともあの機体がそう呼ぶに相応しいのか。あれは関東軍が秘密裏に開発した新型機、という可能性もある」
「…………調べるの?」
「私は二人の方を。貴方は機体の方を、お願いします」
「でも、いいの? 関東軍とはいえ重要人物じゃないの、あの子達。規律違反、しちゃう?」
「私はね、私の部隊の誰一人失いたくないんです。これからも」
「まったく。本当に困った人ね」
「断って頂いてもいいですよ」
「…………そして酷い人ね。出来ないの、わかってるくせに」




 甲信越軍2885小隊に青の機人が訪れて三日。
 噂を聞きつけて敷地内では周辺の別小隊の隊員の野次馬が一日中消える事は無い。この辺りには多くの小隊があって交流も多いので個人的に他所の敷地に行くことは珍しくないけれど、今はほぼ猛獣見物のような有り様だった。
 そんな事態にも、噂の主達は慣れているのか気にする様子もなくて。三日の間にも一度何処かへふらっと出かけては青の機体を敵の体液色に変えて帰ってきていた。
(100キロ先の戦場へ行ってたみたいなのよね、どうやら)
 後で周辺戦場の記録を見ればすぐわかった。
 青の機人が現れる戦場は途中から極端な勢いで不利がひっくり返るから。
 どうやって他所地域の戦場まで情報を得ているのかも謎だが、それ以上にタフな二人だ。

 今は青薔薇姫が整備を行っていて、相棒たる古谷疾風の姿は見えない。他の者との交渉など人と関わる部分は全て古谷がやっていて、誰も青薔薇姫が話している所を見た事が無かった。
 古谷の話からして会話は出来るようではあるけれど。
「ねぇ、ちょっといいかしら」
 周りに人がいないのを見計らって、青い少女に声を掛けた。
 機体と装甲車のある周囲には、嗅ぎ慣れた特徴的な匂いが充満していた。自身も整備が専門なのでその匂いは何処か懐かしさを感じるが、此処が己の場所じゃないせいか肩身は狭い。
(落ち着かないわ)
 操縦席に半身を突っ込んでいた青薔薇姫は、その声に答えない。作業を続けている。
(……まぁ、予想通りかしらね)
 声を掛けた女は苦笑する。
「どうしました? 青薔薇姫に何か用ですか?」
 装甲車の窓から古谷疾風が顔を出した。話が出来そうな相手が不在じゃなかったことにほっとする。
 少年は人好きのする笑顔を浮かべて答えを待っていた。
 黙って去ることは許さないような圧を感じる。
「いえ、別に貴方でもいいのよ。訊きたい事があって来たの」
 本当は、この少年では少し困る。
 態度こそ穏やかで柔らかく話しやすそうだが、彼からは得体のしれなさと揺るがぬ芯の強さを感じる。何より会話は上手いが、どんなに誘導しようが誤魔化そうが宥めようが誘おうが、大事な事は絶対に話さないだろう。そんな気がしていた。
「あ、じゃあそっち行きます。ちょっと待っててくださいね」
 窓から古谷の顔が引っ込んで、すぐに本人が扉を開けて降りてきた。
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