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文字数 1,156文字

「いい天気だねぇ。補給物資もなんとか手に入りそうだし、いい日だ」
「そうだな。これより東の方はだいぶ落ち着いてきたようだし、この辺の敵も大方一掃し終わった」
 並んで座ってのんびりと会話する。
 今の姿だけなら古谷たちが青の機人の操縦者であると分かる人間はいないだろう。
 昨日、二人は新たな勲章を貰い、さらに一階級の昇進が決まった。出撃のたびに増えていく戦果と共に与えられる勲章は、最近では確認する事もなく貰ってすぐに引き出しの奥に放り込まれている。
 古谷もだが、青薔薇姫も勲章に全く興味は示さない。
 放っておくと捨てかねないので彼女の分の含め古谷が管理をしていた。
「美味しいな、やっぱり」
 幸せそうにクッキーを頬張る青薔薇姫は自分の偉業をどう思っているのだろうか。
 とんでもない結果を残し続けている彼女が己を誇っている様を、出会ってから今日まで古谷は見た記憶がない。そんな彼女と共にいて、古谷は己の存在が足を引っ張っているんじゃないかと時々思っている。
「ねぇ、青薔薇姫」
「なんだ?」
「僕は、たまたま君の相棒にされただけで、今の君なら他に相手を選ぶ事はいくらでも出来ると思うよ。僕は今更不満も何もないけどさ、君は…………」
(僕は、君に逆らう権利はないし、君から逃げる権利も無いから、必要なだけ頑張るのみ)
 もし彼女が気を遣っているだけのだとしたら遠慮なく他の誰かを相棒に選んでもらいたいと思う。
 それは紛れもない本音。
 決して否定されたい訳じゃなく大真面目に問いかけた古谷に返ってきたのは穏やかな声だった。
「そうだな。これだけ旨い物を作れて、整備や調整も出来て、お前以上に射撃の腕があって、何より私のことを信頼してくれる見た目の良い奴がいるなら考えてもよいが」
 予想外な返答。
 きょとんとして相方をみつめた少年に、青薔薇姫は滅多に見せない悪戯っぽい笑みを返してきた。本当に珍しく表情を出したその様子に、さらに別の意味で古谷は戸惑う。
 その変化に気づいているのかいないのか、更に青薔薇姫は続けた。
「古谷、自信を持て。お前は滅多にいない変な人間だ」
 褒められてるんだか、貶されてるんだか。
 判断には困るが、彼女が励ましてくれようとしていることだけは判った。
 古谷は困ったのを誤魔化すように、笑う。言葉だけならとても嬉しいのだが、何故か素直に喜べない。とても複雑な気分だ。
「本当に美味しいな、このクッキー」
「……うん、ありがとう」
(俺なんかより、君の方がよっぽど変な人間だと思うんだけど)
 春の日差し。爽やかな風。
 毎日の過剰労働で疲れの取れない体。それでも、他に道は無いから。

 ココで立ち止まることで失われる命がある。そんなこと、真実であっても彼にとってはどうでもいい。
 今こうやって居られる時間の為に、古谷は戦っている。
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