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文字数 1,272文字

(あー……なんでこんな事に?)
 置かれた状況に、古谷は正直なところ辟易していた。
 温泉を楽しんだ後、戦線に合流するために青薔薇姫の操縦する人型に先導してもらいながら装甲車を、舗装の半端な怪しい道を冷や冷や神経すり減らしながら走らせて、昼も近くなった頃にようやくそれらしき陣を構える場所にやってきた。
 車が通れる程度の幅がある道らしきものがあったのは、恐らくその戦線への補給路だったのだろうと思う。敷いたは良いがなんらかの事情で使われなくなって寂れたのだろう。
 長く降着する大戦線においては補給路がころころ変わるのは結構ある話だと青薔薇姫にも聞いたことがある。ずっと同じ道を使っているとそこを敵から狙われやすくなる、らしい。
 とにかく深い森をどうにか抜けて戦場まで辿り着いた。
 そんな時、先に到着していた青薔薇姫からの通信が入ったのだ。
『古谷……動けない。早く来てくれ』
 あの人外な操縦技術を持っている青薔薇姫をして動けないと言わしめる状況とは一体何が起きたんだと心臓が縮むような気持ちで装甲車の速度をあげて。
 青薔薇姫の停止した辺りまでやって来て、それを目にした。
 車を止めて、とりあえずため息をつく。

 大勢の軍人に囲まれた、青い人型。
 確かに一歩でも動けば、足元の誰かを踏んでしまいそうだ。

 激戦区だからそれだけ滞在している者も多いのだろうが、しかしなんだってあんなに取り囲まれているのかが理解できない。戦場において人型なんて、そう珍しくもないだろう。
 ドアを開け、外に出ようとした古谷の耳に近くにいた兵士たちの会話が聞こえてくる。
「おい、あれ本当に『青の機人』なのか? っていうか何で関東軍じゃなくてウチの陣なんかにやって来てんだよ? 本物か?」
「僕に解る訳ないでしょ」
(あー……成る程、そういう訳か)
 ココに来るのが大変で、関東軍とかそういうことまったく考えずにいた。けれど、向かっていた方向的に関東軍に合流する気でいたのだけれど、どうやら甲信越軍が陣を構える敷地に出てしまったらしい。
 甲信越軍では『青の機人』は噂が一人歩き状態だ。
 そんな中でいきなり真っ青な人型が単独で陣の中に入ってきたら、こういう事態になるのも仕方ないのかもしれない。識別信号の解読が直ぐに出来ないのもあって先に騒ぎになっていた可能性だってある。
 これは自分達の落ち度だ……しかしこのままでは、いつまで経っても青薔薇姫と機体の回収が出来ない。

 車の中に戻って、古谷は備え付けられたマイクのスイッチを入れる。
 車外に設置されている拡声器。まさかこれを使う日が来るとは思わなかった。
 すっと息を吸い込んでから一気に捲し立てる。

『あー、甲信越軍所属で青い人型の足元に居る者達に告げる。
 こちら関東軍直属・独立支援型人型機部隊、古谷です。とりあえず全員そこからさっさと退避してください。そこに居られちゃいつまでも機体の回収が出来ないです。あと30秒以内に退避しない場合、特殊軍命遂行妨害で全員降格するよ?
 いーち、にーい、さーん、しーい…………』
 15秒で退避は完了した。
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